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俯棺風景  作者: ししゃもふれでりっく
第一話 少女の見た世界
3/116

02




 リロード。


 何度かその単語を呟きながら、眼前にいる悪魔と称される生物の肉を穿つ。初めに羽、次に足、次いで腕、腹、胸、頭。次々に風穴を開けていけば、絶叫と共に悪魔が事切れた。計23発の弾丸。脳内でカウントしていた弾丸の数に思いを馳せながら、屍と成った悪魔に近づく。


 近づけば、23発の弾丸が埋めこまれた悪魔の死体からは硝煙の匂いと、飛び散った肉片の匂いがする。すえた様なその匂いに自然、すん、と鼻がなった。


 弾丸が埋めこまれる前は、人と同じ形に蝙蝠の羽を付けたテンプレートのような悪魔だった。それが今では弾けた柘榴の実のような不格好な姿を晒している。


 そんな不格好で不愉快な殺し方をしたのが僕であるという事実に反吐が出そうになった。もっとも、この世界では反吐が出るはずもなく、その行為によって得られたものはフラストレーションだけだった。


「血は見事だけれど、それ以外は綺麗なものだ」


 腰元からナイフを取り出し、悪魔の腹を裂く。黒々とした皮膚の内側がピンク色というデザイナーの趣味の良さに辟易しながら解体を続ける。実際の生物ならばこうして腹を裂けばナイフや辺り一面が汚物塗れに成った事だろう。そういう意味ではとても綺麗でゲーム的な死体だといえる。


『インプラントデビルの肉を手に入れた』


 視界の隅にそんなテロップが表示され、手にした肉片がキャラクターごとに存在する仮想ストレージの中へと消える。こういう非現実的な所はとても便利だと思う。


「あぁ、そういう名前だから人間の形をしているのか」


 悪魔を埋めこまれた人間と言った所だろう。流石、『彼』が作った世界だけの事はある。人殺しに慣らせるために低レベル悪魔としてそんな存在を産みだしたという事ではないだろうか。全く、良い趣味をしている。そんな感慨を浮かべて、悪魔インプラントデビルから離れる。もう彼に用はない。


 用があるとすれば、生きているインプラントデビルだけである。


「レベル上げの趣味はないけれど……」


 まだ死ぬ気はない。


 一ヵ月程経ったとはいえ、初日に見た光景はまだ記憶に新しい。十数回以上鳴ったレベルアップを告げる気の抜けたファンファーレ、それに立ち向かったレベル1のプレイヤー達。その差は歴然だった。あの光景を見ていた者達は、悪魔やそれこそプレイヤーキャラを殺して必死にレベルをあげている事だろう。


 ちなみに、僕は悪魔を殺す事を選択した。


 もっとも、殆どのプレイヤーがそうしたに違いなかった。あの界隈の人間なら別として、普通に考えて、善良なる日本人が生きるためとはいえ、いきなり人殺しを行えるかと言えば無理に決まっている。


 もっとも、僕はといえば、死体写真を眺めるのが趣味であるとはいえ、喧嘩も碌にした事が無ければ人を殺した事もない口だけの人間である。そんな人間がまともに人を殺せるとは到底思えない。それに、自分が不愉快な死体を作り出すのを想像するだけで自分を殺したくなる。そんな真っ当な理由で、悪魔を殺す事を選択した。とはいえ、先程のように悪魔を殺した姿を見ても毎回反吐が出そうになるのだが……


 さておき。勿論、これだけが理由ではない。


 この世界がレベル性VRMMORPGであるという事も理由の一つだった。


 もう少し時間が過ぎれば装備品などで想像も付くかもしれないが、レベルなどは傍から見ても分からない仕様な御蔭で闇雲に人を襲う気にはなれない。巷のデスゲームを題材にした小説などでもあるだろう。モンスターを相手にしてもマージンは十二分に取るのだ。同じ人間を相手では同一レベル帯で殺し合おうとは思わない。痛みも感じるのだから尚更慎重にならざるを得ない。唯一、人殺しが出来る可能性があったのは最初の街、それこそあの場であの女がやったように、不意をつけば何人かはやれただろうが、そっちは真っ当な理由の方で諦めた。


