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リバーステイル・ロマネスク  作者: 旅籠文楽
3章 - 《掃討者の日々》

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57/125

57. ゴブリンの巣 - 1

 


     [5]



 一行はもう少しだけ街道を進み、付近にある『ゴブリンの巣』へと侵入する。

 但し、入ったのはあくまでも〈迷宮地(ダンジョン)〉の入口すぐの所までだ。岩肌が露出した洞窟内は寛ぐのに良い場所とは言えないが、とりあえず雨は避けられる。


 一般的に〈迷宮地〉の入口は、野外区域(フィールドエリア)と〈迷宮地(ダンジョン)〉とを区切る空白地帯となるため、そのどちらに生息する魔物も入ってくることがない安全地帯として機能するらしい。

 ユウジからそのことを教わり、《魔物感知》のスキルで付近に魔物の存在が無いことを実際に確認してから、ようやく一行は落ち着くことができた。


 【浄化】のスペルで濡れた服を乾かし、靴の泥も落とす。それだけのことでも、随分と快適になった気がする。


「あの……本当に、色々とご迷惑をお掛けして、すみませんでした」


 一息ついたことで心も平静を取り戻したのだろう。

 まだ僅かに目元を赤く泣き腫らしながらも、三角帽子の少年、ライブラは改めてシグレに向けてぺこりと頭を下げてきた。


「気にしないで下さい。別にそれほど迷惑には思っていませんので」

「でも、尾行には気付いていらしたのですよね?」

「衛士の方に教えて頂いただけで、自分で気付いたわけではありませんよ」


 事実、北門で衛士頭を務めるラウゼルに教えて貰うまで、自分では全く気付いていなかった。


「しかし、この見た目で本当に男なのか……? こういうことを言って気を悪くしたら申し訳ないが、正直、間近で見ても女にしか見えないんだが」

「あ、よく言われます。でもボクは、本当に男ですよ」

「ふうむ、日本(あっち)と違ってこっちはファンタジーだなあ……。幸いこの〈迷宮地〉はそれほど都市から遠いわけでもないし、一旦戻るとするかね」

「そうですね。ライブラを都市へ送り届けてから、出直すとしましょう」

「えっ」


 ユウジとシグレの会話を聞いて、ライブラが驚きの声を漏らす。

 この場で置いていかれて当然、とでも考えていたのだろうか。確かに、都市からそれほど離れていないから、この場で別れてもライブラがひとりで都市まで帰れる可能性は高い。


 ―――しかし、外は雨であり、杖を持っているライブラは『魔術師』なのだ。

 この辺りの魔物は好戦的というわけではないものの、それでもおよそ20メートル圏内にまで近寄れば、あちらから襲ってくる程度には攻撃的でもある。

 《魔物感知》を持つシグレならば魔物を避けて都市まで帰るのも難しくないが、雨で(けぶ)る視界の中でライブラが上手く魔物を回避できるかは判らない。

 もし迂闊に警戒範囲内に踏み入り、ウリッゴなどに襲われることがあれば、魔術師である彼が個人で対処できるとは限らないのだ。


「ま、待って下さい! そこまでご迷惑を掛けるわけには!」

「もし君に何かあったら、僕がルーチェに申し訳が立たないのです。ここは街まで送らせて頂けませんか」

「〈迷宮地〉の攻略ですよね!? ぼ、ボクも一緒に戦わせて下さい!」

「……それは、お前さんも俺達のパーティに参加するってことか?」


 ユウジの言葉に、ライブラは何度もコクコクと首肯する。

 ライブラの反応を見て、ユウジが(どうするんだ?)と視線でこちらへ問いかけてくる。折角『天擁(プレイア)』だけでの、リスクが無い気軽な狩りだと思っていただけに、本音を言えばあまり『星白(エンピース)』の彼が混ざるのは思わしくないが……。


「きっと危険ですよ……? 今なら安全に街まで送り届けられます」

「危険は承知の上です! 魔術戦闘の訓練にも参加経験がありますから、足手纏いにはならないと思います!」

「……判りました。では、ルーチェに念話で許可を伺いますが、構いませんか?」


 ルーチェの名前を出されたことで、ライブラは一瞬だけ表情に判りやすい動揺を浮かべるものの。けれど、やがて頷くことで答えてみせた。


 何度目かの念話をルーチェに送り、ライブラをパーティに参加することの是非を問うと。彼女は『本人の好きにさせて欲しい』とあっさり回答した。


『リスクを織り込み済みで本人がやりたいと言うのなら、別に止める必要はない。王城で戦闘訓練を受けたことがあるのは事実だし、仮にライブラに何かあった場合でも、その責はシグレには無い。迷惑でないなら許可してやってくれ』

