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リバーステイル・ロマネスク  作者: 旅籠文楽
3章 - 《掃討者の日々》

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65. 狩りを終えて - 2

 


     [2]



「はあ~っ……」


 熱い湯に身を浸すと、自然と肺の深い場所から溜息が零れ出た。

 狩りを終えてもまだ身体にどこか残っていた緊張感が解されると共に、思いのほか身体に蓄積していたらしい疲労感が唐突に意識されるようになる。とはいえ、それも熱い湯の中に身を浸しているだけで、ゆっくりと溶け出ていくようだった。


 ―――『貸湯温泉・松ノ湯』。1,500gita前後の料金を払って利用している、いつもの浴場よりも2ランク高い今回の浴場は、三時間までの利用で3,300gitaと、普段の実に倍以上の料金が掛かる。

 その代わり露天風呂の上部に雨避けの何かが施されているらしく、本来であれば露天の湯にまで直接届くはずの雨は、どうやら空間の上部で阻まれていて届かないようになっているらしい。

 これはおそらく、シグレが王城の中庭、その天井部に見た雨避けの仕掛けと同じものだろう。実際にどういう仕組みで雨を阻んでいるのか皆目見当もつかないが、こちらの世界では一般的に利用されるものなのだろうか。


『嗚呼……風呂は、良い。非常に良い、ものだ……』


 こちらの世界に来てからというもの、シグレはすっかり温泉が大好きになってしまったが―――温泉に対する愛情は、シグレ本人よりも使い魔である黒鉄のほうが強かったりもする。

 何しろ日が暮れる頃合になると、毎日のように『今夜も無論行くのだろう?』とシグレをせっついてくる程なのだから、余程気に入っていることが容易に伺える。


「本当は黒鉄さんも一緒に入れれば良いのですけれどね」

『全くだ。だが、それが人の世の決まり事ならば、仕方あるまい……』


 そう告げながら、湯桶に掬った湯を黒鉄の身体に掛けてあげているのは、武具店『鉄華』の主人であるカグヤだ。


 今晩はシグレに、キッカとエミル。そのいつもの三人にカグヤも加わった四人で温泉の利用に来ていた。

 キッカの親友であり、シグレと念話で話す機会も多い彼女は、キッカやエミルのように毎日というわけではないものの。最近では2~3日に一度のペースでシグレ達に混ざり、一緒に温泉を楽しむようになっていた。


 ここ『松ノ湯』では使い魔を伴ったまま湯殿に入場することは許されているが、使い魔を湯船に直接浸からせることは禁じられている。

 代わりに黒鉄がそのまま浸れる大きさのタライを無料で貸し出してくれるので、いつも黒鉄はタライに張った湯の中に身を屈めるようにして湯を楽しんでいた。


「にしても黒鉄は本当に大きくなったよね……。最初に会ったときは、僕の膝より上ぐらいの体高だったのに。今は立ち上がったら、僕の腰ぐらいはありそうだ」

『主人から大量の魔力を貰っているからな。レベルも上がっているし、我の体躯も幾らかは成長するだろう』

「シグレのMPって、回復速度が半端無いもんねえ……」


 わざとらしく溜息を吐いてみせるキッカに、シグレはただ苦笑して応える。


 今日『ゴブリンの巣』で大量の魔物を討伐したこともあり、黒鉄のレベルは更にひとつ上がって『15』へと成長していた。

 最近ではエミルのレベルアップも著しいが、食事中だろうと睡眠の最中だろうと常にシグレから余剰魔力を受け取り、経験値を稼ぎ続けている黒鉄が相手ではさすがに分が悪い。

 それほど経たないうちに、この場に居る面子の中で黒鉄のレベルが最も高くなるだろうことは、疑いようの無いことだ。

 ……もちろん、ぶっちぎりの最下位が永遠にシグレであろうこともまた、それと同じかそれ以上に疑いようのないことでもある。




+----------------------------------------------------------------------------------+

 クロガネ/召喚獣


   戦闘職Lv. 15:魔獣


   最大HP:500 / 最大MP:559


   [筋力]  40    [強靱]  37    [敏捷]  47+42

   [知恵]  20+101  [魅力]  20+74  [加護]  26+37


-

   ◇ HP回復率[5]: HPが1分間に[+25]ポイント自然回復する


+----------------------------------------------------------------------------------+




 しかも使い魔である黒鉄は、主人であるシグレの能力値の一部を、自身の能力に加算することができる。

 最初はシグレの各能力値の『20%』が加算されていたのだが、黒鉄がこれまでにレベルアップで得た大量のスキルポイントの内から5ポイントを消費することで、一気に最大ランクまで修得させた《従僕の忠節》のスキルにより、現在はシグレの各能力値の『35%』が黒鉄の能力に加算されている。

 そのせいで、黒鉄はスペルが使えないのが勿体ないほど『魔術師』寄りの能力値(パラメータ)になっていたりするのだが……。[知恵]や[魅力]はともかく、[敏捷]が大きく引き上げられるのは大きく、最近ではレベルによる成長以上に、戦闘中に以前にも増して素速い動きを披露するようになっていた。


