表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
リバーステイル・ロマネスク  作者: 旅籠文楽
1章 - 《イヴェリナの夜は深く》

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

24/125

24. 狩猟 - 5

 


     [4]



 それから暫くの間、キッカとシグレの二人はウリッゴを狩り続けた。


 ウリッゴは2体から6体程度の小規模の群れを作る習性を持っているらしく、キッカが言うには「ソロでも狩れるけどなかなか面倒」な魔物であるらしい。

 回復アイテムを使わず狩るには2体の群れを探さねばならず、少し無理をしても一度に相手取るには3体までが限度。4体以上の群れともなれば、途端に手に負えなくなるそうだ。


 ソロで狩るのが難しい魔物となれば、次は当然パーティを結成して狩ることを考える。しかし突進攻撃をメインとするウリッゴは『槍』以外の近接武器で狩るのは案外難しいらしく、ドロップ食材に需要がある割にあまり狩りたがる人は居ないのだという。

 街からそれなりに近い場所に生息する魔物で、〈調理師〉の天恵を持っているからドロップ率も上がる。そんな都合の良い相手であるにも拘わらず、なかなか本格的に狩ることができる機会を作れなかったことで、キッカはウリッゴに対し相当に鬱憤を溜め込んでいたらしい。


 ―――その鬱憤を晴らすかのように、二人はそれはもう勢い良く狩り続けた。

 200メートル以内の近距離に魔物がいれば《魔物感知》のスキルですぐに判るし、いなければ【魔物探知】という〈星術師〉のスペルを行使すればより広い範囲から魔物を見つけることができるため、歩き回って魔物を捜す手間がまず掛からない。

 発見した魔物が何体で群れていようと、二人でなら問題無く狩ることができる。まず【眠りの霧】のスペルで初手の全体睡眠を狙い、眠らなかった相手は【金縛り】【足縛り】【捕縛】などのスペルで個別に脱落させていく。

 状態異常の抵抗力は[加護]という能力値に依存するらしいのだが、ウリッゴはこの能力値があまり高くない。お陰でレベルが1のシグレであっても、申し分なく戦況操作役(クラウド・コントローラー)としての仕事を果たすことができた。


 【眠りの霧】は範囲スペルなのでウリッゴ全員に纏めて掛けられるものの、そのぶん睡眠の成功率は低く、せいぜい50%といった所だろう。しかし、麻痺を与える【金縛り】、移動不可状態にする【足縛り】、敵を絡め取って拘束する【捕縛】といった状態異常スペルは、敵1体だけしか対象にできない代わりに成功率が高い。

 とりわけ〈銀術師〉のスペルである【捕縛】は成功率が高く、実に9割以上の確率でウリッゴの拘束に成功する。このスペルによる拘束は10秒程度の短い時間で解除されてしまうものの、10秒もあればその間にキッカは敵を1体倒せてしまうので全く問題は無かった。


 〈星術師〉のスペルである【星光】を使えば自分と味方の『MP回復率』を引き上げることができる上、《修道騎士》のスキルを持っているキッカのMPは、シグレが治療や支援のスペルを掛けることで回復させることもできる。

 MPに不安が無くなったキッカは攻撃スキルを積極的に使うことができ、『槍』を用いたスキル攻撃は突進を軸にして戦うウリッゴに対して甚大なダメージを与えることができる。

 【鋭い刃】という〈付与術師〉のスペルで武器攻撃力を底上げすれば威力はより顕著になり、キッカは時に、たった一撃でウリッゴを葬ってしまうことさえあった。


『……こんなに快適すぎる狩りは初めてで、ちょっと怖いよ』


 パーティ会話で苦笑気味にそう漏らすキッカのレベルは、つい先程『9』に上がったばかりだ。

 確か『鉄華』でカグヤと話している際に、レベルが『8』に上がったのが一昨日のことだとキッカは言っていたように思う。それだけ今回のペア狩りが経験値効率も出しているということなのだろう。


 一緒に狩っているシグレのレベルは『1』のまま変化していないが、これはもう仕方が無い。獲得経験値が『1%』というペナルティが大きいのは判りきっていた事だ。

 ただ―――実際に戦闘してみたことで、発見できた希望もある。




------------------------------------------------------------------------------------

 〔ウリッゴ〕


   魔獣 - Lv.7 〔84exp〕

   最大HP:310 / 最大MP:0


   [筋力]  51  [強靱]  55  [敏捷]  51

   [知恵]  32  [魅力]  30  [加護]  35


------------------------------------------------------------------------------------




 《魔物解析》スキルの情報によれば、ウリッゴの持つ経験値は『84点』。

 しかしウリッゴを1体倒すたび、シグレの視界に表示される『獲得経験値』の欄には『1点』という数値が示されている。

 パーティを組んでいれば経験値は均等割されるので、ペア狩りであれば各人への分配は『42点』ずつ。シグレはそこに『0.01』を掛けるので、獲得経験値は本来『0.42点』となる筈なのだ。


 しかし、1体倒す度に『1点』の経験値を得ることができている。

 ―――つまり、端数が切り上がっているのだ。


(経験効率だけなら、弱い魔物を乱獲した方が良いのでは?)


