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リバーステイル・ロマネスク  作者: 旅籠文楽
3章 - 《掃討者の日々》

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58/125

58. ゴブリンの巣 - 2

 


     [6]



 『ゴブリンの巣』の入口。その安全地帯で一行は準備を整える。

 ここまでの道中、ユウジは傘だけを手に武器や防具は一切身に付けていなかったけれど。脛当て(グリーブ)まで含めた一式の金属鎧に、両手剣かと見紛う大きさの片手剣。さらには背の低いライブラぐらいならすっぽり隠せてしまいそうな程の巨大な盾といった装備品を、次々と〈インベントリ〉からと取り出し始めた。


「ここから〈大盾の重戦士:ユウジ〉の本領が見られるわけですね」

「うるせえよ」


 シグレが茶化すと、ユウジは剣の先で軽くゴツンと小突いてきた。

 重そうな剣で突っ込まれれば、本来はかなり痛いものだろうけれど。この世界に於いて味方からの攻撃にダメージはなく、付随する痛みもない。


「ライブラ、この腕輪を装備して下さい。多少はHPを増やす効果があります」

「あ、はい。ありがとうございます」

「食事は食べられますか? 可能ならこれを食べて下さい。こちらもHPを増やす効果がありますから、少しは保険になると思います」


 重厚な金属鎧は身につけるのに時間が掛かる。ユウジの着替えを待つ間、シグレはシグレでライブラの最大HPを少しでも増やそうと躍起になる。




+----------------------------------------------------------------------------------+

 □手編みの腕輪/品質[54]


   魔法防御値:2

   【最大HP+44】

-

  | 組み紐を編んで作られた細い腕輪。

  | 装飾目的のものであり、防護性能は殆ど無い。

  | 王都アーカナムの〈縫製職人〉サンドラによって作成された。

  | 王都アーカナムの〈付与術師〉シグレによって付与を施された。


+----------------------------------------------------------------------------------+

 □唐揚げサンド/品質[62]


   摂食することで240分の間、最大HPが『+31』増加する。

   【品質劣化】:-4.50/日

-

  | バルクァードの唐揚げをスライスして、野菜と共にパンに挟んだもの。

  | 新鮮なうちは食感も良いが、野菜は鮮度劣化が早いので注意が必要。

  | 王都アーカナムの〈調理師〉シグレによって作成された。


+----------------------------------------------------------------------------------+




「あのう……お気持ちは嬉しいのですが。ボクが装備したり食べたりするよりも、これはシグレさんがお使いになったほうが良いのではないですか?」


 HP量だけで考えるなら、ライブラの言葉は正論ではある。

 けれどシグレは、ゆっくりと(かぶり)を振ってそれを否定する。


「僕は『天擁(プレイア)』ですが、ライブラは『星白(エンピース)』です。僕に何かあっても笑い話で済みますが、君に何かあると僕はルーチェに申し訳が立たなくなります」

「う……わ、判りました。有難く頂戴します」

「それに、サンドイッチはちゃんと自分用もありますから。気にしないで下さい」


 〈インベントリ〉から唐揚げサンドをもうひとつを取り出し、ライブラの隣に腰掛けて囓る。まだ別に空腹でもなかったが、サンドイッチひとつ程度ならば難なく食べきることができた。


 ちなみにこの世界では、摂取することで一時的にステータスを強化できるアイテムが三種存在する。〈調理師〉が作る『料理』、〈薬師〉が調合する『増強薬』、そして〈錬金術師〉が生産する『霊薬』の三つだ。

 前者ほど長持ちする代わりに効果は小さくなり、後者ほど持続時間は短いものの効果は強力になる。シグレが昨日作成したばかりの『唐揚げサンド』は料理アイテムなので効果時間こそ『4時間』と非常に長いのだけれど、故に最大HPの増加量はそれほど多いわけでもなかった。

 ―――もっとも、効果が大きくないとは言っても、元々のHPが『16』しかないシグレの場合、食べるだけで最大HPが3倍近くに増えてしまうわけだが。


(〈薬師〉や〈錬金術師〉の生産も、少しはやっておくべきだったかなあ……)


 戦闘では多数の天恵を持っている強みを活かして戦うこともできるが、生産ではそうはいかない。沢山の天恵を持っていても身体はひとつしかなく、結局いちどに行える生産活動もひとつだけなのだ。放置気味になってしまう生産職が出てしまうのも、ある程度は仕方無いことだった。


 同じ『最大HP増加』の効果でも、『料理』・『増強薬』・『霊薬』の三種類はそれぞれ併用して同時に強化を受けることができる。

 もし今後、それぞれの生産に慣れて三種全ての強化アイテムを自前で準備できるようになれば、元々のHP量が乏しいシグレであっても、多少は魔物の攻撃に耐えられる程度の堅さを得られるだろう。


 逆に言えば『料理』だけを複数個食べても、同種の効果が重複して得られることはない。最も高い効果だけが適用され、他は無効になってしまう。

 別種の効果なら得られるので、[強靱]を増やして防御力を強化したりすることはできるのだが、まだシグレはバリエーションを色々取揃えるほど、『料理』に時間を掛けて打ち込んでいるわけでは無かった。


 シグレが現時点で手を出している生産は、『細工』『付与』『調理』『魔具』の四種類。自分ではそれなりに手広くやっているつもりだったが、結局は半分以上の六種類が無着手になってしまっている。

