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リバーステイル・ロマネスク  作者: 旅籠文楽
3章 - 《掃討者の日々》

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59. ゴブリンの巣 - 3

 


     [7]



 ユウジはその後も、幾つかの戦闘で無双して勝利を収めた。

 シグレが手を出したことと言えば、戦闘開始直後に『壁』を出して、ゴブリンの退路を断ったことだけだ。あとは戦闘の合間にMP回復を促す【星光】のスペルを掛け直したり、【浄化】でユウジの身体を清潔に戻したことぐらいだろうか。


「俺からすれば、戦闘後にケアを受けられるだけでも十分有難いんだがな」


 ユウジはそう言ってくれたが。シグレとライブラの思考が(もうユウジだけ居ればいいんじゃないか?)という結論に達しつつあったのも、また事実ではある。


 ただ―――さすがは〈迷宮地(ダンジョン)〉と言うべきだろうか。そのユウジの単身無双も長くは続かなかった。遭遇するゴブリンの種類に、更にバリエーションが増え始めたからだ。


 最初に増えたのは『ゴブリン・ドルイド』という魔物だった。レベルは『8』とそれまでのものより一段高く、樫の木で作られた『杖』を持っている。

 戦闘が開始すると、まずドルイドはこの『杖』を地面に突き立て、その杖に触れながら何か祈りを捧げるような動作(モーション)を行う。すると、それだけで付近のゴブリン全員に防御力アップの強化(バフ)が掛かると同時に、じわじわとHPが回復するようになり、ユウジの《応撃》だけではなかなか倒しきれなくなるのだ。


 ただ、これだけならそれほど問題にはならない。シグレがスペルで少しドルイドを妨害すれば済むだけの話だからだ。

 【衝撃波】でドルイドの身体を弾き飛ばすだけでも、敵の強化を10秒近く無効化することができるし、いつも通り【捕縛】で拘束するのも有効だ。

 祈りを捧げているドルイドは無防備状態なので、召喚術師のスペル【大鴉召喚】で空を飛べる『大鴉』を召喚し、洞窟の天井側からひたすら(つつ)かせて祈りの動作を邪魔し続けるという手もある。


「―――【粉砕(ペグロフ)】!」


 もしくは、杖そのものを【粉砕】のスペルで破壊するというのも有効だ。品質が『70』未満のアイテムを一定確率で破壊できるこの秘術師のスペルは、成功すればドルイドが地面に突き立てた『杖』自体を消滅させることができる。

 どうやらドルイドは『杖』を失うと途端に何もできなくなるらしく、あとは素手のまま特攻を試みることしかできない。―――無論、そんな魔物はユウジにとってカモ以外の何物でもないことは、言うまでも無かった。


「容赦の無ぇ魔法だなあ……」


 杖を失い、何もできないまま殺された憐れなゴブリン・ドルイドを見て、ユウジがぽつりと漏らしたその一言は、褒め言葉として受け取ることにする。


 さらにゴブリンの巣を奥へ進むと、次は『ホブゴブリン』という魔物が登場するようになった。通常のゴブリンよりも随分と大きく、ユウジとほぼ変わらない程の体躯を持つその魔物は、体格に見合う筋力とタフさを備えている。




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 〔ホブゴブリン〕


   妖精 - Lv.10 〔220exp〕

   最大HP:652 / 最大MP:0


   [筋力]  70  [強靱]  79  [敏捷]  57

   [知恵]  46  [魅力]  38  [加護]  56


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 レベルは『10』と、オークより更に2つも高い。何気にレベルが2桁の魔物と戦うのは、シグレにとっても初めての経験だった。


 高い[筋力]を活かして強力な一撃を放ってくるホブゴブリンの戦い方は、オークとよく似ているものの、そこにオークのような挙動の鈍重さはない。移動も攻撃もオークに比べればずっと素速く、明確な弱点が無い強さを持った魔物だ。

 しかも常に『棍棒』で武装していたオークとは異なり、ホブゴブリンは個体ごとに持っている武器が様々だ。『両手剣』や『槍』を装備してより強力な一撃を繰り出してきたり、あるいはユウジのように『片手剣』と『盾』を装備した個体なども登場してくる。


