悪役令嬢に生まれ変わりましたけど種族がエルフとはどういうことですか
悪役令嬢で一本書きたかった系作者。
生まれる種族を間違えました。
どうしてこうなったのでしょう、謎です。
皆さまわたくしのとんがった長耳に興味すらわかないみたい。
謎です、わたくしは何故エルフへと転生しているのでしょう。
しかもこの世界は前世で穴が開くほどプレイした乙女ゲーの世界に酷似しているのです。
それに当てはめるとわたくしの役どころは悪役令嬢ということになりますが、確か彼女は普通の人間であったはず。
間違えても今のわたくしのように魔法が使えたり、妖精さんと楽しくお話したりは出来ません。
一体何が起きたのでしょう、世界とは不思議で一杯でございますね。
「おはようございますエルタージュ様、今日もまたお美しい。」
わたくしが意識を飛ばしていた為でしょう、家に仕えますメイド様が少し大きな声で挨拶されます。
頭を30度きっちり下げまして、見ゆる顔にははっきりと朱色が混じりとても可愛いらしい。
わたくしは恵まれておりますね。このように可愛らしいメイド様に毎朝起こしてもらうなど、贅沢です。
それではたっぷりとわたくしもメイド様を可愛がって見せましょう。
「おはようクルナ。今日も可愛らしくて、抱き着きたい気分ですよ。」
「…うっエルタージュ様?その、もう抱き着いております。やっ止めてくださいませエルタージュ様。」
先程まで朱色に染まった頬はわたくしが軽く抱き着いただけで更にその色を濃くしていきます。
とっても可愛らしいわたくしのメイド様。
離れるには惜しい、わたくしだけの居場所でございます。
「はっ早くしなければ学院に、遅刻してしまいますエルタージュ様。」
「…そうですわね。さっさと用意しましょう。クルナ」
わたくしは抱き着く手を離し、メイド様から距離をとります。
それを見て少しだけ残念そうな顔をしたのをわたくしは見逃してはいませんからね。
今は学院の支度をせねばなりませんが、時間を見つけてまた抱き着いてやるとしましょう。
本当甘えん坊なのですからわたくしのメイド様は。
いつもの時間がやってきました。
乙女ゲーの舞台となる学院にわたくしは足を踏み入れます。
寄ってきます取り巻き達と共にわたくしは自らの教室へと向かいました。
道中向けられる視線は好意的な物から鬱陶しそうな物まで様々。少々居心地が悪いのは仕方のない事かも知れません。
ゲームの中の彼女はこれをいつも受けていたのですね。
なのであんなに性格が曲がってしまったのでしょう。わたくしがもし前世の記憶を所持していなければと考えますと恐ろしいものがあります。
現世はエルフとして周りの人たちとは異端と呼ばれてしまう亜人種。
魔法なんて放ちましたら直ぐに捕まりそうなものです。得意の水魔法と風魔法を人前で使う機会は未来永劫ないでしょう。
しかしゲームの中の彼女のままでしたら、躊躇なく使うでしょうね。
人を従え、人に自分は特別なのだと思い知らせる。
本当に良かったです、そのようなことにならなくて。学院の平和、若しくは世間の平和の為にもこの力は封印しておくに限ります。
『エル―お腹すいたよ。何か食べさせてほしいよろし』
わたくしの肩に乗る妖精さんは今日も空気を読んではくれないみたいです。
取り巻き達に囲まれながら笑顔を絶やさないわたくしは声に出さず、妖精さんを無視します。
それは皆さまには妖精さんの姿はおろかその声さえ聞こえないためですが、後でしっかり魔石の粉を与えますので少しお待ちになって妖精さん。
「皆さま、それではまたお昼に。場所は一階の食堂でございます。」
わたくしはようやく着いた教室の前で解散宣告。
それに伴い取り巻き達は己の教室へと向かって行きました。
…全く人を従わせると言うのは疲労がたまりますわね。何が楽しくてこんなに人が寄り付くのでしょう。
彼らの思考回路が疑われます。勝手にわたくしについてきて、疲労させて、どうするおつもりで?
「…まあいいですわ。わたくしの癒しはクルナとそして主人公さんに決めていますから」
わたくしが教室の扉を開けますと、静まり返る生徒達。
何に怯えていますのか、私の顔を見ようとすらしません。
扉を開けますまで賑わっていましたのに、不思議ですね。わたくしは別に貴方達をとって食いはしませんことよ。
安心為されて、楽しい会話を続けて下さいませ。
「おっおはようエルちゃん。そっそのあのぅ」
唯一声をかけて下さるのは乙女ゲーでは主人公に選ばれたサチュ=アベートさん。
いつもの愛らしい茶髪のぱっちりお目目にわたくしは癒されます。
「おはようごさいますサチュ。今日も可愛らしいですわね」
「ふぇ?あっも、もうエルちゃんってば。私なんて全然可愛くないよぅエルちゃんの方が断然可愛い!」
そう断言される主人公さんは両手を握って、わたくしへと一歩近づく。
距離としては頭一つ分と言ったところですか。少々近づきすぎでございますわね。
嫌と言うわけではないですし、むしろ好ましいのですがこの子の距離感掴めていない感じは同性としては嫌いな人もいるでしょう。
以後気を付けてほしいと共に、わたくしだけの特別でしたら問題なくこれからも近づいてきてよろしいですよ。
「…あっごめん。顔近いよね、ごめんね。私の可愛くない顔なんか近づけちゃって」
主人公さんは笑って一歩後ろへと下がりました。
どうやら彼女にはトラウマがあるらしく、人とのコミュニケーションが難しくなっており。
これもゲームとは違いますわね。
愛らしく人に愛想をふりまき、いつも笑顔で頑張る姿。それが今はわたくしだけに笑顔を向けておりますので原作とは何だったのかと言いたくなります。
いや、この世界がゲーム通りの世界でないのはわたくしが一番分かっているのですが。
それでも主人公さんにはゲーム通りに笑顔を常に忘れない子となって貰いたい。
わたくしは一人決意をいたします。
「サチュ、謙遜は時に人を傷つけると知りなさい。貴方はとても可愛いですよサチュ。」
「え?エルちゃん、どうしたの。だっ抱きしめるのは少し恥ずかしいよぅエルちゃん、人前だし」
抱きしめる主人公さんを胸に、あぁ高鳴る胸をわたくしに寄せながら。
決意いたします、きっとこの子を幸せにして見せると。
とりあえずはわたくしでリハビリです。時を見てゲームの男共に会わせてみましょうか。
きっと気に入るはずですし、きっと彼等なら貴方を幸せに導いてくれますよサチュ。
「おねっお願いだからエルちゃん離してっ恥ずかしい、恥ずかしいから。皆の視線集まってるから、はずっ恥ずかしいよぅエルちゃん。」
涙がわたくしの肩まで滲む主人公さんを胸に、今日も悪役令嬢ことエルフのエルタージュは平常運転です。
※ 宜しければ評価して貰えると泣いて喜びます