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ぼくは彼女で彼女が彼女  作者: 芝井流歌
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ぼくは『彼女』で、彼女が『彼女』

 ぼくの彼女は頭がいい。特に英語は常に学年三位以内に入っている。お母さんが英語の教師というのも彼女の強みの一つである事は間違いないが、何に対しても努力家というのが一番の才能であるとぼくは思う。


 だが、その才能は学校の勉強だけに生かして欲しいものなんだけど……。


「意地悪? 私が? ふふっ、あなたに隙があるのがいけないのではなくて?」


「茜がぼくの下駄箱にラブレターらしき手紙入れた事は、どう考えても意地悪だろ。そうやって試すような事して……」


「あら、定期テストよ? 二年生になってからは一度もしてないんですもの。あなたがラブレターをもらう時、どんな顔をするのか知りたかったのと、本当に呼び出しに応じてしまうのか気になっただけ」


 彼女と付き合いだしたのは中学二年が終わる頃。あれから二年以上も経っているというのに、たまにこうして不意打ちの『愛情テスト』とやらが開催される。


 それはいつも音沙汰もなく開催される。本人でさえ閃いた時に実行するという時もあれば、念密に計画して実行する時もあるというくらい、ある意味適当なのだ。


 そんな事に頭を使ってくれなくてもいいのに、と勉強嫌いなぼくは思う。ただでさえ宿題や授業で頭を使ってるんだ、朝っぱらからぼくを試したりからかったりしようとする思考は止めてもらって一向に構わない。


「ぼくが浮気した事あるか? ラブレターもらった時はいつもちゃんと報告してるんだし。何で疑われてるんだか意味が分からない」


「先週、一年生の男の子にラブレターもらった事、私が知らないとでも? あれは報告もなかったし、手紙の内容も見せてくれなかったわ」


「あ、あれは……だって、ぼくが男の子には興味ないの分かってるだろうから言わなかっただけだぞ? っていうか、逆に何で知ってるんだよ……」


「ふふっ、さてね」


 にっこり笑うその顔には悪びれた様子も申し訳なささも感じられない。むしろぼくの方が責められてる状況に何ら変わりはない。


 自分だって数人の男の子からラブレターもらっているじゃないか、と思うとぼくだっておもしろい気分にはなれない。それでも、彼女が微笑みながら「好きな人がいるの。ごめんなさい」と断ってくれる度に安心をもらえているのも事実。


 かといってぼくがあいまいに断っているかというとそうでもない。きちんと「気持ちは嬉しいけど付き合えない」と断ってきたのだから。


 だけど、彼女のように「好きな人がいる」と言えない理由がある。


 ぼくは私服高校に通っている男装しているだけの、性別としては戸籍上女の子。声だってハスキーで低めだし、知らない人からしたら一見男の子と間違えられる事も珍しくない。身体こそいじろうとは思っていないけど、男の子のような恰好をしているこの姿が一番しっくりくるし、自分にとって自然体でいられる。


 そんなぼくを女の子と知ってても告白してくる女の子もいれば、男の子だと勘違いして告白してくる子もいる。……後者はぼくの何を知って好きになっているのだろうと疑問だらけだけど……。


 それに比べて彼女は、茜はどこからどう見てもおしとやかなお嬢様タイプの優等生。少し近寄り難いというだけで、彼女のファンだって多いはずだ。


 ぼくにはそれが後ろめたくて仕方がない。男装女子と付き合っているという汚点を周りに知られたくないし、彼女が同性愛者だという事も知られたくない。いくら彼女が公表したいと言っても、嫌なものは嫌なのだ。嫉妬深い彼女だからぼくを取られない為にも公表したいのが本音なのだろうが、世間の同性愛者を見る白い目が怖くてぼくだけが渋っている。


 ぼく、成海(なるみ)(あおい)と彼女、風原(かざはら)(あかね)は付き合っている。


 男装女子高生とお嬢様女子高生の奇妙な恋人だけれど、ぼくは『彼女』で、彼女が『彼女』なのだ。


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