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リバーステイル・ロマネスク  作者: 旅籠文楽
3章 - 《掃討者の日々》

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69. 〈侍〉カグヤ - 4

 


     [4]



 採掘作業は結構な長丁場となり、最終的には一時間半ほど掛かった。

 よほど長期間に渡り手つかずの鉱床であったのか、表層として採掘可能な部分だけでもかなりの厚みがあり、思いのほか採掘作業に時間を取られてしまったのだ。

 もちろんそれは、作業の成果がそれだけ大きいことを意味している。今回の採掘でシグレが手に入れた鉄鉱石の数は、およそ300個。更には40個ほどの銀鉱石と、他には『キアヒ鉱石』という名の初めて見る鉱石も採ることができた。




+----------------------------------------------------------------------------------+

 □キアヒ鉱石(37個)/品質[88-105]


   【素材】  :〈縫製職人〉〈錬金術師〉〈薬師〉〈調理師〉


  | 海に近い鉱床で採れる、ぼろぼろと崩れやすい鉱石。

  | 地金(インゴット)に加工するには強度不足ながら、様々な生産に用いられる。


+----------------------------------------------------------------------------------+




 どうやら『鍛冶』に使う鉱石ではないらしい。鉱石を一体どうやれば『縫製』に使うことができるのかはさっぱり判らないが、この辺はあとでカグヤか誰かに訊くなり、調べてみるのが良いだろう。

 大量に採れた鉄鉱石の品質は粗悪なものばかりだが、それとは対照的に銀鉱石とキアヒ鉱石の品質は高い。その分これらの鉱石は『再生』が遅くなるだろうから、次回以降は採れづらくなることだろう。


 採掘作業は途中から、地面に『薪』を焚きながらの作業となった。作業に際して追加の光源が欲しかったのもあるが、迷宮内で長い時間を過ごすと『最大HP』が低下してしまうため、薪のそばで過ごしてそれを回復させる必要があるからだ。

 昨日ユウジに頼み、薪を幾つか分けて貰っておいて良かったと今更ながら思う。どのみち一撃の被弾で死が見えるシグレはともかく、カグヤと黒鉄のHP量は少しでも多く保っておくに越したことはない。


 ちなみにシグレは3種合わせて400個弱もの鉱石を手に入れたわけだが、おそらくカグヤが手に入れた鉱石量は、その倍以上はあるだろう。理由は単純で、採掘作業の速度がシグレとカグヤでは段違いだったからだ。

 〈鍛冶職人〉として非常に高いレベルを有するカグヤは、おそらく採掘に関わるスキルも幾つか修得していたのだろう。シグレよりもずっと大量の鉱石を確保したカグヤからは「よければ半分こにしませんか?」とも提案されたが、これは丁重に断った。

 鉄鉱石には時間経過で品質が低下しないので消費を急ぐ必要は無いし、現時点で『鍛冶』に手を出せていない以上、シグレが手に入れた鉄鉱石は〈ストレージ〉の中に当面積まれることになるだけだろう。だったらシグレの手元で無駄に保管されるよりは、カグヤの元で有効に活用される方が余程良いと思う。


「そろそろ戻りましょうか。今から戻れば、余裕をもって昼前に着けそうですし」

「あ、はい。そうですね」


 シグレの提案に、カグヤもすぐに頷いてくれる。

 いつも正午から夕方までの時間、カグヤが『鉄華』の店番に立つようにしていることをシグレは知っている。可能ならば昼頃までに都市へ戻るほうが良いだろう。


『―――主人』

「……ん。魔物が来た?」


 黒鉄の《魔物感知》スキルの修得ランクはシグレよりも高く、魔物を感知できる範囲も黒鉄のほうがずっと広い。シグレの《魔物感知》範囲内には何も捉えてられていないが、黒鉄ならば察知できている場合がある。


『こちらへ向かって移動しているわけではないが……。唐突に纏まった数の魔物が一箇所に出現した。済まないが我の方にも地図情報を共有して欲しい』

「了解」


 〈斥候〉は自分が《地図製作》スキルで得ている地図の情報を、味方に共有することができる。《魔物感知》の情報と照らし合わせれば、地図上で魔物が存在する位置を把握することも可能だ。

 逆に黒鉄もまた、《魔物感知》で察知した魔物の存在する位置情報を、シグレに共有してくれている。なのでシグレの方からでも、二つの情報を照合させた結果を視界に表示させることができた。


『間違いないな。地上へ戻る帰路の途中に、魔物7体の群れが現れている。魔物の種別までは我では判らぬが……』

「いや、十分だよ。ありがとう」

『役立てたなら何よりだ』


 《魔物感知》だけでは、魔物のいる位置と個体数しか判らない。具体的な魔物の種別などを確認する為には《千里眼》を飛ばす必要があるが、黒鉄には不可能だ。

 《千里眼》で視界を飛ばせる有効距離は200メートルが限界だ。なので魔物の種別を調べるためには、もう少し魔物の群れに接近する必要がある。


「シグレ……? 魔物ですか?」


 全ての会話は黒鉄とシグレの二人だけでやり取りされているが、その場で動かずに会話していた為だろうか、カグヤが訝しむような声を上げた。


「ええ、少し困ったことになったかもしれません。すぐに動けますか?」

「特に疲労もありませんので、大丈夫です。戦えます」

「それは頼もしい。では移動しましょう。付近にこれ以上、魔物が出現(スポーン)するようなことがあれば、さらに面倒なことになるでしょうから……」


 ―――しかし、なぜ一度に7体もの魔物が、密集して湧いたのだろう?

