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リバーステイル・ロマネスク  作者: 旅籠文楽
2章 - 《魔術師と猟犬》

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44/125

44. 付与生産 - 4

 


     [4]



 『鉄華』での買い物を終え、シグレは再び『付与術師ギルド』へと戻る。

 本日分の工房利用料金は既に払ってあることもあり、窓口で職員の方に一声掛けると、すぐに「どうぞ」と入場許可を貰うことができた。

 相変わらず静かな工房に入ると―――そこには先程と違い、先客の姿があった。


「オルコー先生」


 見知った顔の先客に、シグレは声を掛ける。


「……おお、おお。先日教えた子じゃったな。名前はなんと言ったか」

「シグレです。その節はお世話になりました」

「そうじゃったそうじゃった、シグレ君だったのう。いやいや、国から俸禄を貰っとる職員として当然のことをしたまでじゃ。礼などはいらぬよ」


 長い髭が特徴的な老齢の男性はオルコーといって、先日このギルドを初めて訪ねたシグレに『付与生産』を指導した職員の方だ。

 付与生産に関して何の知識も持たないシグレにも、きちんと理解出来るよう丁寧にひとつずつ解説して貰えたのが、とても有難かったことを覚えている。


「オルコー先生も、何か『付与生産』中でいらっしゃいますか」

「うむ、うむ。たまにやらねば忘れてしまうからのう。……だが、手が震えて上手くいかんでな。弱るは老いの習い、致し方無い所じゃのう」

「そう、ですか……」


 間隙を詰めて付与対象物に魔力糸を張り巡らさなければならない『付与生産』の作業には、かなり緻密な作業が求められる。

 もし誇張でなく、本当に手が震えるようであれば。……それはもう、生産を続けるのが難しいことを意味する。


「後輩の指導に専念せよ、という創神(コニュオス)様の導きかもしれんの。……シグレ君はどうだね? あれからいちどでも付与をやってみたかね?」

「つい一時間ほど前に、普段遣いの杖に付与を施してみた所です。個人的には、なかなか良く出来たのではないかと思っています」

「ほ、ほ。シグレ君は器用じゃからなあ、全く羨ましいことだ。……工房に戻ってきたということは、何か別のものにも付与をするつもりかね?」

「はい。武具店で脇差を3本買ってきましたので、これからやろうかと」

「脇差かね。実物を見せて貰えんかの?」


 促され、シグレは〈インベントリ〉から買ったばかりの商品を取り出す。




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 □夕船/品質[101]


   物理攻撃値:54

   装備に必要な[筋力]値:24

   〔加護+5〕


  | 玉鋼で打たれた脇差。切先にまで連なる綺麗な刃紋を持つ。

  | 斬れ味に優れる反面、耐久性が低く血糊でも鈍りやすい。

  | 王都アーカナムの〈鍛冶職人〉カグヤによって作成された。


-

 □夕船/品質[100]


   物理攻撃値:50

   装備に必要な[筋力]値:24

   〔加護+5〕


  | 玉鋼で打たれた脇差。切先にまで連なる綺麗な刃紋を持つ。

  | 斬れ味に優れる反面、耐久性が低く血糊でも鈍りやすい。

  | 王都アーカナムの〈鍛冶職人〉カグヤによって作成された。


-

 □暁船/品質[96]


   物理攻撃値:57

   装備に必要な[筋力]値:28

   〔筋力+6〕


  | 玉鋼で打たれた脇差。刀身はやや長めに取られている。

  | 切先が軽く潰れているため、刺突に用いるにはやや不向き。

  | 王都アーカナムの〈鍛冶職人〉カグヤによって作成された。


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 『夕船』はエミルへ渡すために、『暁船』は黒鉄用に購入した脇差になる。

 どちらも同じ『脇差』ではあっても、特徴はそれぞれに異なる。前者は鋭利で長めの切先を持っているので刺突にも斬撃にも使えるが、後者は斬撃にしか向かない形状になっている。その分、耐久性では後者のほうが高い。

 また刃の厚みも少しだけ異なっており、『暁船』のほうが刀身が厚く威力も多少高めになっている。逆に『夕船』は刀身が軽いことで重心が柄に近く、扱いやすさの面ではこちらのほうが上だ。


「ふむ……。特別な材料などは使われておらぬようだが、職人の丁寧な仕事が見える一品じゃな。『品質』が高く、それに伴って性能も高い。

 追加効果は[加護]に[筋力]か……。『付与』では何を足すのかの?」

「いま付いている効果を、そのまま上積みしようと考えていますが」

「うむ、うむ。それも悪くない、決して悪くない選択だの。だかシグレ君、ここは折角なのだ、もう一品足して完成度を上げるというのはどうかね?」


 オルコーはそう告げて、〈インベントリ〉から一冊の本を取り出す。

 本に見えたが―――どうやらそれは、一種のバインダーのようだ。様々な用紙が綴じられた中からオルコーはひとつの小さな紙片を引き抜き、そのままシグレの側へと差し出してきた。