 ともあれ、あの場から生きて逃れた者はその殆どが悪魔を求めて街を去った。


「レベル12。早いと考えるか遅いと考えるべきか……」


 『彼』の絡んでいるゲームなのだから当然、人間プレイヤーキャラを殺した方が経験値は多い。あの女のレベルアップ回数がそれを証明している。あの女は今頃もっとレベルが上がっている事だろう。想像でしかないが……まぁ、あの爆弾魔の事はその死体には興味が沸くものの今はさておこう。今は、あれ以外の他のキャラクター達の情報が欲しいと思った。


 今自分がどのレベル帯にいるのか、効率の良いレベルアップ方法などはないのか、などの所謂ゲーム情報と言う奴だ。それがあればレべリングも捗るというものだ。とはいえ、そんな無い物ねだりをしても仕方なかった。残念ながら、このゲームの仕様上、情報共有は殆どあり得ない。


「その割にはギルドシステムがあるのは……」


 集団でいた所で最後に生きて還る事ができるのは一人だけなのだから、いずれ仲間割れが発生する。必ず。それは必然だ。それが友人であれ、家族であれ、恋人であれ、いずれ必ず、殺し合う時がくる。


 とはいえ、それでも尚、そういう集団が出来るのもまた、必然だ。村社会をベースとした国に産まれ、そこで育ってきた者達である。いずれ群れる者が出て来る。或いはもう存在しているかもしれない。


 そんな事を考えていた所為だろう。ふいに、街から出て行く途中、十数人で固まって出て行った者達がいた事を思い出す。2、3人で逃げる者は多かったが、10人単位でまとまって逃げていた所為で特に目立って見えた。その内の1人、いや、2人。長い髪の女に引き摺られるように手を引っ張られていた男の子が妙に印象的だった。あれは姉と弟だったのだろうか。友人同士だろうと家族だろうと殺さなければ生きて帰る事は出来ないのに、彼女らはこんな荒廃した世界で和気藹々仲良く生きて行こうと言うのだろうか?


「荒廃した世界だからこそ映えるのは確かだけど」


 そんな人達が、その姉と弟がどう死ぬか。少し興味が沸いた。自分達は人間だから助け合うのだとそうやって必死に、人間であると主張しながら死んでいく。それはとても尊い行為だ。最後の最後まで家族を守ろうと必死に他者と闘うその姿は素晴らしいものだ。そして、それが失われるその瞬間、それを見られるなら、是非見てみたいものだ。まぁ、とはいえ、態々彼らを追いかけて見に行くほどの自殺行為をする気は毛頭ないが。


 周囲には崩れ落ちたビル群、個人商店、家屋、ガソリンスタンドにコンビニ。半ばから折れた電信柱に、穴の空いた道路。それらに雑草が、草花が絡まり、緑溢れるコンクリートジャングルを作り上げていた。どんよりとした雲と相まって何とも終末を感じさせる世界だった。


 終わった後の世界。


 そんな映画があった事を思い出す。世界に取り残された人間の寂寥感を味わわせる内容かと思えば、その実パニックホラーであった。その映画の舞台がまさにこんな世界だった。或いは、人類滅亡後の想像映像などでも見られる世界。それがこの世界。このまま放置すればきっと自然がこの壊れた街を埋めて行く事だろう。そんな姿も少し見たいと思った。それはきっと、綺麗だろうから。


 そういえば、この世界の名前はなんだったかな?ゲームのタイトルはなんだったかな?そんなどうでも良い事まで思い浮かんでくる。確か、デビルやバトルが入った野暮ったいタイトルだったように思う……暫く考えても、全く思い出せなかった。


「さて……と」


 仕切り直すように自らに声を掛け、移動する。


 無駄に広い世界設定―――日本列島その全てを再現しているらしい―――の御蔭で最初の街を離れて以降、プレイヤーと遭遇する事はなかった。それが良いのか悪いのかと言えば、現状ではやはり良いと言わざるを得なかった。


