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ぼくは彼女で彼女が彼女  作者: 芝井流歌
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彼氏なぼくの奇妙な隣人 2

 スイッチの切り替えが出来ずに挙動不審なぼくを挟み、彼女とお隣さんの和やかな会話が進んでいく。どこで訂正を入れたらいいのか、どこまで話せばいいのか分からないけれど、質問攻撃を全て返さなくてはいけないのだろうか。

 今日知り合ったとは思えない人懐っこい性格みたいだし、これからはお隣さん同士になるのだから、隠したいことも隠し通せないかもしれない。

 ぼくと彼女の関係……何をどこまで、どうやって話せばいいんだ?



「彼女さんも高校生?大人っぽいよね?落ち着いてるよねー?あたしなんか大学生に見えないでしょ?大学生なのよ!こう見えても大学生なのー。落ち着きないってよく言われてたんだけど、いい加減落ち着かないとだめだよねー。どうやったら落ち着けるの?普段からそんな感じ?」


「いえ、私なんて特別落ち着いているわけではないですよ。それに、大学生というだけで憧れます。私も進学したいと思っているので、現役の方を尊敬しています。」


「マジで?尊敬?あたしなんて三流大学しか行かれなくて上京してきたんだよ?地元の大学は受からなくて、でも通うのは遠すぎるから引っ越してきたんだよ。大学なんてピン霧だから!大学生だってえばれるわけじゃないからね。あたしなんか尊敬しないほうがいいって!彼女さんのほうがよっぽどかしこそうじゃん?」


「そんなことないですよ。ねぇ?」



 ここに来てぼくに振るか!せっかく頭の中を整理してたのに、急に振られてもどうやって振る舞えば……?



「あ……う、うん。」


「うんって、否定してんの?認めてんの?えー、絶対かしこそうだけどなぁ……。」


「あ、あぁいえ、かしこいですよ。ぼくが言うのも何ですけど、茜は特に英語が……。」


「茜ちゃんていうの?かわいいね!美人さんだし、ぴったりな名前だねぇ。英語特異とはめっちゃ羨ましいわー。あたしこそ尊敬するよー!今度あたしに英語教えにきてー?大した御礼は出来ないけど、ご飯くらいはごちそうするよ?おいしいかどうか分かんないけど、料理は好きで、実家でも結構してたの。茜ちゃんは料理する派?やっぱ彼氏くんに作ってあげたりするの?あ、そういえば彼氏くん、親と同居なんだっけ?彼女さん連れ込めないからここで密会とか?じゃあ茜ちゃんは手料理、作りに来てないの?」



 ここで思い出したんですか、その質問……。まず、ぼくが男の子ではないという誤解と、だから「彼氏」ではないという撤回と、えーっと……一人暮らしの理由を理解してもらうのはちょっと難しそうだな……。



 相変わらず疑問形で会話が続いているけど、どこから話していいのかまごまごしているぼくとは反対に、冷静に対応している彼女は本当に肝が座っているというか、さすがだ。

 こういう冷静な判断が出来るからこそ、いつもぼくの鈍感な態度に歯痒さを感じるんだろう。

 客観的に彼女を見れば気付いたことだろうけど、いつも渦中にいるぼくには分析する暇なんてなかったんだ。



「私は風原茜と言います。よろしくお願いします。蒼とは同じ高校で、たまに遊びにお邪魔してるんですよ。ね?」



 にっこりとぼくを見て笑う。なるほど、全て事実だけど余計な細かいことまではやんわりと躱している。嘘ではないのだから、詮索されても罪ではない。

 この流れを合わせなさいね、という表情?誤魔化すのが下手くそなぼくを知っている、彼女にしかできない偉業だ。



「そ、そうなんです。茜とは同級生で……仲良くしてもらってるんですよ……。」


「あおいくんていうの?あたしと同じ名前じゃーん!あたしも青井、青井成実っていうの!いやぁお隣さんが同じ名字だとは奇遇だねー!運命を感じるよ!余計に仲良くなれそうだね、うちら!」


「……え?」



 多分、いや、彼女と出会って初めて同じタイミングで同じ言葉を発した。

 さっきまでの冷静な表情の彼女はどこへやらといった驚いた顔……。

 その顔にも、同じ言葉を発したことにもびっくりだけど、何よりびっくりしたのはお隣さんの名前。

 鳩が豆鉄砲を食らったら、本当にぼくらのような顔になるのだろうか?逆か?鳩が豆鉄砲を食らった時のような顔を、ぼくらがしているのだろうか?

 そんなぼくらを見て、今度はお隣さんも目を丸くしてこちらを見た。



「名字じゃなくて、ぼくはあの……下の名前が蒼なんです。それで名字は……成海……です。」


「え、え?名字じゃないの?てことは、な・る・み・あ・お・い?ってこと?」


「……そうです。」


「嘘っ!逆なの?なんかあたしの英語版みたい!マイネームイーズ・ナルゥミィィアオォィ、みたいな!すごいねー!変なのー!変だよね?すごい変な感じ……。お隣さんが偽物なんてさ。え、あ、でもそっちからしてみたら、あたしが英語版だよね?変だよね?偽物っぽいよね?」


「いやぁ……偽物って……。」



 固まっていた彼女が、ようやくぼくと目を合わせた。

 今なら絶対に、さっきまで怒っていたことを忘れているだろうというくらい目をぱちくりさせている。

 傍から見たら、ぼくらは三人三様のびっくり顔だと思う。



「蒼くん……て呼びづらいなぁ……。何かあたしも呼ばれてるみたいで変な感じだしさ、逆にあたしのことも成実さんとか呼びづらいよねぇ?」


「呼び……づらいですね……。」



 それまで機関銃のように質問攻撃だったお隣さんは、「まいったなぁ」と言ってから静かになった。

 その様子を見ていた彼女も、またぼくと目を合わす。

 彼女のお怒りも忘れてるだろううちに、そしてお隣さんの質問攻撃が止まっているうちに、速くここから抜け出さなければ、今しかチャンスはない!



「じゃ、じゃあ、そろそろご飯行こうか、茜……。」


「……そうね。では、失礼します。」


「え、あぁ行っちゃうの?ご飯行くなら、あたしも混ぜて?まだ荷物が散乱してて料理なんて出来ないし、あたしもお昼まだなんだ。お邪魔かなぁ?デートだもんね……。お邪魔だよね……?」



 いやいや、ここで「そうですね、お邪魔です」とは言えないだろ。言わないよ、普通の人なら言わないよ。言えないよ?

 いくら嫉妬深い彼女でも、さすがの笑顔で「ぜひ」と言ってるし……。

 冷静さを取り戻した彼女は、ぜひと言われてはしゃいでいるお隣さんよりも、やっぱり落ち着いているなぁ。



「あー、そうだ!呼びづらいから彼氏くんでいい?あたしのことはお姉さんでもおばさんでも何でもいいよ?呼びやすいように呼んで?」



 姓名逆転なことで誤解を解くのを忘れていたけど、実は男の子じゃありませんって言ったら……またびっくりされちゃうんだろうな……。

「どっちでもないです」と言ったところで、どっちにも属せない人がいることを理解してもらうのは、簡単なことではないのだから……。



 あぁ、めんどくさい……。


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