「これは……?」

「『付与』のレシピじゃよ。特定の下級魔石3種を揃えた状態で輝量魔力(エーテル)を引き出し、それを一本の魔力糸に縒り合わせる。あとは通常の手順と同様に、付与対象物に魔力糸を巻き付けるなり貼り付けるなりして、隙間無く埋めてやればよい。

 ―――この状態で『定着』させると、それぞれの魔石から本来得られるものとは全く別の付与効果が発現することになる。どうだね、面白かろう?」

「なるほど……。非常に興味はありますが、レシピというのはギルドが報酬で用意しているものですよね。いま僕が受け取ってしまってもよろしいのですか?」


 それぞれの『生産職』ギルドでは、ギルドに寄せられている『生産依頼』を一定数引き受け、達成することで初めて報酬として『レシピ』を受け取ることができるようになっている。

 つまりギルドに対する貢献を積むことで、初めて与えられるものなのだ。それはこの『付与術師ギルド』でも例外では無かった筈なのだが―――いま、受け取ってしまっても良いものなのかと、シグレは些か困惑する。


「なあに、構わぬ、構わぬ。なにせ元より、ギルドを訪ねてくる職人自体が殆どおらぬのだからの。無駄に死蔵するぐらいなら、シグレ君を一端(いっぱし)の職人にすべく役立てるほうが、よほど有意義というものじゃ。

 ―――さて、シグレ君。魔石の備蓄に余裕はあるかの? 折角の機会だ、先日の手解きの続きをやろうではないか。授業料は無用だが、材料は君が用意しなさい。私が用意しても良いのだが……ある程度のリスクを背負って臨むようでなければ、こういうのは腕前の上達に繋がらないからの」

「判りました、オルコー先生。では『レシピ』に書かれている魔石を3セット分交換してきます」

「[加護]や[筋力]も付与したいのだろう? そちらの魔石も必要数だけ一緒に交換してきなさい。ついでだ、複数の効果を同時に付与する授業もやろう」


 オルコーの指示通り、ギルドの窓口で手持ちの『ルブラッド』を大量に提示し、必要な魔石と交換する。それなりの差額を要求されたが、幸い手持ちに余裕はあるので出費は気にならない。


「先に[筋力]の脇差からやろうかの」

「はい、先生」


 指示通り『暁船』だけを手元に残し、あとの二振りは一旦〈インベントリ〉へと収納する。魔石も途中で間違えることがないよう、[筋力]付与用の3個とレシピに記載のあった3個だけを残して他は収納した。

 後は背中からオルコーのアドバイスを受けながら、基本的には普段の『付与』と同様の手順で進めていく。

 実際に糸を巻き付けていくと、脇差というものが意外なほど複雑な形状をしていることに気付かされるものの。やや長めの15分ほど時間が掛かったことを除けば、特に失敗らしい失敗もなく作業を終えることができた。




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 □暁船/品質[96]


   物理攻撃値:57

   装備に必要な[筋力]値:28

   〔筋力+6〕

   【損傷耐性】【筋力+15】


  | 玉鋼で打たれた脇差。刀身はやや長めに取られている。

  | 切先が軽く潰れているため、刺突に用いるにはやや不向き。

  | 王都アーカナムの〈鍛冶職人〉カグヤによって作成された。

  | 王都アーカナムの〈付与術師〉シグレによって付与を施された。


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 付与を終えてアイテムを検めると、【筋力+15】の効果とは別に【損傷耐性】の文字を確認することができた。


「脇差も含め『刀』というものは『切れ味』が肝要な武器だからの。威力こそ通常の剣より高くとも、乱暴に扱えばすぐに摩耗し、その攻撃威力は下がってしまう。まして魔物の攻撃を受け止めたり弾いたりするのに武器を用いれば、刃面が欠けることさえ珍しくはない。

 『損傷耐性』は、そういう脆い武器に便利での。これさえ付与しておけば、どんなに武器を乱暴に扱おうと攻撃力が下がることはなくなる。極論、一切手入れせず武器を酷使しても全く問題ない。海水に浸そうが錆びることさえなくなる」

「……それは、かなり凄いのでは」

「うむ、凄かろう、凄かろう。……一種の弊害として、目釘を抜いて刀を分解するようなことも出来なくなってしまうがの。この辺は仕方無いと思うてくれ」


 シグレは刀に対する知識を持ち合わせているわけではないので、メンテナンスが不十分でも攻撃力が損なわれないというのは大変に有難い。

 これならば黒鉄に持たせても、気兼ねなく使ってくれることだろう。

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