 シグレがそう考えるに至ったのも無理ない話だろう。

 今は経験値よりもお金が欲しいという切実な事情もあるので、ウリッゴを狩る方が良い面も大きいわけだけれど。もしも今後レベルを上げたい事情などが出来た場合には、掃討者ギルドでも話題に挙がった『ピティ』といった最弱クラスの魔物を乱獲することも、考慮したほうが良さそうだ。

 ……もちろん、こんなシステム的な穴を突いたズルができるのは、本当にレベルが低い内だけだろうけれど。


『そうそう、今日作ったばかりのギルドカードなんだけどさ。あれを使えば魔物を何体討伐したか確認できるから、覚えておくといいよ』

『それは便利ですね……。カードをどう使えば良いのでしょう』

『簡単だよ。アイテムの説明文を見れば良いだけ』

『なるほど』


 アイテムの詳細を見るだけならば〈インベントリ〉から取り出す必要もない。




------------------------------------------------------------------------------------

 □|シグレのギルドカード/品質[100]


  〔掃討者ランク〕

    八等掃討者〔貢献度:332.5 pts / 1,000で『七等』に昇格〕


  〔未精算討伐記録〕

    ・ウリッゴ - 47.5体


-

  | 掃討者ギルドに登録した者に発行されるギルドカード。

  | 身分証明であると同時に、魔物の討伐数を記録する装置でもある。

  | 本人以外の〈インベントリ〉や〈ストレージ〉には収納できない。


------------------------------------------------------------------------------------




 『未精算討伐記録』というのは、要するに掃討者ギルドからまだ報賞金を受け取っていない討伐数のことだろう。『47.5体』という半端な数になっているのは、魔物を倒した数をキッカと二人で分けているからだ。

 つまり今日だけで、二人合わせて95体のウリッゴを倒したということになる。

 途中、露店市で狩ってきた軽食を食べながら休憩を取ったりもしたので、実際に狩りをしていた時間はせいぜい二時間少々といった所だろう。狩猟時間の割に、思いのほか討伐数を稼げているようだ。


『街に戻る方向に5体の群れがいるみたいだし、あれだけ倒して今日は終わりにしちゃおっか』

『了解です、少し暗くなってきましたしね』


 視界に表示させている時計はまだ『18時20分』を指しているので、まだ夜という程の時間帯でもないのだが。日の入り時間は現実世界に準拠するのか、この時間でも〈イヴェリナ〉の既に陽は暮れ始めている。

 別にキリの良い討伐数に揃える必要があるわけでもないけれど、あと5体倒せば二人合わせてちょうど100体となるので都合が良い。〈インベントリ〉から杖を取り出し、《魔物感知》に反応のある5体の群れに向けてスペルを行使する。


「―――彼の魔物達を抗えぬ深淵へと誘え【眠りの霧(パリカ・レイムス)】!」


 【眠りの霧】の冷却時間(クールタイム)は300秒。

 最初に宿の自室でスペルの説明文を確認した際には、一度使うと『5分間』も再使用できなくなるというのは、随分と制限が厳しいように感じたものだが。

 マウスやキーボードを操作してプレイするコンピュータゲームに比べると、VRタイプのゲームは戦闘ごとに掛かる時間が長いので、実際にはそれほど冷却時間の処理に苦心するようなことも無かった。少なくとも各戦闘の初手に【眠りの霧】を撃ち込む程度であれば、問題無く運用していくことができる。


『……あはっ、お見事』


 すぐ傍で、キッカが苦笑気味にそう漏らす。

 白い霧が晴れた先には、気持ちよさそうに眠りに付く5体の獣の姿があった。


 ―――成功率が半々程度とはいえ、こういうこともあるだろう。

 全ての魔物が眠ってしまえば、もうシグレがやるべき仕事はない。念のため武器攻撃力を上げる【鋭い刃】のスペルだけを一応掛け直してから、無防備な魔物にキッカが槍を突き立てて屠殺していくのを脇から眺めていた。

