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リバーステイル・ロマネスク  作者: 旅籠文楽
3章 - 《掃討者の日々》

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50/125

50. 追跡者 - 2

 


     [2]



 これが普通の動物の鳥であれば、あるいは落下しただけで死ぬということも有り得たのかもしれない。しかし、さすがに『魔物』である以上、墜落などという滑稽な死に方をするとも思えず、なんとなくシグレは得心がいかなかったのだが。




------------------------------------------------------------------------------------

 〔バルクァード〕


   魔獣 - Lv.6 〔56exp〕

   最大HP:48 / 最大MP:0


   [筋力]  17  [強靱]  6  [敏捷] 120

   [知恵]  88  [魅力]  72  [加護]  75


------------------------------------------------------------------------------------




 《魔物解析》のスキルで魔物の能力値(パラメータ)を見て、ようやくそれにも合点がいった。この魔物、動きこそレベルが『6』とは思えない程にすばしっこいのだが、耐久面では今までに見てきたどの魔物よりも脆いのだ。

 何しろ最大HPはたったの『48』しかない。

 ―――それでも、シグレの3倍はあるのだが。それはそれ。

 ここは注射針を腕に刺されただけで『16』のダメージを受ける世界(※但しその注射針は単四電池ぐらいの太さがある)なのだから。高所から落下すれば、なるほど、魔物といえどこの程度のHP量では耐えられないかもしれない。


『HPが低い魔物なのでしたら、下手に搦め手を使わず、普通にスペルで攻撃して討伐した方が早いのではないですか?』

『……全くもって、仰る通りです』


 シグレの行使する攻撃スペルは種類にもよるが、威力が低めのものであっても100ダメージ程度は期待できる。

 カグヤの言う通り妨害系のスペルなどを駆使して小細工をするより、素直に攻撃スペルを撃ち込んで倒した方が良さそうだ。


「―――【衝撃波(レゾレット)】!」


 遠くに見えたバルクァードに向けて手早くスペルを放つと、魔物は派手に吹っ飛ばされながら、呆気なく一撃で光の粒子に変わり消滅した。

 【衝撃波】は必中スペルなので、相手がどれだけ素速く動いていようが関係なく命中する。そのぶん威力は低いのだが―――鳥を撃ち落とすには十分のようだ。


『バルクァードのお肉は美味しくて、市場でも人気がありますから。良いお値段で売れると思いますよ?』

『なるほど、それは良いことを聞きました』


 魔物を倒す度に、幾つかの食材がシグレの〈インベントリ〉に入っている。

 〈付与術師〉の生産に活かせる魔石を落としてくれることもあり、最近はオークを狩る機会が多かったのだが。オークは『食材』系のアイテムを落とさないので、『バロック商会』へアイテムを持ち込む機会は最近減りつつあった。

 折角キッカから紹介して貰ったのだから、取引先との縁は大事にしたい。この分だとバルクァードはソロでも快適に狩れそうなので、多めに食材を確保して持ち込んでみるのが良いだろう。

 ここで多めに間引いておけば、衛士頭のガウスにも喜ばれるだろう。そういえばシグレが泊まっている『小麦挽きの家処亭』で出される料理には、鶏肉を用いたものが多いように思う。幾つかは宿への手土産にするのも良いかもしれない。



     *



「随分狩ってくれたのだな。いやあ、正直助かるよ!」


 街に戻る際に、北門で衛士頭を務める『ラウゼル』という男性にバルクァードを150匹ほど狩猟してきた旨を伝えると、たちまち破顔した彼は思いのほか喜んでくれた。

 喜びのあまりにか、嬉しそうにバンバンと何度もシグレの背中を叩いてくるラウゼルの右手が、正直ちょっと痛い。


 もしバルクァードが一匹でも城郭を越えて都市の中へ侵入すれば、都市内の住人に被害が出る可能性は決して低くない。

 それ故に、街の中に一匹たりとも通してしまうことが無いように、現在北門では他の門衛から弓手と魔術師の応援を借りて、厳戒態勢でバルクァードの対処に当たっているそうだ。

 しかし衛士の本分はあくまでも都市を護ることであるため、城郭沿いの防衛線に人員を割かねばならず、魔物の根本的な掃討には人手を割けていないのだという。


「憎らしいバルクァードを滅ぼしてやりたいが、我々はここを動けん。結局の所、魔物の数を減らすことに関しては掃討者に頼るしかない。―――お前のようなヤツが居てくれて有難いよ。あまり好んで狩ってくれる掃討者は居なくてな」

「……そうなのですか? 非常に狩りやすくて楽な魔物だと思いましたが」

「単体相手の攻撃スペルを持っている魔術師にとっては、狩りやすい相手だという話は聞く。HPが低いお陰で、攻撃スペルを2発も当てればあっさり倒せるらしいからな。

 だがバルクァードは常に休み無く高所を飛び回り続ける上に、その軌道も全く読めやしない。魔術師ならともかく、あれを弓手が捉えるのは容易ではないぞ?」

「なるほど……」


 そう考えると攻撃スペルって狡いよなあ―――とシグレはしみじみと思う。誘導性が高いから、相手が高速で飛んでいても容赦無く追いかけて命中するのだから。

 バルクァードには【破魔矢】は避けられてしまったが、【火炎弾】や【魔力弾】なら魔物の機動力よりもスペルの誘導性能のほうが上回るため、簡単に捉えることができる。自分の意志で自在に動かすことのできる【銀の槍】でも命中させることは難しくないし、【衝撃波】なら問答無用で必中する。