『……本当によろしいのですか』

『構わん。それにライブラは複数の術職天恵を持つ魔術師でもある。シグレの近くで共に戦うことは、彼にとって学ぶ所が大きいかもしれん』


 却って自分のほうが学ぶ所が大きいのでは―――と、ルーチェの言葉にシグレは内心で苦笑する。そもそもシグレは、本来の『魔術師』が戦闘でどういった役割を担うのかを、エミルやキッカから伝聞で教わった程度にしか知らないのだ。

 王城で正式に戦闘訓練を受けているというのであれば、実戦の中で見出した独自の戦い方しか知らず、レベルも『2』と低い自分などよりも、寧ろライブラの実力の方が上ではなかろうか。


「彼の上司の許可は得られましたが。ユウジは、それでも構いませんか?」

「構わんぞ。近くに居てくれる分には、魔物のターゲットを俺に集めるのは難しくないからな。魔術師の頭数が増えるのは、それほど悪いことではない。

 ……ただ、上手く遭遇できればボスと戦うのも良いと考えていたが、それは無しだな。さすがに『星白』を抱えてボスと対峙するのは、リスクが高すぎる。今回の所は〈迷宮地〉内の魔物をせいぜい大量に間引いて、討伐報酬を貰うとしよう」

「判りました。では、ライブラもパーティに誘って下さい」


 パーティのリーダーはユウジに任せているので、シグレには第三者をパーティに勧誘する権限がない。

 ユウジ伝いに勧誘を受けて、すぐにライブラも同じパーティに加入する。早速、彼のステータスを確かめて見ると。なるほど―――ルーチェの言った通り、ライブラもまたシグレと同じく術師職の天恵を複数有していた。




------------------------------------------------------------------------------------

 ライブラ/妖狐種(フォレンサ)


   戦闘職Lv.4:秘術師、伝承術師、精霊術師

   生産職Lv.4:縫製職人


   最大HP:123 / 最大MP:443


   [筋力] 18   [強靱]  9  [敏捷] 42

   [知恵] 82+10  [魅力] 84  [加護] 56


-

   ◇ MP回復率[15]: MPが1分間に[+66.45]ポイント自然回復する


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「えっと―――姓は『トラップ』で、ライブラ・トラップと言います。〈秘術師〉と〈伝承術師〉、それから〈精霊術師〉のスペルを使うことができる魔術師です。どうぞ、よろしくお願い致します」

「姓があるってことは、貴族か。―――なるほど、その杖は王城のものだな。

 ステータスを見させて貰ったが、種族は『妖狐種(フォレンサ)』か。この辺じゃ珍しいな」

「え? あ、はい。この通り、そうですが―――」


 ユウジの言葉に頷き、ライブラが頭に乗せている三角帽子を外すと。その重たい帽子から飛び出すように、頭部から露出した二つの耳がピョコっと姿を見せる。

 それは、まるで動物を模したような耳だった。いわゆる『ケモミミ』というやつだろうか。オンラインゲームでは動物を模した種族の特徴として、それほど珍しいものではない。

 『妖狐種』という種族名の字面(じづら)から察するに、おそらくは狐の耳を模したものだろうか。現実(リアル)のキツネがどういう形状の耳をしていたか、シグレは思い出そうとしてみるが……うろ覚えではっきりとは思い出せなかった。


「―――って、そっちですか? 確かに種族も珍しいのかもしれませんが、ボクの場合はそれよりも天恵のほうがレアだと思うのですが」

「あー……うん。そういえば、そうだなあ。『術師職』の天恵を3つも持ってれば、普通は十分にレアなんだよなあ……」

「な、なんですか!? そのビミョーな反応は!!」

「いや、だってそこにもっとイカれた天恵の奴いるし……」


 そう告げながら、ユウジはシグレのほうを指さす。

 『イカれた』って。他にもっと言い方は無かったのだろうか……。


「……な、なんですか、これ……!?」


 シグレのステータスを確認したのだろう。身体ごと声を震わせながら、ライブラは信じられないものを見るかのような目で、視界内に展開したウィンドウの情報を凝視している。

 驚きを露わにしたその表情のまま、今度はシグレのほうを見詰めてきて。


(ああ……ライブラからは、何て言われるんだろうなあ……)


 そう思い、シグレは内心で嘆息する。

 イカれたとでも異常とでも。もう何とでも好きに言ってくれればいい。


「凄いです……!! し、師匠とお呼びしても!?」

「えっ」


 目をキラキラと輝かせながら、憧憬を隠しもしない瞳をライブラはシグレのほうへと向けてくる。

 ―――さすがにその反応は、想定外だった。

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