 かといって経験済みの四種類についても、さして生産に従事した時間が長いというわけでもない。我ながら、何とも中途半端なものだった。



     *



 【発光】のスペルを掛けたアイテムは常に光を帯びるようになるため、暗い洞窟の中では照明として役に立つ。

 三人と一匹が持つ武器にそれぞれ【発光】のスペルを掛け、灯りを頼りに洞窟の内部へと進んだ一行が最初に遭遇したのは、魔物六体の群れだった。

 内訳はウォリアー(戦士)が三体にスカウト(斥候)が二体、それからアーチャー(弓手)が一体。もちろん全てゴブリンなので、戦士タイプなら名前は『ゴブリン・ウォリアー』となる。

 レベルはスカウトが最も低い『5』で、ウォリアーとアーチャーは『6』と、それよりもひとつ高い。こちらは黒鉄を入れても四人なのに対し、あちらは六体と数の上では優位であるにも拘わらず、遭遇したゴブリンが最初に取った行動は、ユウジから聞いていた通り『撤退』だった。


「緻密なる魔力よ、望まぬ穢れを阻む障壁を形成せよ―――【魔力壁(エルテ・カカロン)】!」


 相手の退路が一方向だけなら、【魔力壁】か【炎の壁】で塞ぐ。もし二方向あるなら、そちらも【塁壁召喚】で塞ぐ。

 その打ち合わせ通りに、シグレが【魔力壁】のスペルでゴブリンの退路を封鎖すると。勢い余ったゴブリンの一匹が正面から【魔力壁】に激突し、HPに僅かなダメージを受けた。


「―――オラァアア!!」


 勢い良く横薙ぎに振るわれた大きな片手剣。そのユウジの剣先から放たれた衝撃波が、遠く離れたゴブリン・アーチャーに命中する。

 戦闘後、ユウジに聞いた話によると、それは《剣閃》という名のスキルらしい。衝撃波を飛ばすことで、前衛職でありながらも遠距離攻撃を可能にするそのスキルは、〈重戦士〉に限らず片手剣や両手剣をメインに扱う多くの職業(クラス)で修得可能な任意発動(アクティブ)スキルなのだそうだ。

 命中した《剣閃》が、一撃でゴブリン・アーチャーを光の粒子へと変える。弓を扱うゴブリンが排除されたことで、後衛のシグレとライブラの安全が確保された。


 この世界では『MP回復率』を『術師職』の者しか持たないため、多くの掃討者にとって『MP』とは使い捨てのリソースに過ぎない。《剣閃》は消費MPの少ないスキルらしいが、それでも使用する度にユウジは確実にMPを消費する。

 シグレが修得する星術師のスペル【星光】を予め掛けていることで、味方全員のMP回復率は『+2』ずつアップしているものの、それだけで十分な回復量が得られるわけではない。当然、ユウジはMPの消耗をなるべく抑える必要がある。


 そして、消費を抑えても強いのが〈重戦士〉なのだと、ユウジは戦闘前に語ってくれていた。早々に一体を屠ったことでゴブリン全体の敵愾心(ヘイト)を集めたユウジは、シグレ達の前に進み出てその巨大な盾を構える。

 ゴブリン・ウォリアーが振り下ろした粗悪な剣を、ユウジの大盾が受け止める。この、敵の攻撃を『盾で防ぐ』ことや、もしくは『回避する』ことが発動条件となる《応撃》というスキルが〈重戦士〉最大の強みであるらしい。

 攻撃を受け止めたことで、《応撃》による自動反撃(オートカウンター)が発動する。攻撃を防いだ硬直などまるで存在しないかのように、最速反応で繰り出された剣の一撃がゴブリン・ウォリアーの肉体を強烈に打ち据えた。

 その激しい威力にゴブリンの身体が宙を舞い、天井に打ち付けられる。


 ―――つまり〈重戦士〉のユウジは、ゴブリンの集団を相手に、ただ盾を構えて防御に専念すれば良いのだ。

 盾が攻撃を防ぐことに成功さえすれば、即座に《応撃》が発動し、攻撃してきた魔物に強烈なカウンターの一撃を喰らわせる。しかも《応撃》は常時発動(パッシブ)スキルなので、ユウジはMPを消費しない。

 真っ先にアーチャーを倒し、敵の遠距離攻撃能力さえ削いでしまえば。後はもう自動反撃ロボットと化したユウジにとって、無双タイム以外の何物でも無かった。


「……ボクら、できることがないですね」

「そうですね……」

『凄まじき御仁であることだな』


 ゴブリン・ウォリアーはそれなりにタフであるらしく、《応撃》に二発ぐらいまでは耐えるようだが。それでも五体掛かりでさえ鉄壁の護りを示すユウジに付けいる隙はなく、攻撃は確実に盾で防がれ、その度に《応撃》が繰り出される。


「ハッハッハ! もっと本気で来いやァ!!」


 多少でも苦戦するようなら、シグレもライブラもすぐにスペルで援護する所なのだけれど。ユウジは一切ダメージを喰らわず、しかも非常に楽しそうに笑っているものだから、後ろから手を出す気にはなれなかった。


 五対一の筈なのに、単身の側が五体を手玉に取る一方試合。

 なるほど―――〈大盾の重戦士〉の二つ名は伊達ではないのだと。その光景を目の当たりにしながら、シグレも敬服させられるばかりだった。

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