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013  ミニミを罵倒するのは断じて許されない


 契約通りに事が運ぶだろうと今回ばかりは想定していた。これは何も寺田誠が自信満々な正確かつミニミ軽機関銃をこよなく愛して、友達の次に信用しているからという訳では無い。標的はあまりにも弱小だからだ。今回倒すべき相手はウルフ。恢飢の中では至ってポピュラーな相手であり、たとえ人化したとしても大した危害にはならない。しかしそれでも、凶暴性が高いには変わりないのだ。誰かが駆除しないといけない。その点、寺田誠が管理運営している会社にはもってこいだ。某有名企業に依頼するには相手が弱すぎるので逆に失礼となる。かといって自分で討伐するのも気が引ける。だからこそ、寺田誠に依頼が回ってきたのだ。ようするに雑用を掴まれたに過ぎない。誰でも簡単に倒せる相手だとしても、今の世の中では面倒事が付きまとう。恢飢を討伐する事で利益を生んでいる会社は多数存在し、ここいらでもライバルが多い。優良物件は他所に取られてたまに入ってくるのは雑魚ばかり。しかし、寺田は引き受けた仕事は何が何でも通そうとする意志があり、何よりも仕事を楽しんでいる。相手がたとえ弱小恢飢だったとしても喜び勇んで現場に駆けつける。ハッキリ言って学生生活よりも、恢飢をしばき回して会社に利益を生む方が寺田は好きだった。故に彼はルンルン気分で鼻歌を唄いながらスキップをしていた。周りの連中は「ヤバいな、あいつ!」と心底驚いた様子で見ているが、寺田は全く気にしていない。他人がどう思うと関係ないのだ。あくまでも自分の人生は自分で決めるべきだ。寺田はそう信じて自分の道を突き進んでいた。とは言っても、いつも隣にいる秘書の雨野菜摘はとばっちりを受けているのだが。雨野は下を向いて赤面しながら社長が行っている行動について議論を交わそうとしているのが手に取るように分かる。だが、寺田誠とまともな議論は成立しない。難解な言葉をへりくだって言いだすので「はいはい、分かりました」と雨野側が断念するしかないのだ。ワンマン社長とはまた違う、独特な会社運営をしているのが寺田誠その人だ。これまでに何度も倒産の危機が訪れてきた。訪れてきたが、その困難を見事に跳ね返してきた実力を持っている。ようは運だけは良い。他のパロメーターは皆無に等しいのだが。例えば、魔法学校に通っているにしては魔法収容力の値が極端に低い。魔法収容力とは魔法を使える限界値を示している。ゲームで例えるとMPだ。MPが他の生徒よりも低いので授業中に使える魔法も限られてくる。魔法が使えなければ肉弾戦しかないのだが、寺田は思っているよりも身長が低い。大きい声を出して「此の世界に弾幕の花を咲かせようぞ!」と叫んでいる割には拍子抜けしてしまうぐらいの低身長だ。小学6年生の集団に交じっていても遜色のないレベルである。おまけに握力も底を切っている。何が優れているのかと周りの人間に問えば、皆が難しそうな表情を浮かべて唸り出す。それぐらい、寺田誠には突出した才能が無いのだ。ただただ腹式呼吸が出来て声が大きく、敵が現れれば弾幕という名の無駄弾を撃つ。それだけである。今まで会社が倒産せずに成り立っているのも運が味方についているからとしか言えないのだ。そんな事もつゆ知らず、寺田誠は道路の真ん中を堂々と歩きながら周りの車にクラクションを鳴らされていた。「あほが、死にたいのか!」と罵声の声が響き渡る。しかし、寺田誠は凛とした態度を見せながら運転手達に言い返していた。いつもの弾幕トークを展開して。


「おいおい、随分とおかしな口調で喋っているじゃないか。いいかい、歩行者が道の真ん中を歩いてはいけないと君達が決めたのかい? それは否だ。断じて否。結局君達は決められたレールを走って生きるしか脳にない連中だ。レールから外れて堂々と生きている僕に、そんな口調で物が言える筈が無いだろう。僕の言っている意味が分かったらさっさとその汚いつらを下げて目的地までドライブを楽しむが良いさ。でもね、人生ってのは目的地が無いから面白いと思わないかな? だってそうじゃないか。決められた運命に向かって走るのは愚かであると一回でも思っただろう。なんで自分は良い学校を出たのにトラックの運転なんかしてるんだってね。もっとやりたい事があった筈だと……だから思うに僕は」


 長々しい言葉を続けている瞬間だ。頭上に衝撃が走ったと思うと視界の周りに星が輝くようになっていた。そうだ。またしても秘書である雨野菜摘に殴られたのだ。雨野は申し訳なさそうにドライバーの方々に頭を下げながらペコペコと謝っていた。無論、ドライバーも男だ。美人が必死に謝っているのに、それでも尚怒る筈も無い。ドライバーたちはニヤケ顔を浮かべながら「いいってことよ!」と爽やかな声を出していた。だが、雨野の中で伸びている寺田には打って変って目つきを悪くして「ぶっ!」とガムを飛ばしてきた。そのガムは自慢のミニミ軽機関銃にへばりつき、寺田は失いかけていた意識を瞬時に取り戻す。大事に大事に扱ってきた相棒を馬鹿にされたのだ。怒り心頭になるのは無理もない。


「ぼ、ぼくの美しいミニミ軽機関銃に何をするんだ! 頑固親父と呼ばれた父親にさえ傷けられなかった代物だぞ。それが君のような愚民の手によって汚されるなどと断じて許されない! そ、そ、そ、そそのトラックを蜂の巣にしてやろうか!」


 雨野に殴られた衝撃とミニミ軽機関銃にガムを吐き捨てられた怒りが合わさり、寺田の呂律は全く回っていなかった。



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