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003  ミニミ軽機関銃をこよなく愛す男


 目的の恢飢を潰すためにも両者は社長室から出て外に飛び出した。社長である寺田誠氏の背中にはキッチリとミニミ軽機関銃が背負われている。この武器は今から100年以上前のベルギーで産声を上げたと言われている。所謂、分隊支援火器と呼ばれるカテゴリーに属していて、相談数は驚異の200発。敵に向かって撃ち続ければあっという間に蜂の巣と化すのは容易に想像出来る。とは言っても、魔法主義の日本でミニミ軽機関銃を背負っているのは寺田ぐらいだろう。よっぽどの愛着がないと使いこなせないのは目に見えている。どれだけの連射が可能と言えど、素直に魔法を使った方が効率的だ。わざわざ魔法効果を付けてまで使用する価値は見当たらない。だが、寺田にはポリシーがあった。この武器を使わざる終えない目的とはズバリ、父親の形見だからだ。この武器はかつて父親が使っていたのだが、とある恢飢との戦いで虚しくも散ってしまった。そんな父親を誇りに思っているので寺田は父親の武器を使い続けていた。どんなに周りから時代遅れの骨董品だと罵倒されても、何も感じずに使い続ける。このミニミを使っていると父親と一緒に戦場を駆け回っている気がして心が安らぐ。それに一度ミニミを使ってしまえば他の武器で戦おうとは思えなくなるのだ。弾丸を発射する度に気分が昂ぶり、頭の中がスッキリとする。今まで頭の中でボヤボヤとしていた霧も、ミニミを発砲する事で払われる。他の武器では到底感じられない気分だ。結局、祓魔師は自分の好きな戦い方で恢飢と相対せば良いと寺田は考えていた。戦場では常に自分の戦闘スキルよりもメンタルが重要視される。気持ちが萎えていると、どんなに優れた戦闘技術も発揮されない。大げさかもしれないが恢飢との戦いは命がけだ。決して半端な気持ちで挑んではいけない。そう父親にも教えられたので寺田はミニミを使い続けていた。この武器を使っている時だけが本当の自分でいられる。そんな感じがするのだ。寺田が恢飢退治に拘っている理由は父親との関係もあるが、それと同様に本来の自分を表現する事も関係している。世の中はいつだって不条理だ。自分の思うがままに物事は進まない。寺田自身も相次いで不幸な連続に見舞われてきた。しかし、どんな逆境にも動じにこれたのは愛銃のおかげだ。ミニミ軽機関銃がある限り、寺田は人生の歩みを止めないだろう。それだけはハッキリと言える。ところが、幼馴染で秘書でもある雨野菜摘あまのなつみはミニミ軽機関銃に批判的な態度を持ち合わせていた。この前も不用意に連射すべきでは無いと言ってきたのだ。寺田はその言葉を受けてカンカンになり、軽機関銃を使用する上でのルールを言い始めた。それは6時間にも及ぶ長い説教で、何時の間にか雨野は眠ってしまっていた。後で聞くと、説教が始まってから2分で話しに飽きて寝てしまったという。それに気が付かないで6時間も話し続けたのは愛故だとしか言いようがない。目的地まで歩いている今でも、ミニミ軽機関銃の愛が炸裂していた。


「いいか良く聞いておくれ。僕の持ってる銃は様々なバリエーションのあるミニミ軽機関銃の中でも最もフォルムが素晴らしいとされるM249だ。これは僕の独断と偏見による個人的見解なので、他のミニミファンには申し訳ないがね。ハハハハ。いやー、僕も全てのミニミを愛しているけどM249に勝るフォルムには見覚えがないのだよ。雨野君も見たまえ、この神々しい色艶を。まるで最新鋭の科学が集合したように思えるが、M249が前線で活躍したのは100年以上前だよ。時代で言うと20世紀になるね……1984年にM249分隊支援火器という名前で陸軍に配備され、現在は僕の手元にM249が眠っているのだよ。最高の出会いだとは思わないかね?」


 いつもながら長々しい言葉を使ってミニミの素晴らしさを語っていた。この武器に敵う物は本気でいないと信じているからだ。その自信が無いととてもじゃないがミニミ軽機関銃を自慢出来ない。なんせ他にも軽機関銃は存在しているのだから。言い方は悪いかもしれないが、ミニミは軽機関銃の中でもマイナーの分類に属している。一般人に「M249の素晴らしさを語ってください」と街頭インタビュをすれば、ほとんどの人間が首を傾げるだろう。とどのつまり軽機関銃の存在自体を一般人を知らない。隣で憎たらしい笑みを浮かべている雨野秘書も当然ながら一般人の部類に入る。いつも寺田から長々しく聞かされているので他の人間よりかは知っている方だが、それでも彼の熱意には勝てないだろう。熱弁を披露する寺田とは相反して、彼女はターゲットの資料を持って読み始めていた。さすが秘書だと褒めてやりたいが、熱弁を無視された形になっているのは否定出来ない。


「社長、今回のターゲットはビックノーズバットと呼ばれる恢飢です。名前の通り鼻が大きい蝙蝠型の形状をしています。と言っても、大きいのは鼻だけではありません。羽を伸ばした上で計測した全長は10メートルを軽く超えています。独自の器官から超音波を発射して周りの住人に危害を及ぼしているとデータには書かれています。朝も昼も夜も関係なく超音波を発しているようで、住人の苦情が後を絶たないとか。それで私達に依頼が来たようです」


 ようするにカラスだと思えばいいのかと寺田は考えていた。住人達を怪我させるとまではいかないが小規模な被害を出しているのは間違いないと。確かに夜中の0時過ぎ、窓から超音波が聞こえてくるなんて迷惑極まりない。自分達に依頼してくるのも納得だと寺田は勝手に解釈していた。そしてその上で、猛弁を振るおうとしていた。


「へー。全長10メートルを超える巨大な蝙蝠か。それは魅力的かつ驚異的ではあるが、ミニミの敵では無いね。その言葉を聞いてる限りでは如何にも強そうなモンスターだと表現されているけど、よくよく考えれば大きいだけの蝙蝠なんざ的と一緒。僕がトリガーを引けば万事解決、何の問題もなく契約は果たされるよ」


 寺田は胸を張って自信満々に宣言していた。まもなくビッグノーズバットの命は尽きると。しかし、過信し過ぎるあまり予想外の怪我を食らうのが寺田の悪い癖だ。その癖が出ないといいが。



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