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リバーステイル・ロマネスク  作者: 旅籠文楽
3章 - 《掃討者の日々》

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54. 〈重戦士〉ユウジ - 2

 


     [2]



「おめでとうございます! 今回のバルクァード159匹の討伐で、シグレさんのギルドカードのランクが『六等』に上がったみたいです!」

「おお、本当ですか」


 ―――早朝の『掃討者ギルド』。

 この時間帯ならではの、閑散としているギルドの窓口。その中で、見知った顔のクローネが担当している席に腰掛けたシグレが、昨日狩猟した『バルクァード』の討伐報賞金の清算を依頼すると。ギルドカードに記録された狩猟データを確認したクローネは、まるで自分のことのように喜びながら、それを教えてくれた。


「ギルドカードをお返ししますので、是非ご確認下さい。それから―――こちらはバルクァードの討伐報賞金16,695gitaになります。併せてお受け取り下さい」

「それほど長時間狩っていたわけでもないのですが……随分と高額ですね?」

「バルクァードに関しては、都市に接近する個体が増えたことで、報賞金もかなり積み増されておりますから。いま討伐なさるのは非常にお得だと思います」


 そういえば、元々シグレに『バルクァード』という魔物のことを教えてくれた、西門を護る衛士頭のガウスもそんなことを言っていた気がする。


 魔物の討伐報賞金は都市の事情によって毎日変動する。都市や街道にとって脅威となっている魔物、あるいは遠からず脅威となるであろう数が増えすぎている魔物などは、報賞金が日ごとに積み増される傾向があるため狩猟時に得られる報賞金も馬鹿にならなくなる。

 バルクァードのレベルは『6』なので、レベルが『7』のウリッゴよりも魔物としては格下になるのだが、報賞金は魔物のレベルと必ずしも比例するわけではない。ウリッゴの報賞金が『60gita』であるのに対し、バルクァードは『105gita』も貰えるというのだから、かなりの大盤振る舞いと言えるだろう。

 さすがにオークに設定された『220gita』という額に比べれば安いが、オークは非常にタフな魔物なので討伐には時間が掛かる。それにバルクァードはウリッゴと同様、換金性が高い素材アイテムを大量に落としてくれるという利点があるため、報酬金額以上の収入を狩猟者に齎してくれるのだから素晴らしい。


 攻撃スペル1発で簡単に撃ち落とせる魔物であることもあり、バルクァードを狩ることが現在のシグレにとって、もっとも金策に都合の良い相手であるのは、疑いようも無い事実だった。




+----------------------------------------------------------------------------------+

 □シグレのギルドカード/品質[100]


  〔掃討者ランク〕

    六等掃討者〔貢献度:3753.0 pts / 6,000で『五等』に昇格〕


  〔未精算討伐記録〕

    (なし)


-

  | 掃討者ギルドに登録した者に発行されるギルドカード。

  | 身分証明であると同時に、魔物の討伐数を記録する装置でもある。

  | 本人以外の〈インベントリ〉や〈ストレージ〉には収納できない。


+----------------------------------------------------------------------------------+




 ギルドカードに記録された『貢献度』の値が3,000ポイントを超えたことで、シグレの掃討者ランクは『六等掃討者』へと昇格した。

 この『貢献度』には、倒した『魔物のレベル』に等しい数値が加算されるため、バルクァード159匹を討伐した昨日だけで、一気に『954』ものポイントをシグレは稼いだことになる。

 これは、ウリッゴやオークを狩るのとは比較にならない多さだと言えた。というのもウリッゴやオークを狩るときには基本的に誰かとパーティを組んでいることが多いため、魔物を倒して得られる『貢献度』は人数割りされてしまうからだ。

 掃討者ランクなんて、気長に上げれば良いかと思っていたのだが。この分だと掃討者として他者から信用を得られる目安となる『五等掃討者』へ昇格できる日も、それほど遠くは無さそうだ。


