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リバーステイル・ロマネスク  作者: 旅籠文楽
2章 - 《魔術師と猟犬》

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41/125

41. 付与生産 - 1

 


     [1]



 オーク狩りの翌日、シグレは『付与術師ギルド』に来ていた。

 〈付与術師〉は全職業(クラス)の中で唯一『戦闘職』であり『生産職』でもある。故に〈付与術師〉の為の施設である『付与術師ギルド』もまた、各職業に対応した施設の中で唯一、戦闘技術と生産技術の両面に対応した設備が整えられた場所でもあった。


 現在シグレが利用しているのは、ギルド内の『術書庫』。つまり『戦闘職』としての〈付与術師〉が行使できる、スペルを学習するための部屋である。

 書庫とはいっても部屋はそれほど広くはなく、書架に同じ本が何冊も収められている姿は、どちらかといえば小さな書店といった印象に近い。

 実際、ここに置かれている写本は金銭で購うことができるのだから、設備としても書庫より書店に近いとも言えるだろうか。―――もっとも、この書庫に置かれている本の大半は、シグレには購入資格の無い物ばかりだったりもするが。


 昨日のオーク狩り最中にシグレのレベルは『2』へとアップした。これにより、シグレは自身が持つ全ての戦闘職に『スキルポイント』を1点ずつ獲得する。

 ポイントを消費してシグレが獲得したのは《術師の多才》という名のスキルで、これは『スペルスロットを1枠増やす』という判りやすい効果を持っていた。


 ―――シグレが最初から修得していた、4種×9職業の、合計36種類のスペル。

 狩りなどで多用するうちに、シグレはいま自分が覚えているスペルというものにすっかり馴染んでしまっていた。戦闘で直接活用できる攻撃スペルや妨害スペル、あるいは治療スペルや支援スペルなどは言うに及ばず。味方の汚染状態を取り除く【浄化】や、時間経過によるアイテムの品質劣化を軽減する【防腐】など、戦闘に直接役立たないようなスペルでも、日常の中で小まめに使っていれば必要不可欠なものにも思えてくる。


 つまり、率直に言ってシグレはこれらのスペルを(手放したくない)と思うようになっていた。

 しかし『スペルスロット』の数は限られている。『スペルスロット』は戦闘職のレベルが『10』上がる毎に1枠ずつ拡張されるらしいが、そんな大幅なレベルアップなどを待っていては、いつになるか判らない。

 ―――何しろシグレは、経験値を本来の『1%』しか獲得できないのだ。


 ならば『スキルポイント』を消費して『スペルスロット』を拡張するスキルを覚えるしか手はない。

 『スキルポイント』ならば各職業ギルドで受領する『クエスト』を達成することでも獲得できる。レベルアップ以外の手段も用意されているというのが、シグレにとっては非常には有難い所だった。


 ちなみに『付与術師ギルド』で受けられるクエストは「無機物系の魔物を200体討伐せよ」というもの。

 『無機物系』という言葉の意味がいまいち判らなかったので受付の人に確認してみたところ、要は『機械』とか『動く人形』とかの魔物を指すものであるらしい。

 昔プレイした何かのゲームで、開始直後から『電気スタンド』に襲われたことが何となく思い出される。つまり『物品』なのに魔物として活動している敵であればカウントされるのだろう。

 まだ該当しそうなそれっぽい魔物は見た事が無いものの、今後見かけることがあれば積極的に倒していきたい所ではある。


 さて、レベルアップにより各職業に得た『スキルポイント』を、全ての術師職に存在するスキル《術師の多才》に割り振ったは良いのだが。―――ここでひとつ、シグレも全く予想だにしていなかった問題が生じてしまう。




------------------------------------------------------------------------------------

〈聖職者〉Lv.2

  -    スペルスロット:13枠 【←】

  - 未使用スキルポイント:0


----

《奇蹟の代行者》Rank.1(max)

  [魅力]が20%増加する代わりに、[筋力]が15%低下する。

  [MP回復率]が5増加する。


《術師の多才》Rank.1

  スペルスロットが1枠増加する。


----


【衝撃波】

  消費MP:60mp / 冷却時間:100秒 / 詠唱:なし

  敵1体に衝撃によるダメージを与えて大きく弾き飛ばす。


【軽傷治療】

  消費MP:60mp / 冷却時間:100秒 / 詠唱:なし

  味方1人のHPを小回復する。


【浄化】

  消費MP:[対象数]×60mp / 冷却時間:なし / 詠唱:なし

  任意数の人や物に付着している、好ましくない毒性や汚染を取り除く。


【防腐】

  消費MP:[対象数]×30mp / 冷却時間:なし / 詠唱:なし

  任意個数アイテムの時間経過による品質劣化を一定時間大幅に抑制する。


------------------------------------------------------------------------------------