「ですが、当たりさえすれば容易に狩れる魔物なのですから。スペルを行使できる掃討者にとっては人気がありそうですね」

「ところが案外、そうとも限らなくてな」

「……それは、どうしてでしょう?」

「普通の魔術師は、自分の手札を『強力なスペル』ばかりで揃えるものだからだ。どうやらお前さんはそうではないらしいがな」

「ああ、道理で……」


 そういえば以前シグレも、キッカから教わったことがあった。術師系の掃討者はスペルスロット一杯に『自分が覚えられる最も強力なスペル』だけを詰め込むものなのだと。

 強力なスペルとは即ち、非常に長い『詠唱時間』を持ち『消費MP』が膨大で、『冷却時間(クールタイム)』も長い『範囲効果』のものを指す。味方に護られながらそういった大魔法を放つことで一気に戦況を味方有利なものと変えることこそが、魔術師の主な役割であるらしい。

 だが、多くの魔物集団を壊滅へと叩き込む強力なスペルも、バルクァード相手に役立つことは殆どないだろう。何十秒も掛けて詠唱などをしていれば、その間に魔物の姿を見失うのが関の山だ。


「狩りやすい魔物だったなら、これからも積極的に狩って貰えれば有難いね」

「ええ、判りました。自分でお役に立てるのでしたら」

「助かる。バルクァードのせいで北門の護りに就く衛士達は皆、ピリピリしているからな……。お前が代わりに魔物を倒してきてくれれば、それだけ我々も溜飲を下げられるというものだ。

 ところで―――確かギルドカードに書かれている情報によれば、お前さんの名前は『シグレ』だっただろうか?」

「あ、はい。そうですが……」

『そのまま動かずに聞け。お前、監視されてるぞ。何かやったのか?』

「―――!?」


 急に頭の中に響いた『念話』の声に、思わずシグレは驚かされてしまう。

 『念話』を送るためには、相手の『顔』と『名前』を把握している必要がある。わざわざ名前を確認したのはそのためか。


『ふむ。その驚きようから察するに、心当たりは無しか』

『驚いたのはラウゼルさんが急に念話で話しかけてきたからですよ……。僕が監視されているって、それは本当ですか? 心当たりは確かに全くありませんが』

『間違いない。シグレは確か〈斥候〉の天恵を持っていたよな? だったら姿勢はそのまま、《千里眼》のスキルを使って確認してみろ。いまちょうどホットドッグの屋台の前辺りにいる、三角帽子を被ったヤツだ』


 なるほど。確かに《千里眼》のスキルを使えば、相手に気取られることなく姿を確認することも容易い。

 言われた通り《千里眼》で視界を飛ばし、ホットドッグの屋台を探してその前に立っている人影を確かめる。そこにはラウゼルの言う通り、頭に三角帽子を乗せたひとりの少女が門のある方向―――つまりシグレの居る側を、凝視するかのような強い視線で見つめていた。

 その迫真の表情には、どこか恨みがましいものさえ垣間見える。


『……見られていますね。凄く』

『だろう? その男に見覚えは?』

『生憎とさっぱりですね、会った覚えさえないです。……男?』


 シグレが《千里眼》で捉えている相手は、ハロウィーンなどで見かけそうな判りやすい『魔女』のコスプレに似た格好をした少女(・・)だ。

 三角帽子などという判りやすい衣装を被っている人物は、付近にこの少女以外に全く確認出来ない。なので、この少女がラウゼルが教えてくれた対象に間違いは無いと思うのだが―――間違っても男性ではないように見えるのだが。


『言いたいことは判るが、そいつ()だぞ? 以前に北門を通行したことがあってな。その際に性別を訝しく思って、身分証をきっちり確認したのを覚えているから間違いない筈だ。生憎と名前までは覚えていないが……』

『さ、さすがに、見間違いか何かでは?』

『おいおい。俺ら衛士は人を検めるのが商売だぞ? 仮に身分証を見た経験がなくとも、相手の性別を見間違うようなヘマはやらねえよ。……まあ、確かに一見しただけじゃ女子(おなご)にしか思えないのは違いないが』

『……この見た目で、僕と同性なのですか……』


 アニメやゲームじゃあるまいに―――とシグレは一瞬思うが。

 よくよく考えてみれば、この世界は間違いなく『ゲーム』なのだった。


『ちなみにコイツ、シグレが門を出た時からずっと居るからな?』

『……つまり僕は、街の外へ出る時点で既に後を()けられていた?』

『そうなる。街の外まで追いかけるわけにもいかないから、この場所でお前さんが戻ってくるのを待っていたということだろう』

『マジですか……』


 男性からそこまで執拗な尾行を受ける覚えなど、本当に無いのだけれど……。

 これが女性であったなら、あるいは―――妹という可能性もあったのだが。

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