写真撮影
「写真はね、撮影者が見てる世界が映るの」
レイは一眼レフを構えながらそう言った。
撮影の付き添いで付いてきているツバサは、レンズの先にある対象物を見つめていた。私が見ているものと、レイが見ているものは違うのだろうか。
ツバサは隣でシャッターがきられるたびにそんなことを考えていた。
いつだったか、ツバサはレイの写真を見せてもらったことがある。
ほとんどの写真は、くすんだ色調だった。
寂しい写真だとその時は思っていたけれど、そう考えてみると、レイの世界が羨ましくも思えた。元から寂しい世界なら、寂しさはあまり感じなくて済むだろうから。
「撮ってみる?」
レイはそう言うと、ツバサにカメラを手渡した。
「何を撮ったらいいのか分からないよ」
「なんでもいいんだよ。好きなものを撮ったらいいよ」
「……じゃあ」
カシャン……。と、渇いたシャッター音が響いた。
ツバサはレイを撮った。予期せぬ撮影に被写体のレイは驚いた。それにも構わず、そのあとも数回レイに向けてシャッターを押した。
カシャン……。カシャン……。
「ちょっと、私ばっかり撮っても仕方ないよ」
「だって、好きなものを撮るんでしょう?」
そう言ってカメラを持つツバサの表情は、レイからは見えなかった。
*
ある日、二人は喧嘩をした。
数日間、お互いに口を聞かない日が続いた。
原因は些細なことだった。それがなんだったのか忘れるくらい。
二人とも、今の状態がバカらしいことは分かっていた。それでも仲直りのきっかけが見つからなくて、意地を張り続けることしか出来なかった。
「今日も話せなかったな……」
ツバサは帰り道、一人でつぶやいた。
首に巻いたマフラーが温かかった。そう思える季節になった。
本当なら隣にレイがいるのにな。バカだな私は。
レイは寂しくないのか。……謝りたいな。
そんな思いだけが積もっていく。
「私ってバカだなぁ……」
レイも同じようにため息を吐いていた。
自分の部屋で写真の整理をしている。
パソコンのハードディスクの中には、千枚以上の写真が保存されている。ツバサが付き添ってくれたときの写真をパソコンに移動させていく。全部移し終えると、今度は一枚一枚写真を順番に確認していく。
レイの手が止まる。
「……写真は撮影者が見てる世界が映る……か」
レイはスマホを取り出してツバサに電話をかけた。
「もしもし……ツバサ? ……あのさ、ごめんね」
パソコンの画面には、ツバサが撮影した写真が表示されている。
その写真のレイは、とても優しい表情でこちらを見つめて笑っていた。