影の無い彼女の意味の無い例え話
そうだねぇ......例え話になるんだけど、みんな登校する時って、学校の正門に向かって同じ方向に歩いていくじゃない? 二列とか三列になって友達と騒いだり、黙ってスマートフォン弄ったりしながら。君みたいに一人で音楽聴きながら登校してる人もいるかも。とにかく行き方は人それぞれだけど、向かう方向は一緒だよね。
けどね、そこに立ち止まって私たちの列を見てる人が居るんだ。何も考えて無さそうな目でぼーっとしながら。けどどこか気味悪くて、どこか怖いの。みんな横目でその人の事をちらちら見ながら、『その人』のことを避けていくんだ。なぜ、って? ......みんな知ってるからだよ。『その人』が『死』そのものだって事を......。
『その人』に関わったら『死ぬ』の。『その人』の事を話題に出しちゃだめ。『その人』の事について考えるのもだめ。みんなそれを知ってるからわざと避けていくの。だって怖いじゃない、『死ぬ』って。みんな嫌でしょ? みんな『死にたくない』って思ってるはずだよね。
でも、避けられない時もあるよ。突然『その人』が襲い掛かってくる事がある。何の前触れも無く、しかも法則性無く、ね。そうなっちゃったらもうおしまい。襲い掛かられた人は「運が悪かったね」って言われて『死ぬ』しかないの。それが『事故死』とか『病死』なの。......どうしようもないの、ほんとに。運が悪かった、それだけ。
ある日、学校で虐められてる子が自ら『その人』に話しかけていくの。「もう疲れた、もう嫌だ、助けて」って。それが『自殺』。『その人』は誰も拒まない。どんな人でも受け入れてくれるよ。「疲れたよね。もう休もう?」って。優しいよ、その人は。でもそう見えるだけ。相談する人を間違えてる。本当は暗くて、深くて、何も見えなくて、何も無い暗がりに引きずり込むの。引きずり込まれたら最後、もう二度と外へは出てこられないよ。楽しそうな笑い声とか、懐かしい思い出を思い出しても無駄。どんなに叫んでも、どんなに泣いても、どんなに叫んでも、どんなに後悔しても、そこから外へは出してくれないの。......そんなところへ連れて行かれて幸せなはずないでしょ? 私はみんなよりほんのちょっぴり早く、その事に気づけたの。
......少し前に、私の友達が自分から『その人』に話しかけに行ったの。私が「絶対にだめだよ」って言ってたのにも関わらずに、ね。『その人』に話しかける直前まで私、必死で止めたよ。それでね、ぎりぎりのところでその子、『その人』に話しかける事を止めてくれた。私、すっごく安心した。大事な大事な命が一つ無くなるのを防げて、ありきたりな言葉だけど、とっても嬉しかった。
でもね、私、気が付いたらあの真っ暗なところに居たの。......おかしな話だよね。私、その子が死ぬのを防ごうとして、逆に私が死んじゃったの。......今思い出しても、ほんとおかしな話。
......え? そりゃ誤って『事故で死んだ』のか『その子が故意に殺した』のか、なんて確かめようがないけどさ、そんなことする子じゃなかったと思うよ。あの子は。
私さ......初恋もまだだったし、友達と学校帰りにカラオケに行ったり買い食いしたりした事だって無かった。こんな運の悪い人生嫌だな、って思った。そしたらさ、いつの間にかその子もクラスメイトも居ないこの世界に居たの。何でか家族は居たんだけどね。
うーん、不思議だよねぇー。......でもこれ多分、神様のお詫びだと思うんだよね。早く死んじゃった分、青春だけでも楽しみなさいって感じ? ......うん? どうして青春だけなのかって? いやぁ、まあ正直言うと勘なんだけどね、ほら、今の私ってかなり特殊じゃん? 幽霊みたいな存在だし、かといって体が透けてるわけじゃないし、こうして人とも話せるし。まあ、そんな幽霊みたいな不確かな奴、いつか成仏か何かして消えちゃうに決まってるじゃん? 別に消えたいと思ってるわけじゃないんだけどね、なんだか無意識にそう確信してるの。不思議ー。
......うん、結構気楽。別に消えちゃうのが怖くないわけじゃないんだけど、そんなこと思ってたら今を楽しめないでしょ? それに、『いつ居なくなるかわかんない』なんて生きてる人間でも一緒だよね? そ、今が良ければ全て良し! ......刹那主義だって? ......ほんっと一言多いよね、君。だから友達居ないんだよ?
まー、そんなわけで、悔いある過去の人生の鬱憤を晴らすべく、この新しい人生で青春を謳歌することに決めたのだ! うわっはっはっはー!
......四十五点? そんなあ!