「うぐっ。黒鉄さんとのレベル差が、とうとう倍以上に……」

『……まあ、そのなんだ。あまり気を落とすな。使い魔として色々と恵まれすぎている我と較べるのが、そもそも間違っていると思うぞ』


 ここ暫くで黒鉄とエミルは大幅にレベルが上がっているし、〈騎士〉と〈槍士〉の複数職(マルチクラス)であるキッカだってかなりの成長を示している。シグレだって、カグヤと初めて会った時はレベル『1』だったのだから、その頃に較べれば僅かながら成長しているとも言える。

 しかし一方で、カグヤの『戦闘職』のレベルは初めて会った時の『7』から全く成長していない。

 彼女の本分があくまでも『職人』にあり、元々掃討者という仕事自体にそれほど積極的でないというのもあるのだろうが。最近はシグレが付与できるようになった『損傷耐性』を活かした武器の開発に傾倒するあまり、カグヤが掃討者として活動する機会が完全に失われてしまっているのが最大の理由だろう。


「うう……レベル上げたいし、暫くは掃討者業に専念しようかなあ……。鉱石類も最近は随分値上がりしてきちゃったし……」

「素材の値段相場については全く存じませんが……そうなのですか?」

「あ、はい。―――ほら、とうとう雨期に入ってしまったじゃないですか。だから鉱石に限らず、殆どの輸入ものは値上がりし始めているんです」


 カグヤの話によると、ここ『王都アーカナム』近郊では金属鉱石が殆ど採れないらしい。魔物のドロップ品として多少の供給はあっても、肝心の鉱山が近場に存在しないため、鉱床が少なく纏まった量の供給がなされないのだ。

 そのためこの都市で用いられる金属は、その殆どを輸入に頼っている。金属鉱石は近い所だと、都市を出て北に向かった先にある森林の街『フェロン』から運ばれてくるそうだ。製錬済の地金(インゴット)であれば東の交易路を伝い、こことは別の中央都市(ラウリカ)である『東都アマハラ』から運ばれてくるものも多いらしい。


 雨期ともなれば、交易路を走る荷馬車の数は減る。特に北の『フェロン』へと繋がる林道は、あまり強い雨が降るとぬかるんでしまうため、馬車の通行に少なからず支障が生じることもある。

 『東都アマハラ』へと繋がる東の街道であれば、整備が行き届いているので雨が降っていても問題無く走ることができるらしいが。それでも、行商人の人達が雨期の時を好むはずもなく、街道を往来する荷馬車も減少傾向にあるそうだ。

 荷馬車の数が減れば都市間を行き交う交易品の数量は減少する。供給量が減れば品物の単価がじりじりと上がり始めるのも、当然のことだといえた。


「そう言えば、今日行った『ゴブリンの巣』という〈迷宮地〉には、中にちょっとした鉱床がありましたよ。生憎と採掘道具を持っていませんので、殆ど掘ったりはしていないのですが」

「―――そっ、それは本当ですか!?」


 驚きに目を丸くしながら。ざばっと、湯から勢い良く立ち上がるカグヤ。


「……!?」


 その勢いに引っ張られてか―――湯を吸って重さを増していた、カグヤの全身を覆うタオルが、シグレの目の前ではらりと湯の中へと落ちた。

 慌ててシグレはカグヤの身体から目を逸らすものの、問い詰めるかのように彼女はシグレの側へ身体を密着させてくるものだから、シグレは気が気ではない。


「か、カグヤっ! タオル、タオル!」

「へ……?」


 脇のキッカから突っ込まれ、カグヤはようやく自分の身体を確認して。

 ―――そうして、耳までもを真っ赤に染めあげながら。ざぶんと勢い良く今度は湯の中に全身を沈み込ませた。


「み、見ました……?」

「……すみません」


 見ていないことにするのが優しさ、とも思ったが。もはや、そういう安易な嘘が通用するような距離感ではなかった。


 カグヤは何も言わずに、じとっと湿った視線をただ静かにこちらへ向ける。

 いっそ責められでもしたほうが楽な気もするが―――カグヤとしても非が自分にあることが判っているので、相手を非難することが筋違いだと判るのだろう。

 彼女はただ、じっと見詰めてくるだけだった。


「……し、シグレさん」

「はい」


 ようやく重い口を開いた彼女は、少しだけ躊躇いならが言葉を口にする。


「明日って、ご、ご予定は空いてますか」

「……何でもお手伝いします」

「じゃあ、その……シグレさんが見つけられた鉱床に、良ければ私を連れて行っては下さいませんか」


 もちろん、悩むこともなくシグレは即座にその要請を受諾する。

 完全な不可抗力だったとはいえ……女性の裸を至近距離で見てしまった以上は、要求を呑む以外の回答など始めから存在しないのだ。

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