入園にはご注意下さい
「んー」
眩しい光がまぶたの裏の暗闇を引き剥がした。
目の前には目覚まし時計。俺は相当熟睡していたらしい。掛け布団が床に落ちてグッタリとしている。
俺は昨日の出来事を思い出した。
(確か、お別れ会をして、最後に田口と写真を撮って…田口?‥あっ)
少しだけ胸の鼓動が早くなっている。俺は昨日の田口とのメールで明日遊園地に行くことを承諾してしまったのだ。
「まさか、二人きりはないよな?」
内心かなり焦っていた。俺は好きでもない子と二人で遊園地に行くような趣味はない。
(どうしたらいい?どうしたらいい?)
朝起きたばっかりだったこともあり、頭がなかなか働いてくれない。
数十秒がたち、俺は一つの案を思いついた。というよりも、その案しか浮かんでこなかったのだ。
「本人に聞いてみよう」
俺はどこか冷たい携帯を握り、田口にLINAしようとトーク画面へ移動した。
10分後…
「よかったーーー」
どうやら、田中と内海さんも来るらしい。親友がいると思うだけで気が楽になった気がした。
ー当日ー
朝早く、俺は駅の手前にある公園を通り過ぎようとしていた。
普段は小さい子が沢山いる滑り台も今見るとブームの過ぎたお笑い芸人のように虚しさに溢れかえっている。
集合場所は駅にある銅像の前らしい。俺は時間を気にしつつ歩を早めた。
「おはよー」
「おはよう」
田中と軽く挨拶を済ませ、まだ来ていない女子二人組を待った。
「燐、お前よく来ようと思ったな。絶対に来ないかと思ってたよw」
「俺だってそのつもりだったんだけど、別に断る理由もないし。小学校卒業して、気が緩んでるだけかもしれないけどなw」
「かもなw」
実際のところ、女子と遊園地に行くことに少し興味があったというのも今回来た理由の一つだ。
「ごめん!待った〜?」
まるでドラマのテンプレのようなセリフだ。そんなことを思いながらも、「全然待ってないよ」と適当に返した。
しかし、この女子二人組。どちらも私服が可愛いらしい。制服でしか見てこなかった二人の姿は廃れたゴミに埋もれたビー玉のように輝いて見えた。
「じゃあ行こっか」
内海さんが横目で駅を見ながら言った。
それから俺たちは電車に乗り、10分ほど歩いた。
「意外と空いてるな」
田中の言葉通り、行列は短く見えた。「ハッピーアイランド」という遊園地の看板に描かれているキャラクターもなぜか悲しそうな顔をして見える。これは仕様なのだろうか?
あまり並ぶこともなく、ハッピーアイランド内に入れた俺たちは、最初どのアトラクションに乗るか話し合っていた。
「やっぱり、ジェットコースターっしょ!」
「私はコーヒーカップがいいかなー」
「んー、みんなに合わせるよー」
それぞれが意見を出す中、俺は何に乗りたいか迷っていた。
(迷路も良いけど、シューティングコースターってのも魅力的だなー)
「なおみんはコーヒーカップ良いと思わない?」
「それでもいいと思うよー」
「やっぱり、ジェットコースターっしょ!」
「…」
なかなか決まらない。
すると、突然、田中はジェットコースターの落ちる様子を真似しながら
「やっぱり、ジェットコースターっしょ!」と言った。
田中、お前はそれしか言えないのか。
そんなことを思っていたら、内海さんが何かを思いついた仕草をしながら言った。
「凛林君は何に乗りたいの?」
「さっきまで迷ってたけど、俺もジェットコースターでいいと思うよ」
ジェットコースターの意見に反対ぎみだった田口の様子を伺ったが、なぜか笑顔で賛成してくれた。
風船を持った親子、お化け屋敷から出てきて涙気味の女子高生。様々な人々が歩く風景に目を向かされながら、俺たちはジェットコースターのある場所まで歩いて行くのだった。