 盾を持っている相手にはユウジの《応撃》が防がれることがあるし、そうでなくとも『槍』のような武器を持つ相手は、ユウジにとってなかなか有効なダメージを与えにくい厄介な相手だ。

 ユウジは片手剣にしては大きめのものを装備してはいるとはいえ、そのリーチは『槍』に比べれば短い。相手の刺突を盾で上手く防いでも、カウンターで放たれる《応撃》が、魔物に十分なダメージを与えられるほどまで深く届かないのだ。


 魔物の集団に1~2体の『ホブゴブリン』が頻繁に混ざるようになり、さらには『ゴブリン・ヒーラー』という純粋な治療役まで登場するようになると、なかなか近接戦闘だけでは戦闘が決着しなくなった。

 槍を持った『ホブゴブリン』は黒鉄が積極的に引き受ける。リーチの長い武器は小回りが利かないため、黒鉄のように低い体格で素速く動き回る相手はなかなか捉えることができないからだ。

 最近になって武器を『脇差』から『打刀』に持ち替えた黒鉄は、口に咥えた白刃でホブゴブリンに無数の切り傷を付けていく。

 武器が大きくなった分、威力も当然上がっている―――筈なのだが。それでもホブゴブリンのような高い耐久力を持ち、そしてドルイドやヒーラーの回復に支えられた相手は、容易に倒せるものではない。


 こうなると、必要なのは決定力だ。

 求められるのは戦況を決定づける強力な一撃。その役目はシグレではない。


「揺らめく炎熱、極陽の焦熱。万物を熔融せしめ、支配する魔力よ―――」


 杖を構えて、スペルの詠唱に入ったライブラ。長い詠唱を必要とするスペルは、それだけ強大な効力を有する証でもある。シグレと違って幾つかの範囲攻撃魔法を扱うことができるライブラは、戦況を傾けるのに相応しい力を有している。

 スペルを詠唱する間はどうしても注意力が散漫になる。ゴブリン・ウォリアーやホブゴブリンはユウジや黒鉄が食い止めてくれるが、遠くでゴブリン・アーチャーの一体が無防備なライブラ目掛けて矢を放ってくるのまでは止められない。


「―――【突風(アガロス)】!」


 精霊術師の【突風】は、文字通り一瞬だけの強力な『突風』を発生させるスペルでしかない。殺傷能力も拘束能力も持たないスペルだが、魔物が放った矢を退けると同時に、相手が二の矢を継げぬよう怯ませる程度の力は持っている。


「【杖は盾に((エルテ・クラリサ))】!」


 さらにシグレは【杖は盾に】を行使する。杖の先端に、傘状に広がる魔力障壁を展開させるこのスペルは、自分の杖を『魔法の盾』として利用可能にし、一定量のダメージを受け止められるようにする。

 ライブラの目前に立ち、シグレは魔力の傘を拡げてライブラを護る。ゴブリン・アーチャーが更なる矢を射掛けて来たとしても、その魔弾からライブラを護る程度のことはできる筈だ。


「―――偉大なる魔力よ、全てを砕く破壊の炎と成れ! 【火球(ヒムカ・レデーズ)】!」


 もっとも、どうやらシグレの心配は杞憂であったらしい。長い詠唱を終えたライブラが高く杖を掲げた、その先端部に集束した炎の塊が、ユウジの目の前に集まっているゴブリンの集団に向けて放たれる。

 炎の弾体はホブゴブリンの一体に命中すると同時に、激しい爆発を巻き起こす。敵のゴブリン全てを呑み込んだ激しい爆炎は、それぞれの魔物の生命を刈り取るのに十分な威力を持っていた。


 全ての魔物が光の粒子に変わり、炎が鎮まった後の戦場は水を打ったかのように静かになる。〈インベントリ〉の中へも沢山のアイテムが入ってきたのが判った。


「―――やりました! 師匠!」

「お疲れさまです、ライブラ」


 できればその呼び方は止めて欲しかったが、この場で咎めるのも野暮だろう。

 コツンと互いの持つ杖の先端を軽く打ち合い、二人の魔術師は健闘を称え合う。


 強力な範囲スペルを有するライブラと、多様なスペルを駆使するシグレ。

 同じ魔術師であっても戦い方がまるで異なる二人だが、それ故に互いにできない部分を補い合うことができる、良い関係(パートナー)だといえた。

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