「にしても、本当に素晴らしいです。掃討者としての活動を始めてから、まだ日が浅い筈ですのに、もう六等になられるとは……。

 ―――あ。そういえば、シグレさんって治療系のスペルも使えましたよね?」

「ええ。もちろん、幾つかは使えますが」

「今日のご予定って空いてたりされます? その……私が担当する機会の多い掃討者でひとり、大変に腕利きの方がいらっしゃるのですが」


 シグレのレベルからすれば大抵の掃討者は自分よりも格上にあたるが―――。

 ギルド職員のクローネをして『腕利き』と言わしめる程とは、一体どれほど高いレベルにある人なのだろうか。


「どこかに単身で狩りに行くつもりでしたので、空いてはおりますが……。それはつまり、その『腕利き』の方が治療役を探しておられるということでしょうか?」

「そうなります。『雨期』に入りましたので、これから暫くは野外(フィールド)で狩りをするのが少し大変になってしまうじゃないですか。それで、その方は〈迷宮地(ダンジョン)〉に行こうと考えておられるのですが」

「ダンジョン……と言うからには、やはり洞窟か何かでしょうか?」

「必ずしも〈迷宮地〉が洞窟とは限りませんが、今回はそうですね」


 なるほど。洞窟であれば当然天井があるだろうから、雨を避けながら狩りができるというわけだ。……なんだか多少蒸れそうな気もするが。それでも直接雨に濡れながら狩りをするのに比べれば、それは十分に快適な環境だろう。

 相手がどの程度のレベルの人なのかは知らないが『治療役』ということであればシグレにも務まるだろうか。……いや、あまり魔物のレベルが格上の狩場に連れて行かれたりすれば、それはそれで黒鉄が狩りを楽しめない気がする。


「実は、その治療役を探している方。シグレさんと同じ『天擁(プレイア)』の方でして」

「―――えっ?」


 クローネが漏らしたその一言は、シグレに興味を湧かせるには十分だった。

 温泉でキッカとも話す機会は多いのだが―――この世界は、本当にプレイヤーの人が少ないのだ。ここに来てもうすぐ一ヶ月が経とうというのに、未だにシグレは自分と同じ『天擁』の相手には、キッカ以外に出会ったことが無かった。


