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リバーステイル・ロマネスク  作者: 旅籠文楽
1章 - 《イヴェリナの夜は深く》

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21/125

21. 狩猟 - 2

 



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 □カナロ剛弓/品質[64]


   物理攻撃値:70

   装備に必要な[筋力]値:60

-

   一矢(いっし)で複数の魔物を貫くこともある、強烈にして巨大な弓。

  | 扱いには高い[筋力]を要するが、案外射撃精度は悪くない。

  | フェロンの〈木工職人〉グニオールによって作成された。


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 弓の大きさは2メートル程といった所だろうか。ロングボウとして考えてもまだ大きいその胴は太く、全力で籠めた[筋力]に耐えられるだけの構造をしている。


「〈騎士〉というのは、弓を扱うこともできるのですか?」

「できるよー。攻撃に使える任意発動(アクティブ)スキルはあんまり覚えないんだけど、修練系の常時発動(パッシブ)スキルは結構充実してるかな。剣と槍に加えて、細剣、弓、あとは鈍器なんかもいけるね」

「それは凄い」


 日本のゲームだと『騎士』の装備といえば剣か槍であることが殆どであるように思うけれど。海外のゲームだとメイスやフレイル、ハンマーなどの鈍器を騎士が扱えることは案外珍しくない。このゲーム内では、その辺の『騎士』のイメージも一緒に勘案されているのだろうか。

 弓が扱えるのなら、魔物相手に遠距離から先手を仕掛けることができる。距離を詰めることなく狩猟対象となる魔物だけを引っ張ることができるので、防御役(タンク)を務める〈騎士〉としては便利に活用できるだろう。


『シグレ、ここからはパーティ会話でお願い。頭の中でパーティメンバーに対して『話そう』と思ったことは、距離に関係なく伝わるから』

「―――おお。急に会話が直接脳内に来ると、びっくりしてしまいますね」


 意志による『パーティ会話』であれば距離に関係なく会話を行うことができる。まずはキッカひとりで戦うこともあり、互いの距離が離れてしまうのでこちらのほうが都合が良い。


『えっと……これで、聞こえますか?』

『ん、大丈夫。ちゃんと聞こえてるよ。えっと―――《魔物感知》が出来るのならシグレの〈マップ〉をパーティ側にも共有して貰ってもいい? そうすれば私もシグレが感知した魔物の位置を、手元のマップで確認することができるようになるから』

『マップを共有、ですね。やってみましょう』


 やり方は判らなくても『意志』による操作ならば不都合は無い。シグレがマップを味方であるキッカに届けようと念じればそれだけで、システムはシグレの意を汲んで正しくそれを行ってくれる。


『おっけ、ありがと! それじゃ先に戦ってみるから少し離れた所から見ててね』

『了解です、頑張って下さい』


 万が一にも危なくなるようなことがあれば、いつでも治療スペルを行使できるようにと、シグレは心積もりだけ済ませておくものの。自信満々のキッカを見る限り、おそらくその機会は来ないだろう。

 ウリッゴまでおよそ120メートル程の距離にきて、キッカは大弓を構えて〈インベントリ〉から取り出した矢を番える。

 2体の魔物がこちらに気付いた様子はなく、対象は殆ど動かない。とはいえ120メートルという距離は相当に長く、果たしてこの距離から射掛けた所で、そうそう当たるものだろうかとシグレは訝しむが。

 それは全く要らぬ杞憂というものだった。ゲーム内でのスキルによる補正が優れているためか、それともキッカの射撃技術が優れているからなのか。浅い放物線を描いた飛矢は―――三十三間堂の通し矢もかくやと思わせる正確さをもって、違い無くウリッゴ1体の胴体中心部に的中した。


 深々と突き刺さった一矢、その痛みに魔獣が悲鳴にも似た鳴き声を上げる。戦闘状態に入ったとシステムが判断したのか、すぐにウリッゴ二体の頭上にHPの残量を示すバーが表示された。

 攻撃者の姿を捉えたウリッゴの行動は早く、特に矢を受けなかったもう1体の方はかなり高速で反応し、キッカの側へと迫る。オスの猪よろしく立派な牙を生やしたウリッゴは機動力もまた猪のそれに酷似しているらしく、忽ちスピードを稼いで一心不乱の猛進を見せた。

 しかし魔物が高速で反応を示すのと同様に、その魔物を狩る『掃討者』であるキッカもまた俊敏に行動する。弓を扱う本職もかくやという手際で二の矢、三の矢を繰り出し、一方的な攻撃を浴びせていく。

