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俯棺風景  作者: ししゃもふれでりっく
第三話 悪魔憐れむ男
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エピローグ





 暫くして、自動でクエスト空間から追い出された。


 追い出された場所は、城の一番奥の部屋だった。その部屋を出て、クエスト空間に飛ばされた場所へと戻れば、リディス達がいた。


「アキラ様!ご無事で……」


「あぁ、そうか。仲魔にはアナウンスが流れないか。ここの城主はおっぱらったよ。将来的に仲魔になってくれるという約束をしてな」


 勤めて平静を保ったまま、リディスへと答える。


「……力になれず申し訳ございません」


「いや、人間しか参加できないというのは行ってから知った事だしな。気にするな。それよりもこれからは今まで以上に忙しくなると思う。これからもよろしく頼む」


「はい。アキラ様……それと、キリエ。アキラ様を守ってくれてありがとう」


「いえ。役得も御座いましたし」


 そういって、見せびらかせるようにデュラハンの着ていた鎧と剣を装備した自身の姿をリディスに見せる。


「そちらが城主を倒した時の報酬ですか」


「いいえ、違いますよ。ドロップアイテムという奴ですよ、リディス『様』」


 黒い兜から覗くキリエの瞳。それは、背筋が凍るように冷たいものだった。


「キリエ……?」


 そんな彼女の視線に、不思議そうに首を傾げるリディス。


 厭らしく口角をあげ、嘲笑するようなキリエの姿。まるでデュラハンの鎧に呪われたかのようなそんな錯覚すら感じる。


 今は良い。


 今はまだ彼女のレベルはリディスより低い。


 だが、それが入れ替わった時……どうなるのだろう。


 俺は、キリエを止める事ができるのだろうか。


 俺よりもレベルアップの早い彼女を、俺一人で止める事が出来るのだろうか。


 そんな不安を抱えながら、俺の横に付き従う2人と、他の8匹と共に城を散策する。


 クエスト空間へと転送した部屋は普通の部屋になっていた。ビジネスホテルの一室といえばそんなものだろうか。他の部屋も似たようなレイアウトで、各人に適当に部屋を割り当てる。


 結果、雪兎、フォックスツーテール、スネークヘッド、スライムなどの小動物系の仲魔は俺の部屋に住む事になった。他の者達も、そもそも人間ではないので、部屋という区切りを気にしてはいないようで、割り宛てたとはいえそれを十全に使うかと言えば違うと言わざるを得なかった。


「とりあえず、今日は休ませてくれ。俺も疲れた。祝賀会みたいなものは明日にでもやろう」


「はい。ごゆるりとお休み下さい」


「えぇ。では、先に失礼いたします」


 そう言って、リディスとキリエが部屋を去り、部屋には小動物達と俺だけになった。小動物達は部屋の隅やらベッドの下や布団の中など好き勝手な場所に移動してそれぞれ眠りについた。


 そんな中、俺は椅子に座ってメニューを開いていた。


 城主は何ができるのか。


 開発や街の発展、あるいは法令の制定ができるというのはアナウンスで聞いた。それ以外に出来る事はあるのだろうか。


「開発や街の発展には金がいる……と。仲魔に狩りに行って貰うか」


 開発というのは武器やら防具やら設備といったものだ。設計図が必要なものもあれば、そうでないものもある。リストをざっと見ると聞いた事のないような拳銃やマシンガン、あるいは刀や剣。鎧や盾、あるいは攻城戦用の設備などまである。それ以外で一番気になったのは風呂だった。


「ゆっくり休むには欲しいよなぁ」


 設計図は必要なく、金さえあれば作れるらしい。もっとも、諭吉さんが百人単位で必要なのが珠に傷である。とりあえず記憶に留めて次の項目へと向かう。


 街の発展。


 壊れた街の修繕として、駅、ビル、ホテル、家、公園などの機能を回復するようだった。当然、それに伴ってそれらを運営するNPCが付いてくる。修繕以外の項目としては、鍛冶屋の配置や簡易なスキルを覚える訓練場みたいなものがあった。他にも多くの項目がある。一度では全てを把握しきれないので日を改めてまた確認するとしよう。


 そして最後に、法令。


 それも一覧として記載されていた。


 NEROが敷いた法令であるNPCのプレイヤーキャラ殺害可能というのもそこに記載されていた。


 法令を制定するのに必要になるのは城主としての経験値である。


 ターミナル利用限定は特に必要経験値がなかった。だが、それ以外の項目は相当な経験値が必要なようである。例えば、NEROの敷いた法令でいえば10,000。


 この経験値は、ご丁寧に用意してあったヘルプ事項を見れば、何か城主として行動するたびに経験値が得られるようである。


「NEROは……なぜこれがすぐに行えた?」


 城主になったおまけなのだろう。最初から100は経験値があったが、その100倍を稼ぐのにどれだけ城主として事を行わなければならないのだろうか。


 開発の方に持っていた金を全て投入した、とかだろうか。試しに、10万程度で行える開発……名産品であるホワイトラバーというものに投資してみたが、増えたのは10だった。金額を諭吉さんで割った数が経験値として手に入るのならば、億単位の金を投資した事になる。それだけの金をどうやってあんな早い時期に手に入れたというのだろうか。


