表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/17

006  最悪の結末


 世界中が恢飢と呼ばれる魔法生物に襲われているのは前述にも触れたが、その恢飢にはランクに応じて強さが全く異なる。GランクからAランクにまで別れているのがGランクは言うまでもなく最弱。基本的な魔法知識を持っていれば中学生でも簡単に倒せるレベルだ。Fランクも弱い分類に入るが、中学生では心苦しい部分もあるかもしれない。が、魔法訓練を受けた高校生ならば楽に倒せる相手だろう。Eランクを越えてくると学生では少々きつくなってくる。魔法耐性に特化していたり、物理攻撃を一切受け付けない物もいる。とは言っても頭をちょいと捻れば簡単に捻じ伏せる事が出来るのでEランク以上は頭の回転の良い悪いが影響してくるかもしれない。ランクによる強さは国もしくは世界によって違うが、日本の恢飢は他の国よりも凶暴化している。だから重火器の使用を許されているのだ。そして、寺田の目の前にいるビッグノーズバットのランクはFランク。魔法訓練を受けた高校生ならば容易に倒せる相手だ。そう思って油断すると痛い目に遭うのが御約束なので寺田は最初から本気モードに突入していた。軽量化の魔法効果が付いたミニミ機関銃を、ハンドガンのように軽く扱って、上空に向けて発射する。トリガーを引く度にバンバンバンとリズミカルな発射音が耳に響き、とても心地よい。あまりの爽快さに寺田は我を忘れて興奮状態に陥っていた。


「ハハハハハハ!! どうだね、僕のミニミ軽機関銃は格別だろう。この発射音がたまらなく好きでね。僕はトリガーを引くと弾が無くなるまで発射してしまうのさ。君みたいに大きいだけの蝙蝠なんざ的と一緒、直ぐに蜂の巣にしてあげるよ」


 声たからに宣言しながらミニミをぶっ放していた。軽量化しているので三脚を取り付ける必要も無い。そもそも固定して軽機関銃を使うのは寺田の流儀に反している。今の時代、遠くの敵を軽機関銃で倒そうとする者は数少ない。男なら突撃一筋と言わんばかりに至近距離からの発砲が主流となっている。と、寺田は勝手に解釈していた。というのも寺田以外に軽機関銃を使っている祓魔師エクソシストなど見覚えが無かったからだ。こうして派手に暴れ回っているのも寺田ぐらいだ。今時、恢飢に向かってミニミを乱射する輩なんざイカれてると思われるのも仕方が無い。だが、寺田は周りの人間に流されなかった。どんなに非難されようとも自分のやり方を貫く。それが男として当たり前の行為だからだ。1980年代の陸軍共はミニミを背負って戦場に立っていた。彼等のように真の男になりたいと願うばかりだ。ところが、新井のハイテンションとは裏腹に後ろでは秘書の雨野菜摘が冷静な口調でこう言ってきた。


「誠に言い難いのですが、全く当たっておりません。ターゲットはその図体の割に軽快な動きを見せていますよ。余裕な表情を見せて上空を飛び周っております。これではどっかの誰かさんと大違いですね」


 その言葉を聞いてムムムと感じてしまった。数えるだけでも60発の弾丸を発射したが、どれも当たっていないというのだ。ここにきて寺田の致命的な部分があらわになってしまったようだ。寺田は昔から敵に標準を向けるのが苦手だ。なので、敵を見ると一目散に乱射して適当に弾を撃ち続けている。そこにきて、マズルフラッシュ問題だ。連射すると目の前が真白く光って何も見えなくなる。そこまで言うと大げさに聞こえるが、興奮しているのも相まって敵を視認出来ないのだ。とにかく寺田はトリガーを引き続けて乱射続ける事に快感を得ていた。そんな男がまともに戦える筈も無い。寺田は以前として5.56mm弾の分厚い弾丸を発射しながら、銃身を動かして索敵していた。巷で呼ばれる弾幕クリアリングという方法だ。かつて戦場と言えば相手は人だった。人は精神状態によって戦闘力が変わる繊細な心の持ち主だ。そこを巧みに突いたのが弾幕クリアリングである。軽機関銃を持った人間が乱射しながら自分の元に歩み寄ってくる。この恐怖たるや筆舌に尽くしがたい。戦場では弾の無駄になったり自分の位置を知らしてしまう危険性があるので、こことぞばかりの戦法なのだが、寺田にとってはデフォルトの戦い方だった。


「なんて奴だ。その大きなビール腹は飾りで本当は俊敏に動けるとは……いやはや恐れ入ったよ。でもね、僕にかかれば君なんざあっという間に蜂の巣だ。さあ、観念して出てくるがいい! 僕とミニミが相手になってあげるよ!」


 相変わらずマズルフラッシュで何も見えないし、銃声によって自分の声はかき消される。あまり言いたくは無かったが寺田の軽機関銃は決して強いとは言えない。確かに軽量化したかもしれないが、他の銃より何倍も大きな軽機関銃を取り扱うのは至難の業だ。持ち主の技量が試されると言っても良いだろう。しかし、このミニミはハマれば驚異的な威力を発揮するのだった。


「ギャアアアス!」


 トリガーを引きながら適当に乱射していたのだが、運よく手応えがあった。寺田は一点集中してポイントに向かってトリガーを引き続ける。すると200発入っている弾倉が尽きた同時に、恢飢の悲鳴が耳に聞こえ、まもなく大きな図体が音を立てて地面に沈んでいた。ミニミの強力な一撃を何度も浴びたビッグノーズバットは寺田の言う通り蜂の巣になっていた。ありとあらゆる箇所に穴が開いて、壮絶な乱射が展開されたと誰もが予想可能だった。寺田は恢飢の死体に近づいて蹴りを入れながら本当に死んだのか確認をする。そして息が無いと分かると喜び勇んで天高く拳を突き上げる。まさに勝者のポーズだ。


「ハハハハハハ。やったぞ雨野君、どうやら無事に任務が達成されたようだ」


 しかし、相変わらず寺田と雨野のテンションは逆だった。雨野はまるで恢飢の死体を身内の死体のように悲しい目で見ていたのだ。そしてその口からは驚愕の事実が告げられようとしていた。


「社長。依頼内容を良く確認されましたか?」


「当たり前だよ。依頼の確認は基本中の基本だからね」


「誠に残念ですが……今回の依頼はターゲットの捕獲でした。死んでしまっては元も子もありませんね。生きた状態で連れ帰って欲しいと依頼されたのですよ」


 その言葉を聞いて、寺田は口をポカンと開けて猿のような顔をしていた。なんど依頼内容とは全く逆の行為をしてしまったのだ。無能としか言いようがない自分の判断ミスに落ち込みながらも何とか気力を振り絞っていく。


「ああ、そうだったのか。それはとても残念だ。これは一応確認として聞いておくが、契約にミスが生じた際に依頼料金は発生されるのかな?」


 声を震わせながら恐る恐る尋ねていた。


「無理でしょうね」


 と、雨野秘書は引きつった顔で即答するのだった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