 御蔭で自由に散策もでき、ここ一カ月の間に、僕の登録名と同じ名前の拳銃、Cz75を手に入れられた。僥倖だった。大した攻撃力はないが、一番好きなオートマチック拳銃が早々に手に入ったのだ。嬉しくないわけがない。


 ちなみに、Cz75は荒廃したヤクザのアジトにあった。ご丁寧に中まで実装している辺り、ダンジョン扱いみたいなものだったのかもしれない。それにしては悪魔の姿はなかったのだけれども……ともあれ、そのヤクザ事務所には、ちょうど僕の体格に合う防具もあった御蔭で装備をそれに切り替えた。


 身長約170cm。そこから伸びる細い腕と足。線の細い華奢な体躯を覆うのはもしかすると女性物なのだろうか、少し小さめの黒い皮製のジャケット。そして、自分で言うのもなんであるが、すらりと伸びた足を覆うのはデニムのジーンズ。そんな姿をしたのが今の僕だった。


 他にも刀やブラックジャックなどの打撃武器もあった。趣味ではないし使えるとも思わなかったが、頂ける物は一応全て頂き仮想ストレージ内に詰め込んだのだが、僕が『ゲーム開始数日後』に手に入れた能力を思えば武器として選択するのはCz75、それ以外の選択肢はなかった。


 『弾丸生成能力』


 それが僕の得た能力だった。他にも能力はあるのだろうけれど、それ以外の能力は知らない。もっともその弾丸生成能力自体の事も良く分かっていない。取得条件も良く分からなかった。しいていえば、初日に手に入れた大量の弾丸を練習がてらに撃ちまくっていた所為だろうと思う。


「殺し方は気に喰わないけれど……そこには感謝」


 銀髪の爆弾魔。


 その姿を思い浮かべていた所為だろう。ざり、と背後で鳴った音への反応が一瞬遅れてしまったのは。


 振り向いた先、一人の少女が僕に向かって駆け寄って来ていた。


 初期装備である野暮ったいベストにジーンズ、つま先に鉄板の入ったエンジニアリングブーツ。それを着こんだ年若い少女だった。背の低い子だった。そんな少女が僕に向かって駆け寄って来る。


 だが、生憎と可愛らしい情景ではなく、同じく初期装備のサバイバルナイフを両手で握り、間違いなく僕の命を狙っていた。


 これが現実であれば、きっと彼女の眼は血走っていた事だろう。それぐらい真に迫る表情をしていた。そんな彼女に向かい、Cz75の銃口を向け、引き金を絞る。初めて人に向けて拳銃の引き金を引く事に躊躇する、という感慨などあるはずもない。


 閃光と共に銃弾が彼女の腕に向かう。一瞬後、弾丸は彼女の横をすり抜け、背後のコンクリートを削る。素人が動いている目標に照準を合わせた所でそんなものだ。そして、そんな事は当然、織り込み済みであり、少しでも怯んでくれれば僥倖だった。


 が、そんな希望は儚く消える。自分の真横を弾丸が過ぎ去ったにも関わらず少女は、全力で走り、僕に向かってナイフを突き立てる。


 次の瞬間、そのナイフとCz75が交差する。


 がきん、という鈍い音が発生したと同時にCz75を振り抜き、彼女のナイフを払う。刹那、彼女がたたらを踏み、寸での所で耐えて再び僕を襲う。それを反対の手で腰元から抜いた、彼女と同じサバイバルナイフでやり過ごし、後方へと飛ぶ。


 それをまた、彼女が追う。


 まるで獣のようであった。小さな体のどこにそれだけのバネがあるのかと思えるぐらいに俊敏に僕を襲う。それを左手のサバイバルナイフでいなしながら、照準を付けずにCz75の引き金を引く。狙っている暇などない。動き回る彼女に当たるとも思っていない。だが、至近距離での銃弾は流石に彼女も忌諱したのか、距離を……取る事はなかった。まずい、と思ったのは僕である。


 自殺禁止ルール。


 それが故に、肉薄されての自爆攻撃は対人では有効だ。試す機会もなく、今の自分のHPで手榴弾の直撃を耐えられるかは分からない。或いは彼女が手榴弾を持っていないという希望に縋るのもありだが、それこそ自殺行為だ。僕とてまだ、死ぬ気はない。