 ―――なぜかスペルスロットが『13枠』に増えたのだ。


 これを見た瞬間、シグレは『頭の中が真っ白になる』という言葉が示す意味というものを、自らの実体験によって理解する羽目になった。

 言うまでも無く、シグレは各術師職に《術師の多才》のスキルを覚えることで、それぞれの職業ごとに修得可能なスペルスロットを『4枠』から『5枠』に増やしたつもりだったのだ。

 それが―――何故か〈聖職者〉も〈巫覡術師〉も、〈秘術師〉や〈伝承術師〉に至るまで、全ての術師職のスペルスロットが『13枠』に増えていたのである。




------------------------------------------------------------------------------------

《術師の多才》 - 最大Rank:[5]


  スキル修得  : スペルスロットが1枠増加する。

  ランクアップ : スロットの増加量がさらに+1される。

-

  | 多くの手札(カード)を持つ商人は、手札の少ない相手に一方的な優位を持つ。

  | それは、全く同じことが『魔術師』にも当て嵌まるだろう。


------------------------------------------------------------------------------------




 慌ててスキルの説明文を確認するものの、特におかしい所は無い。

 無いように見えるのだが―――。


 そこまで考えて、ようやくシグレはひとつの可能性に思い当たる。

 シグレは〈聖職者〉のスキルによる『スペルスロット+1枠』の効果は、当然ながら〈聖職者〉にだけ適用されるものと考えていた。

 しかし、実際には―――たぶん違うのだ。〈聖職者〉で《術師の多才》のスキルを修得した時点で、おそらくシグレが持つ全ての術師職のスロットが、悉く『+1枠』ずつ増加していたのだろう。

 それに気付かないままに、9種の術師職全てで《術師の多才》スキルを修得してしまったものだから―――結果として全ての術師職でスロットが初期の4枠から、一気に『13枠』にまで増えるという事態を招いてしまったわけだ。


 ―――そんなわけで。本日『付与術師ギルド』の『術書庫』を訪ねてきたのも、無駄に拡張しすぎてしまった『スペルスロット』を少しでも活用すべく、新しいスペルを求めるためである。

 この世界ではスペルを覚えるための手段が2つあり、そのひとつ―――最も手軽にして『常道』のやり方とされる修得法が、術師職のギルドで相応額の金銭を払うことで『魔術書の写本』を購入することだった。




------------------------------------------------------------------------------------


 【鋭い刃】 ⊿Lv.1付与術師スペル

   消費MP:[対象数]×90mp / 冷却時間:なし / 詠唱:なし

   任意人数の味方が装備している武器の物理攻撃力を増加させる。


------------------------------------------------------------------------------------




 スペルには必ず『推奨レベル』というものが設定されており、『常道』の手段で新しくスペルを覚えるためには、修得を望む魔術師の『戦闘職』のレベルが、この『推奨レベル』以上でなければならない。

 例えばシグレが最初から覚えている【鋭い刃】なら、スペルの『推奨レベル』は『1』になる。というかゲーム開始時から覚えているスペルは、どれも推奨レベルが『1』のものばかりだ。


 この条件を満たしていないことには、そもそもギルドが写本を販売してくれないのである。このため、現時点のシグレでも購入が許されるのは、『推奨レベル』が『2』以下の写本に限られてしまっていた。

 折角スペルスロットへ一気に9枠もの『空き』が増えても、ギルドに用意されている『推奨レベル2』までのスペルの写本というのは、それほど多くない。


 ―――暫くの間、書庫内の書架を漁って探してみた所、シグレでも覚えられそうなスペルの写本はなんとか三冊だけ見つけることができた。

 書庫内にいるギルドの職員に料金を払い、写本を購入して〈インベントリ〉内に収納する。あとで宿に帰ったら早速覚えるようにしよう。


 職員の型の話によれば、ギルドの『術書庫』にある写本の取り揃えというのは、各『中央都市(ラウリカ)』ごとに異なるものであるらしい。

 つまり『王都アーカナム』の付与術師ギルドで手に入らないスペルも、こことは別の中央都市―――例えば、アーカナムから最も近い『東都アマハラ』の付与術師ギルドなどを訪ねれば、手に入る可能性があるのだそうだ。

 アマハラまでであれば、商人の馬車に『護衛』という形で便乗させて貰うことで比較的簡単に移動することもできるらしいし。そのうち機会があれば、少し遠出をしてみるのも良いかもしれない。

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