 ウリッゴは腹部が弱点なので、眠っている身体を引っ繰り返して腹部から槍を突き立てれば、確実に一撃で倒すことができるのだ。


 魔物が落とす素材アイテムの状態には、戦闘時の要素が反映される。

 該当部位を損傷させるとアイテムの品質が下がってしまうけれど、もし無傷のまま倒せれば品質やドロップ率を大幅に上げることができるのだ。

 弱点の腹部を攻撃すると、ウリッゴが落とす食材の品質は少し下がってしまう。けれど代わりに、品質の良い毛皮を高確率で手に入れることができるという明確な利点があった。

 毛皮は食材ではないのでキッカの持つ〈調理師〉による恩恵には与れないが、シグレは〈縫製職人〉の天恵も持っているのでそちらの分のドロップ率アップが有効になる。

 毛皮は肉よりも単価が高いので、肉の品質を多少損なうことになっても、状態の良い毛皮が得られるならそちらのほうが利益は大きい。




------------------------------------------------------------------------------------

 □ウリッゴの生肉(71個)/品質[69-94]


   【素材】  :〈調理師〉

   【品質劣化】:-24.00/日


  | 魔物【ウリッゴ】から剥ぎ取った生肉。

  | 脂身が少ない割に柔らかく、焼くことで美味しく食べられる。


-

 □ウリッゴの肝(37個)/品質[56-90]


   【素材】  :〈調理師〉〈薬師〉

   【品質劣化】:-32.00/日


  | 魔物【ウリッゴ】の肝臓。レバーと呼ばれる部分。

  | 品質が高ければ生臭さもなく、良質な食材となる。


-

 □ウリッゴの毛皮(40個)/品質[16-91]


   【素材】  :〈縫製職人〉

   【品質劣化】:-1.20/日


  | 魔物【ウリッゴ】から剥ぎ取った生皮。

  | (なめ)すことで皮革素材として製品に加工できる。


-

 □ウリッゴの隠し牙(11個)/品質[60-66]


   【素材】:〈細工師〉〈薬師〉〈錬金術師〉


  | 魔物【ウリッゴ】の隠れた牙。希少素材。

  | 狩猟のお守りとして有名で、装身具に加工されることが多い。


-

 □ウリッゴの崩石(8個)/品質[62-67]


   【素材】:〈魔具職人〉〈付与術師〉〈薬師〉〈錬金術師〉


  | 魔物【ウリッゴ】の体内で生成される石。希少素材。

  | 綺麗な緑を湛えた石で、ちょっとした宝石程度の価値を持つ。


------------------------------------------------------------------------------------




 目的としていた肉は、シグレの〈インベントリ〉に入った分だけでも71個。二人とも〈調理師〉の天恵を持っているお陰か、魔物1体ごとに1個以上の高効率でドロップを得ることができたらしい。

 また、ウリッゴは肉だけでなく『肝』の部分もドロップするらしく、こちらも同じく食材なので獲得数は悪くなかった。


 毛皮は40個。普通に倒した場合はドロップ率が50%前後で、素材の品質もせいぜい60程度といった所。しかし眠らせるか麻痺させてから腹部を一突きにして倒せば、品質80以上の毛皮をほぼ100%手に入れることができる。

 品質が20にも満たないような随分と質の悪い毛皮も一部混じっているが、これはシグレが【火炎弾】のスペルを使って攻撃してしまったからだ。

 ウリッゴは火が弱点であるらしく、【火炎弾】のスペルを使えばお手軽に大ダメージを与えることができるのだけれど―――どうやら火を使って攻撃してしまうと、ドロップする毛皮の品質を大きく損なわせてしまうらしい。

 偶然、獲得したドロップアイテムの詳細を見ていたことで、その事実に早めに気づけたからまだ被害を抑えることができたのだけれど。当然ながらそれ以降は、有効なスペルとは知りつつも【火炎弾】を封印しながら戦う羽目になった。


 隠し牙と崩石の二つは『希少素材』であるらしく、特に崩石のほうは「本当に滅多に出ない」のだとキッカから聞かされていたのだけれど。気付けばいつの間にか、どちらもそれなりの数が手に入っていた。

 これについてはおそらく、素材として活用できる生産職が幾つも設定されているため、そのぶん生産職を持っていることによるドロップ率アップのボーナスも多重適用されたのではないかと思う。


「希少素材は売ると高いけど、後から手に入れようと思っても大変だから……使うつもりがあるのなら、売らずに取っておく方がいいかも」


 狩場からの帰路の途中、キッカからそんな風にアドバイスを貰う。

 今のところは生産に情熱を方向けるつもりもないけれど……。活用できる生産職の幅が広いのであれば、素材を活用できる日もそれほど遠くはないかもしれない。


 隠し牙と崩石を〈インベントリ〉から〈ストレージ〉へ移し替える。二つのアイテムはどちらも日数経過による品質の劣化がないようなので、当分入れっぱなしにしておいても問題は無いだろう。

 肉と肝、毛皮を売るだけで収入としては十分な額になるらしいので、こちらはいつか生産に着手した時の、未来の自分の為に取っておくのも悪くない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