 ならば、どうする。


 考えている間にも彼女のナイフが襲う。両手でナイフを握っているのだ。ちょっと身を翻し、その腕を掴むか蹴飛ばすかCz75で撃ち抜いてしまえば良いだろう。そんな簡単な事が今の僕には出来ない。彼女は恐らく―――僕と同レベル帯だった。


 レベルがあがればHPだけが増えるわけではない。当然普通のゲームと同じくステータスがある。項目で言えば力(STR)と体力(VIT)と器用さ(DEX)、そして早さ(AGI)。そして、彼女はその『AGI』が高い。動きの早さだけかと思えば、反応速度も速い。後者は先天的な物かもしれないが、などとそんな悠長に考えている暇も、ない。拳銃・爆弾の攻撃力に影響を与えるDEXのパラメータのみを引き上げたツケだ。そういう意味で僕もまた、この世界を舐めていたようだった。率先して人殺しをする者が何人もいるとは思っていなかったのだ。だが、それはそれで嬉しい誤算でもあった。


「君はどういう殺し方をするんだい?」


 彼女のナイフを捌きながら、そんな問いを掛ける。まだ一月。彼女がこんなにも人殺しに熱中する理由がとても気になった。そんな場合ではないにも関らず、そんな事が気に掛る。


「黙れ、化物」


 可愛らしい声とは裏腹なその言葉に一瞬、呆然とした。その隙を見逃す程彼女は愚かではなく、彼女のナイフが僕のナイフを弾き、次の瞬間、漸くといって良いだろう。フェイントのように彼女がナイフを片手持ちにして振り下ろす。それを咄嗟に左手で受け止めれば、ずぶり、と手の平が裂けた。


 中指と薬指の間、そこに嵌まったサバイバルナイフが僕の手を裂いて行く。


 痛みが全身に響き渡り、自然、顔が歪む。


「っ!」


 裂けた左手を握り締め、ナイフごと彼女の動きを止めようとした。が、止まらない。これもまたパラメータのツケだ。彼女はSTRとAGIの二極だろう。それが分かった。レベル差ももしかしたらあるのかもしれない。ずぶり、ずぶりと手にナイフが沈みこんで行く。手の平が、分離していく。


 流れて行く自分の血。


 それが手首に達した辺りで漸く、右手の指先に力が入った。雷鳴の如き発射音と共に弾丸が射出され、瞬間、彼女の足から血が流れる。


「かはっ」


 彼女の口から吐息が漏れる。


 続けて二発。


 再び彼女から苦悶が零れ、それで漸く、彼女が僕の手の平からナイフを引き抜いて距離を取る。だが、そんな程度の距離を取った所で射程範囲だ。寧ろ、離れた方が撃ちやすい。……もっともだからといって当たるわけではないのだが。


 次いで放った三発その全てが外れた。


 彼女が足を使わず、地面を転がり避けた所為だった。加えて、痛みの所為で照準が定まらなかった。


 無駄弾である。


「リロード」


 言葉と共に再度弾丸を射出する。当然、弾丸生成能力などという技能が無限に使えるわけもない。リキャストタイムもあれば、精神力(SP)消費もある。前者は120秒。マガジンに装填された弾丸を撃っている間に過ぎ去る時間だ。だから問題はない。問題は後者だった。後者は現状ではリキャストタイムの間に自然回復するSPを考慮すれば4回。


「リロード」


 2回目。


 素早く転がる彼女に当てるにはまだ僕の技量が足りない。ステータスによる補正があった所で照準の基本は自分だ。結果、2度目のリロードも彼女に何度か弾丸を掠らせた程度で終わった。


「リロード」


 残り1回。その内に仕留める必要がある。もっとも、そんな事が彼女に分かるはずもなく、当然、相手も弾丸がなくなるまで悠長に待っているわけではなかった。


 見れば、転がって避けながら、彼女が何かを口にしているのが見えた。何かの肉片だろうか。どれぐらい回復するかは分からない。が、少なくとも僕が与えたダメージは回復したようだった。