 ―――いや、もしかすると会ってはいるのかもしれないが。

 一般的なMMO-RPGとは異なり、この世界ではプレイヤーとNPCを見分けることが、もとい『天擁』と『星白(エンピース)』を見分けることが非常に困難なのだ。

 確認する方法は二つ。ギルドカードを見せて貰うか、もしくは『フレンド』に登録して相手のステータスを直接確かめるしかない。

 その為、仮にこの『掃討者ギルド』の一階ホール内にそれなりの数の『天擁』が存在するのだとしても、それを確認するのは容易ではないのだ。


「お話を引き受けるかどうかは別として、とりあえずその方を紹介して頂く、ということは可能でしょうか?」

「ええ、それは勿論です。―――では是非、詳しい話などは本人から直接。たぶん二階にいらっしゃると思いますので、いまご案内しても?」

「はい、お願い致します」


 窓口の座席から立ち上がったクローネに合わせて、シグレもまた席を立つ。

 『腕利き』であるらしいプレイヤーとは、一体どのような人なのだろうか。



     *



「ユウジだ、よろしく頼む。天恵は〈重戦士〉を選んでいる」

「シグレです、よろしくお願いします」


 差し出された手を、シグレはすぐに握り返す。

 それはいかにも男性的な、頼りがいのある大きな手だった。ユウジから握られた手は非力なシグレにとって少し痛くもあったが、その力強さにシグレは憧れめいた感情を抱く。


 ―――掃討者ギルドの二階にある、飲食施設『バンガード』。

 そこでクローネがシグレに紹介してくれたのは、壮齢の掃討者だった。

 歳はおそらく三十を少し越えたぐらいだろうか。背はシグレよりも一回り高く、しっかりと筋肉のついた体付きなどは、最早シグレとは比べるまでもない。

 〈重戦士〉という職業をそのまま形にしたような、なんとも力強い男性だった。


「さっきクローネが、お前さんのことを『天擁』だと言っていたが、本当か?」

「ええ、本当です。ユウジさんもそうなのですよね」

「おいおい、さん付けはやめようぜ。呼び捨てで構わんさ! いやあ、こっちの世界で同じプレイヤーに出会うなんざ、半年ぐらいぶりだなあ」


 豪快に笑いながら、ユウジは愉快そうにそう告げる。

 なんとも気持ちの良い人物だ、とシグレは率直に好感を抱いた。


「そっちの『アヴル』はシグレの使い魔ってことでいいのか?」

「アヴル……?」

「そこの魔犬だよ。―――魔犬『アヴル』。もっと南のほうで遭遇する魔物だな」

『御仁は詳しいな。我と同じ魔物と戦った経験が?』

「おう、随分苦労させられたのを覚えているよ。レベル自体は『10』ぐらいなんで、そこまで強力な魔物ではない筈なんだがな。集団行動が得意で、常に五体ぐらいで息を合わせながら連係攻撃をしかけてくるんだ。素速く動く上に[筋力]も高い、なかなか厄介な魔物だよ」


 もっとも、お前さんは俺の知っている魔物の『アヴル』よりも、もう一回りデカいようだがな―――とユウジは続けた。


 使い魔である黒鉄は、主人であるシグレの余剰魔力を糧にする。そしてシグレは『魔力(MP)の回復速度』に関しては抜きん出ているため、黒鉄は日頃からシグレの魔力を大量に摂取し、己の糧としているのだ。

 そのお陰で黒鉄のレベルは既に『14』と、シグレの交友関係の中で最も高い値にまで到達している。また、レベルが上がる度に黒鉄はその体躯が少しずつ大きくなっていくらしく、現在では使い魔にした当初よりも二回りほど大きく育っていた。


「それで、本題に入るが―――シグレが〈迷宮地〉に同行する治療術師役を引き受けてくれるってことでいいのかね?」

「そのことなのですが。僕や黒鉄のレベルで参加しても、迷惑にならない狩場なのでしょうか? それに〈迷宮地〉というのも、行ったことがないので……」

「おっ、〈迷宮地〉に行った経験が無いなら尚更お勧めできるぞ? 今回俺が行こうとしているのは『ゴブリンの巣』という名の〈迷宮地〉なんだが―――それほどレベルが高い狩場じゃないのは、まあ、そのなんだ。判るだろう?」

「ああ……。確かに、察しは付きますね」


 ゴブリンと言えば、大抵のRPGでは『最弱』クラスとして名が知られているモンスターでもある。

 『巣』と言うからには、かなり数が揃っている場所なのだろうが……。それでも〈迷宮地(ダンジョン)〉の中では難易度が低い方なのでは―――とシグレが推察してしまうのも、多少ゲームに慣れている人間としては当然の反応だといえた。


「まあ、実際はそれほど弱い魔物でも無いんだがな。レベルが高い魔物ではないし、能力値だって低いんだが―――何しろゴブリンの奴らは、曲り(なり)にも『知能』と呼べるものを持っていやがるからなあ」

「知能、ですか……?」

「そうだ。シグレが今までにどういった魔物と戦ってきたかは知らないが、大抵の魔物は掃討者を見かけると、真っ直ぐに攻撃を仕掛けに近づいてくるだろう?

 だが、ゴブリンはそうじゃない。あいつらは掃討者を見かけると、まず逃げる」

「え、向かってこないんですか?」

「数で勝っていれば対峙して来ることもあるが、こちらと同数程度ならまず逃げると考えていい。それも五月蠅いことに、ギャーギャーわめき散らしながら逃げる。それで叫び声を聞いた仲間がわらわら集まってきた所で、急に攻撃に転じる」

「うわあ……」


 ―――断言してもいい。

 それは間違いなく、オークなんかよりもずっと厄介な魔物だ。

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