007 足若丸魔法学校の校史
社長、寺田と秘書、菜摘が通っている足若丸魔法学校は碩大区國武町にある全日制過程の魔法高等学校だ。設置学科は普通科、通信制課、クリエイティブ体育科がある。前世紀では普通科と言えば数学だったり国語だったり生物だったりを習うのが当たり前だが、この学校は生憎、名前に魔法と書かれている。つまりそれは普通科で魔法の授業を行っている事を意味しているのだ。寺田達はこの学校で魔法の基礎を教えてもらい、将来的には日本の自衛隊なり魔法アイテムの商品開発部なり、とにかく魔法を主軸とした組織に就職するのがほとんどである。とは言っても、今の寺田は父親から譲り受けた会社があるので就職する意志を持っていない。指折り数えると101回目の倒産危機に陥ってはいるが、あの男ならば難なく乗り越えて見せるだろう。確信は持っていないが。それはともかくとして、寺田が足若丸魔法学校に通っている理由は一つである。その理由とはずばり会社運営に必要だと確信を得たからだ。今時、魔法の呪文を唱えられない代表取締役などダサいに決まっている。もしも新入社員が入った時、笑われるのが目に見えているのだ。寺田が一番嫌っているのは知性を馬鹿にされる事なので、そうならないためにも勉学は必要だと判断したのだ。だから社長としての一面を持ちながら魔法学校に通っている訳である。この学校は1885年8月25日を設立年月日としていて碩大区内では最古に設立された教育校として有名だ。魔法学校になる前までは中学校、高校と基礎的な授業をしてきた。ところが、実際に神様が降臨してから理事長の一文字左衛太朗という男が「これからは魔法の時代だ!」と息を荒くして謎の宣言をし、いち早く魔法授業の導入を開始させた。すると私学にも関わらず、入学希望者が殺到して足若丸魔法学校は世界でも有数の魔法教育校に成り上がったのだ。言い方は悪いがゼニ方面でも儲け、日本最大級のマンモス高校の一面も持っている。一万人を超える生徒達を迎え入れているので、校舎も圧倒的な広さを誇る。魔法界から連れてきた魔法生物を管理飼育する広大な敷地も存在していて、そこではドラゴンが滑空し、ユニコーンが処女教師の手によって放し飼いにされているのだ。無論、それ以外の数多なる魔法生物も管理人、生徒、教師が責任を持って面倒を見ている。これらの施設は足若丸魔法学校の顔として知られているのだが、それ以上に有名なのは生徒達の居住施設だろうか。学校の中に丸々一個の街が存在していて、そこでは生徒達の寮は勿論、ゲームトレカ、家電量販店、雑貨屋、漫画喫茶などの趣味に飢えた生徒達が涎を垂らす程の施設が運営されている。一つの街が解放されているので当たり前だが衣食住には困らない。生徒達は放課後になると居住区に繰り出して仲間同士でワイワイと騒ぎ友好関係を深めるのだ。これらの施設全てが一文字左衛太朗のアイディアで創られ、彼のポケットマネーから管理費が出ている。そう、彼は世界でも有数の金持ちとしても有名なのだ。
そんな足若丸魔法学校は部活動にも力を入れている。前世紀、前々世紀から伝統とされているのは卓球部、陸上部、野球部、バスケットボール部だ。中でも野球部は甲子園優勝を8回経験しており、未だに野球推薦で入学する生徒も珍しくない。ちなみに足若丸魔法学校の著名人、現王園英雄は日本プロ野球シーズン本塁打の不滅なる記録を残している。一文字理事長は急遽、彼を臨時校長に任命して足若丸魔法学校を更なるマンモス学校にする計画を立てていた。それが計画通りに運んだのかどうかは不明だが、今年も世界中から入学希望届けが溢れ返ったそうだ。それぐらい有名な人物を輩出している足若丸魔法学校に、最近奇妙な部活が誕生したと噂になっている。その部活は探偵部という名前だ。しかし探偵部とは名ばかりで部長と副部長が派手に暴れ周り、学園の悪さをしているともっぱらの噂になっている。寺田誠は探偵部にも興味を示していて、中でも副部長を引き抜こうと躍起のようだ。何度も何度も「うちの会社に来てくれ」と頼んでいるそうだが、結果は惨敗。顔面に唾を飛ばしながら激昂した拒否されたらしい。だが、寺田誠はそれぐらいの事で諦める男では無かった。今日も今日とて新入社員の募集をしながら学園中の生徒をスカウトしている筈だ。本丸が駄目なら数打てば当たる作戦に出るしかない。何度も述べるようだが、101回目の倒産危機を乗り越えるためには優秀な人材が必要である。それに加えて寺田の横暴とも言える運営手腕に耐えられる人物が。そういう人物は決まって、頭がネジ狂ったキャラじゃないと社員は務まらない。社長が狂っているのだから社員も狂っていないと話しにならないのだ。それ故に寺田は『イカれたメンバー募集中』のスローガンを掲げて、学園中の生徒に募集をかけているのだった。