 生憎とこの世界に特別『怪我』というステータスはない。勿論怪我をしないわけではない。今の僕の手のように攻撃を受ければ裂けるし、吹き飛ぶ事だってある。だが、HPが回復すればどんな傷だって回復する。そして、当然、回復アイテムというのも存在するわけだ。彼女の傷が目に見えて消えて行く。打ち抜いた足もまた、既に傷が塞がっていた。


 だが、だからといってそれに絶望する事もない。


 目に見えるダメージを受けたという事は極端なレベル差がないという事の証左でもあった。ご丁寧に用意された割にはたいしたことの書いてないヘルプに記載されていた事によれば、VITによる恩恵は僅かに防御力が増えるのは確かだが、それよりもHPが増えるというものだ。そして目に見える怪我というのはHPの何割を削ったかによって定義される。一万というHPの内、10を減らした所で怪我は発生しない。が、100の内10を減らせば相応に怪我をする。攻撃力の低い弾丸を当ててもその都度怪我をするというのならば、HPという数値の意味がなくなる。だからこその仕様だろう。そして、それが故に、彼女のHPの最大値は低く、絶対量が回復する回復アイテムによって傷が修繕したのだと予想がついた。そして、それは僕にとっても同じ事である。DEX極振りというステータスであるが故に、傷なんて回復アイテムを使えばたちどころに消えるようなHPしか存在しない。


 滴る血。


 微々たる量ではあるが、継続ダメージが続く。ダメージが続く以上、痛みが消える事もない。寧ろHPの減りと共にどんどん痛みが増すだけだ。彼女同様、傷を治すために回復アイテムを使えば良いのだろうが、右手は彼女の動きを止めるために、左手は彼女に裂かれてまともに物を握られない。


 もっとも、それだけが『治さない』理由ではなかった。度し難い程馬鹿らしい、人でなしの発想だ。


「綺麗な切り口だと思う。素直に尊敬する」


 今暫くそれを見ていたいと思うぐらいに見事な傷跡だった。整ったと言っても良い。乱れの無い一本の線が入ったようなそんな傷だった。僕が握った所為でまっすぐではないものの、それが無ければ直線だったに違いない。それが少し口惜しいと思った。


「化物が人の言葉を喋るな」


「心外だね。自分で言うのも何だけど、見目はそこまで悪いとは思わないけれど?……ま、所詮作り物だけど」


 キャラ作成段階で設定が面倒だったので、ほぼ現実の自分と同じではあるが、そんな事を彼女に説明する必要もない。


「細長い肉の塊に起伏の無い腕が二本あって、赤くもない細長い二足で動く。そんな生物が、化物以外のなんなのよ!」


 人、それを『人間』と言う。


 目が腐ってはいるものの、顔立ちは母や妹に似て女っぽいと呼ばれる事はあれど化物と呼ばれるのは初めてだった。それに『赤くない』とは何事だろうか……それとも、あれだろうか。この少女には、普通の『人間』が化物に見えるというのだろうか。


「興味が沸いて来た。君には世界がどんなふうに見えているんだい?」


「煩いっ!化物が喋るなっ。大人しく私に狩られて死んでしまえ」


 会話が通じない。それも当然。プレイヤーキャラクターなど殺害対象でしかないのだから。


 言い様、少女が転がり、落としたナイフを片手に僕を襲う。逃げる場所はない。周辺の廃墟に入りこむ暇なんてあるわけがない。だったら、迎え撃つしかないだろう。


 向かって左側から姿勢を低くし、少女が駆ける。砂を撒き散らしながら僕を殺しに向かってくる。だったら、そう。


 あんな綺麗な切り方をする少女にならば、この腕、くれてやっても良い。


「っ……」


 左側から襲ってきたナイフを左腕で受け止めれば、流れるように腕が切り裂かれて行く。意識が飛びそうになる程の痛みに耐えながら、そんな風に受け止めるとは思ってもいなかったであろう少女が、一瞬焦り、咄嗟にナイフを引き抜いて離れようとしたその顔に向かって、いいや、


「綺麗な瞳だ」


 輝くように陽光を反射している淡い紅色の瞳に銃口を当て、撃ち抜いた。






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