 ここまでの道中で遭遇した魔物が、どれも3体以下であったことから考えても、シグレにはどうしてもそれに得心がいかなかった。



     *



「……なるほど」


 シグレの《魔物感知》の感知範囲は200メートル。魔物7体の気配を有効距離内に捉えたのを確認してから《千里眼》を飛ばせば、その答えはすぐに判った。


 ―――地上へと戻る通路のど真ん中に『宝箱』が鎮座していたからだ。

 つまり7体もの魔物が一気に現れたのは、宝箱が洞窟内に出現したことで、一緒に『宝の番人』として出現してしまったからなのだろう。


(……不味いな。これは考え得る限り、最悪のパターンだ)


 動揺を見せないよう努めながらも、シグレの背筋には一際(ひときわ)冷たいものが走る。


 シグレはここまで、今回の『ゴブリンの巣』への採掘行を、それほど危険は多くないものだと考えていた。というのも、この〈迷宮地〉に巣くう魔物は昨日の内にあらかた片付けてしまったからだ。

 もちろん、元々この〈迷宮地〉に『生息』している魔物は、倒された所で即座に再出現(リポップ)するのだが。昨日の帰路で遭遇した魔物の群れの個体数から察するに、本来の魔物配置数がそれほど多くない場所であることは見当がついていた。

 魔物3~4体程度までであれば、ユウジがいなくとも問題無く狩れると考えればこそ、今日この場所を再探索しても『リスクは少ない』とシグレは判断したのだ。


 逆に言えば―――そう判断できなければ、絶対に来ようと考えなかっただろう。『天擁(プレイア)』であるシグレや使い魔である黒鉄は、死んでも問題無く生き返ることが可能だが。『星白(エンピース)』であるカグヤはそうはいかないのだから。


(魔物の構成は、昨日と同じか……)


 『宝箱』の付近に群れている魔物は、前衛のホブゴブリンが3体と後衛のゴブリン・アーチャーが3体。それから―――もちろんゴブリン・ジェネラルも居る。


 残念ながら、正面から戦うのは無謀だろう。これらの魔物を昨日相手にしたときには、防御力もHP量もべらぼうに高いユウジでさえ、相当にダメージを負う羽目になったのだ。

 HP量は相応にあっても、カグヤに防御力はない。レベルが高い多数の魔物から包囲されて一気に攻撃を受ければ、到底耐えきれるものではないだろう。


 それにしても、昨日の『宝箱』は全て小部屋に配置されていただけに……まさか通路にも配置されることがあるとは思わなかった。さほど広くもない幅の通路に、屈強な前衛の魔物が4体も並ばれたなら、それを回避して通路を突っ切るのは至難の業だ。

 しかし、迂回する(みち)はないのだ。地上へ戻る為には、どうしても『宝箱』のある通路を通過しなければならない。


(―――いや。黒鉄ならば、あるいは通れるか)


 ホブゴブリンもゴブリン・ジェネラルも、背が高い魔物であるだけに、足下付近にはどうしても隙が生じやすい。

 ならば魔物が通路を封鎖していても、魔犬である黒鉄だけならば、股下を抜けるなどして擦り抜けることも不可能では無いだろう。……けれども、低身長とはいえカグヤに同じことを期待するのはさすがに難しいか。


『黒鉄、お願いが―――』

『断る』


 パーティ会話ではなく、黒鉄だけに聞こえる『念話』でシグレは言葉を紡ぐ。

 すると黒鉄は、即答でそんな言葉を返してきた。


『……断りたいと、本音では思う。主人が我に与えたい役目には察しがつく』

『ごめん、引き受けて欲しい。黒鉄にしか頼めない』

『本音を言えば、そのような命令は断固として受け容れたくはない。

 ―――が、我は使い魔だ。敬愛する主人に望まれれば、引き受けざるを得ない』


 はあ、と溜息を零しながらも、黒鉄は受け容れてくれる。

 酷い『主人』だな、と我ながらシグレは思う。カグヤは今日、シグレの使い魔に対する接し方を『優しい』と評したが―――それは間違いだ。結局シグレは黒鉄の意志を無視して、彼に自分の求める役割を強要してしまっている。


『ありがとう、黒鉄。カグヤを無事に街まで送り届けて欲しい』

『……判った。この一命に代えても必ず。だが、策は何かあるのか?』

『カグヤだけなら何とか魔物を回避させられると思う。申し訳ないけれど、黒鉄は自力で魔物7体が詰める通路を擦り抜けて、突破して欲しい。できる?』


 ふむ、と黒鉄は暫し考える素振りをみせる。


『主人の支援が受けられるならば、避けて通るだけなら可能だろう』

『じゃあそれでお願い。上手く二人が魔物の群れを抜けたなら、壁を作って安全を確保するから。その後はカグヤと一緒に地上へ』

『心得た。……主人も、なるべくなら死なないで欲しい』

『うん、頑張るよ。最初から勝ちを諦めるつもりはないから』


 それはシグレの正直な気持ちだった。カグヤの安全確保の為になら、デスペナルティを被ることぐらいは何でも無いが―――少なくとも、わざと殺されるつもりは全くない。


 弓を〈インベントリ〉へ収納し、代わりに杖を取り出して装備する。

 カグヤを騙すことになるけれど……。やっぱり後で怒られてしまうだろうか。

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