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005  中断された会話


 目的の場所に辿り着いた。ここは二人が通っている足若丸魔法学校から徒歩十分程度の距離に位置している。所謂高級住宅街と呼ばれる場所で、如何にも野良猫を嫌っているであろうセレブ達が家の敷地にガラスの破片を蒔いている。もしかすると恢飢対策かもしれないが、前述にも述べたように恢飢は通常攻撃を全く苦としない。魔法の効果が付いていないとダメージを与えられないのだ。すなわち魔法であれば何でも良い訳だ。例えるならば寺田誠が所持しているミニミ軽機関銃には軽量化の魔法効果が付けられている。これにより、装填時に10キロを超える重さのミニミもハンドガンのように軽やかに扱える。軽量化の魔法効果を付けたのは寺田誠の父親だが、重火器に軽量化の魔法をつけて連続した白兵戦を可能にさせた第一人者は他にいる。寺田はその人物をえらく気に入っていたので、ビッグノーズバットとの対戦が始まる前に少し紹介したかった。これまでの行動でも分かるように寺田は言葉を口に出して喋るのが気に入っている。そう、武器だけではなく。寺田の口自身もマシンガンなのだ。その鳴り止まない言葉の連続に嫌気がさして、組織から脱退した者も少なくはない。寺田は「ごほんごほん」と咳込みながら、雨野秘書に向かって言葉を投げかけていた。


「さーて雨野君。今回のターゲットは夜行性だから夜まで待つのもありとは思わないかね。僕ぐらいのプロフェッショナルになると相手の土俵に立って常に戦いたいと思っているのさ。どうかなこの名案? 君ぐらいの有能な秘書ならば容易くYESの返事をしてくれるだろう?」


 いつものように、寺田は独特のテンポで言葉を発していた。他の学生連中はとにかく短い言葉で会話を済ませようとするが、寺田は全く違う。会話もスローテンポで喋っているので某戦場カメラマンを彷彿とさせる。さすがにあそこまで遅くは無いが、他の人よりも丁寧に喋っているのは間違いない。全ての物事に理由があるように寺田の喋り方にも理由があった。その理由とはズバリ、父親の影響だ。彼の父親は栄光ある死を遂げたと言ったが、亡くなるまでは尊敬する良き父親だった。それにどうやら祖父の喋り方もゆっくりならしいので、父親というよりも、もしかすると遺伝的な何かかもしれない。それは分からないが、その喋り方がより他の人をイラッとさせる事に拍車が掛かっているのは間違いない。ただでさえ口を開けばミニミ軽機関銃の魅力を語り尽くす癖に、尚且つスローテンポで喋りかけてくるのだから。幼馴染である雨野菜摘とは長年ずっと親しくしてきたので、寺田の喋り方には慣れている筈だ。しかし、雨野は以前として引きつった笑顔で此方を見ていた。どうにも怒っている様子が確認出来る。


「社長。急にイカレた事を言い始めるのはやめて頂けませんか。私達には契約を終えた後にも用事があるでしょう。その用事は仕事よりも大切で休む訳にはいきません。ここに来て、夜まで待つなんてありえないと存じ上げますが」


 やはり雨野の意見は否定的だった。契約を果たすよりも大事な用があるのは寺田も良く分かっている。それは15歳の少年少女が毎日朝通わなければいけない場所。すなわち学校だ。今回の仕事は早朝に行っているので、終わり次第学校に登校するのが当たり前である。しかし寺田誠は学校に良い反応を示していない。足若丸魔法学校では主に体内から放出される魔力を使って授業をしている。生徒達のほとんどが武器を持たずに素手から魔法攻撃を行っている。そんな中で軽機関銃を背負った男が登校してくるのだから他の生徒達は異色の目で寺田を見ていた。それに関しては特に問題無いのだが、ミニミ軽機関銃を馬鹿にする生徒達は許せなかった。自分のやり方を否定するのはまだ許せる。でも、自分の信じている相棒に向かって暴虐の言葉を尽くすのは如何せん許しがたい。それ故に寺田は学校に対して良い評価を下していなかった。雨野の言葉を聞いて納得する部分もあったが、どうしても喋りたい事に関しては我慢できなかった。


「ああ……それはそうだね。僕とした事が本業を忘れていたようだ。ついつい組織のトップである自分とばかり向き合っていた様で、学生の自分を見失っていた。その点については謝るよ、謝るけど聞いてくれ。ずっと君に話したくて仕方が無かったんだよ! 僕のミニミがどうしてこんなに軽いかというと、それはズバリ軽量化の魔法効果が付いているからさ。ふふ、その様子じゃ心底驚いたようだね。それも無理は無いよ。なんてったって軽量化の魔法は二年生に習う範囲内だ。僕達みたいに高校一年生の分際では、とてもじゃないが扱えない代物だ。しかーし、僕のミニミ軽機関銃には間違いなく軽量化の魔法効果が付いている。それは何故か……話しは長くなるので不要な部分は割愛させて頂くしよう。ズバリ、僕の父上から譲り受けた代物だから軽量化魔法の効果が付いているのさ。僕の父上はそれはそれは偉大なる祓魔師だったと同時に博識高い魔法使いと言われていた。そんな父上がミニミに軽量化魔法を付けようと決心する前、実は以前に重火器を軽量化させて戦場を駆け回っていた第一人者がいたのさ。その人物こそが……」


 話を続ける寺田だったが、後ろでバサバサと喧しい音が聞こえてきた。まだ会話の途中だったというのに急な物音で中断されたばかりに寺田は不快な思いをしていた。会話が中途半端に途切れるのは本当に嫌だってので、後ろを振り返って音の正体を突き止めようとした。ところが、後ろを振り返って目の中に飛び込んできたのは予想外の獣だった。そう、本来は夜行性で朝寝ている筈のターゲットが空中を滑空しているのだ。雨野の報告通り、全長10メートルはあろう巨大な身体を揺らしながら優雅に空を舞っているではないか。


「社長。依頼内容に酷似した恢飢を目視致しました。恐らくあれがビッグノーズバットだと思われます。情報によると夜行性だと言われていましたが、この分だと、どうやら生活習慣に問題があるようですね」


 会話を中断されてイライラしている寺田とは対照的に、雨野は冷静な口調で報告をしていた。その冷静さには惚れ惚れするが今はそれどころじゃない。この怒りを誰に向けて発散すればいいのかと自問自答すれば自ずと答えは見えてきた。寺田は目線をターゲットに向けていたが、言葉は雨野に向けて発し始める。


「せっかく気持ちよく喋っていたのにタイミングが悪すぎやしないか? まあいいさ。この空気を読めない蝙蝠君を片づけ次第、話しの続きを聞かせてあげるよ」


「それは結構ですが依頼内容を再確認して……」


 雨野が何か言おうとしていたが、既にミニミ軽機関銃から弾丸が発射されていた。その弾丸は目的に向かって真っすぐと進んでいく。




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