 大弓から矢継ぎ早に繰り出される射撃は派手ではある。しかし『通常攻撃』でしかない射撃の威力は世辞にも高いとは言えず、悉く命中してはいるものの、一射ごとに削れる魔物のHPは全体の1割程度でしかない。牽制としては十分ながら、さらに四の矢まで放たれた全てのダメージを積み上げても、片側の魔物のHPをまだ半分も削れてはいない。


 とはいえ、〈騎士〉であると同時に〈槍士〉でもあるキッカの本領はここからである。片側の魔物だけを選び四射全てを皆中(かいちゅう)させたことで、二体の魔物のうちの一体の足は遅れ、もう一体だけが突出した格好となっている。

 (まさ)しく、槍で迎え撃つには理想的な状況と言って良い。早くも半分以上の距離を詰めてきた相手に対抗すべく、キッカが〈インベントリ〉に弓を収納する代わりに取り出したのは、彼女の身長の三倍はあろうかという長大な槍であった。


(あれは―――『パイク』か)


 遠目のシグレから見ても良く判る特徴的な長槍は、なるほど〝猪突〟を示す相手に対し有効に働くことだろう。

 突撃を迎え撃つべく槍を構えるキッカ。その『プッシュ・オブ・パイク』の姿は単身でありながらも見事なもので、長すぎる柄を持った槍を構えているにも拘わらず、その先端は微動だに揺れていない。


「―――はああああっ!!」


 小さく前進しながら繰り出された槍の一撃は、ウリッゴ自身の高い機動力によって生み出された慣性が十分に上積みされたことで、強烈な威力を発揮する。パイクの先端に取り付けられている木の葉状の刃、その全容が綺麗に埋まるようにウリッゴの頭部からめり込んでいく。

 魔物に深々と突き刺さった長槍が―――しかし、一瞬後には消滅していた。

 何が起こったのか、シグレは僅かにだけ遅れて理解する。キッカは自分が魔物に命中させた長槍を〈インベントリ〉の中へ収納したのだ。十分に相手の突進力を受けきった槍が急に失われたことで、支点を失ったウリッゴの体躯がキッカの側へと倒れ込もうとした所を、今度はキッカが繰り出した膝蹴りの一撃が捉える。


(うわぁ……)


 キッカの三倍は重量がありそうに見えるウリッゴの身体が、クリーンヒットした膝蹴りにより弾き飛ばされる。

 収納された槍が先程まで深々と突き刺さっていた魔物の眉間から、鮮烈な血飛沫が噴き上げながら魔物の身体は宙を舞い―――やがて光の粒子へと変わるように掻き消えた。


 シグレの視界の隅に小さなウィンドウが表示され、パーティを組んでいる自分が経験値『1』を獲得したこと、及びウリッゴがドロップした幾つかの素材アイテムを手に入れたことが表示される。

 どうやらキッカは矢の被害を全く受けなかったウリッゴを、槍の一撃と膝蹴りだけであっさり倒してしまったらしい。なんとも凄まじい攻撃力だとシグレは思い知らされるが、それはもちろん攻撃威力に転化されたウリッゴの突進力がそれだけ高かったということでもある。あれをまともに喰らえば……『術士職』である自分なんて一溜まりもない。


 再びキッカのほうへ目を向けると―――今度は彼女が持っている得物が、槍は槍でも先端に斧頭が付いた棹状武器、いわゆる『槍斧(ハルバード)』と呼ばれるものに変わっていた。

 なるほど、既に接近されてしまった魔物を相手に、近接戦で敵の攻撃を()なしながら戦うのであれば、普通の槍よりもこちらのほうが使いやすいかもしれない。先程のパイクに比べれば柄は随分と短いものの、剣に比べれば長いので遠心力は稼ぎ易く、斬撃の威力は馬鹿にならない。斧頭とは別に穂先には槍頭(ピック)も備えているため、通常の槍と同様に相手の突撃を迎え撃つことも可能だ。

 とはいえ用途に優れる分、槍の先端部分に重量が集中しているために扱いが難しい武器である筈なのだが。さすがは〈槍士〉と言うべきか、キッカは槍斧を巧みに扱いウリッゴの攻撃をものともしない。

 1対1に持ち込んでしまえば最早ウリッゴは彼女の敵では無い。最初の弓だけで半分近くにまで減らされている魔物のHPバーが完全に削り取られ、その骸が光の粒子となって掻き消えるまでには、然程の時間も必要ではなかった。

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