 考えても分からなかった。


「……何か別の方法があるのか?あるのならば、それをどうやって知った?」


 疑念。


 同じく城主になった者達も思った事だろう。そう、思う。


 NEROへの疑念を浮かべながら、さらに法令制定を眺めていれば……


「『悪魔特区』……か。指定した都市に出現する悪魔の強化ね。Lvがついているってことは段階があるのか」


 それ以外にも『悪魔の集団行動義務化』や『悪魔改造許可』などなど、いくつか悪魔に関連するものがあった。集団行動はこの地方に出現する悪魔はPT単位で行動しなければならないというものだった。改造許可は悪魔を使った人体実験が行えるというものだ。それを許可する法令を発令するというものである。


「……とりあえず、ここから始めるとするか」


 特区、集団行動、改造許可のレベルを1つあげる。


 それで経験値全てが消費された。


『北海道 制定法令: 悪魔の集団行動義務化 Lv1 が発令されました。以後、北海道地区の悪魔は必ず2名以上で行動して下さい。』


『北海道 制定法令: 悪魔特区条例 Lv1 が発令されました。以後、札幌の悪魔が強化されます。』


『北海道 制定法令: 悪魔改造許可条例 Lv1 が発令されました。以後、北海道地区の悪魔は改造可能です。』


 視界にアナウンスが流れる。


 もっともアナウンス先を北海道限定にしたので、殆どのプレイヤーに伝わる事はないだろう。そういう選択ができるのも城主の特権のようだった。


 しかし、前者二つは分かるが、最後の一つは発令したものの、やり方が分からなかった。先に病院や研究所みたいなものを作る必要があるのだろうか。


「ま……今日は休もう」


 ずっと戦闘をしていた所為で疲れた。


 布団の上で丸くなっているフォックスツーテールを起こさないように移動させ、布団の中へと入ろうとした時だった。部屋の扉がこんこん、と音を立てた。一瞬、フォックスツーテールが起きたのかと思った。


 嘘だけれど。


「……リディスか?」


「はい。アキラ様、まだ起きておられるようでしたら」


「あぁ。遠慮しなくて良いよ」


 がちゃ、と音を立てて扉が開けば、バイザーを外したリディスがいた。


「……何かあったのか?バイザーを外して」


「いえ、気分的なものです」


「そういうものか」


「そういうものです。ボンクラには分からないかと思いますが……いえ。アキラ様。本日はお手伝いもできず、不甲斐ない所をお見せしました」


「気にするなといっても無理か……真面目だものな、リディスは」


「これでも品行方正な天使騎士エンジェルナイトですから」


「その天使がDEMON LORDの仲魔というのは何の皮肉だ」


「反抗期なのですよ」


「じゃあ、ずっと反抗していてくれ」


「……御心のままに」


 言って、リディスが膝をつく。


「畏まるなよ。あぁ、そうそうリディス。お前の剣、もうちょっと待ってくれ。デュラハンから手に入れた剣をあげられれば良かったんだが、キリエが……」


「皆まで言わなくも結構です。いずれそうなると思っておりました。それが早いか、遅いかの違いです」


「リディス?」


「あと数週間、あるいはもっと早いのかもしれません。私は役に立たなくなるでしょう。ですから、アキラ様は私を使い潰して頂く事だけを考えて下さい」


「御心のままにとか言った傍からお暇宣言か?」


「私の心が離れずとも、アキラ様の心は離れて行くでしょう。役に立たない仲魔を限りあるストックに使うのも無駄でしょう?」


 リディスに浮かんだ笑みは苦笑だろうか。酷く、醜い笑いだった。そんな彼女の笑いは見たくなかった。


「リディスには最後の時まで付き合ってもらう。これは……絶対だ」


「……アキラ様。私、役に立ちませんよ?戦闘も、情報もそのどちらも役に立たない塵芥に等しい存在ですよ?今はそうではないかもしれません。ですが、いずれ必ずそうなります。貴方が外の世界への帰還を望むのならば間違いなく」


「リディスには悪いがね。俺はお前の王だ。王というのは我儘な物だ。だから、な。リディス。お前は……ずっと俺と共にいろ。これは王命だ。役に立たないと我が身を呪ったとしても、それでも尚、お前は俺といろ」


「……強引ですね。私の気持ちはどうなるのです」


「知らんよ。殺されそうだった俺を助けたのはお前だ。だから、その責任ぐらいは取りやがれ」


「酷い人間もいたものです。……でも、それを主と認めたのはこの私ですか」


「あぁ。ボンクラな臆病者を助けてきたのはお前だ。だから……一緒にいろ」


 ベッドの上から立ち上がり、膝をついた彼女の傍に。


 その身を、その華奢な体を抱きしめる。


「……処女性というのが大事なのですよ、天使は」


「そこまでしねぇ」


 何を言ってるのだこの天使あほうは。


「というかそもそもできないだろ。排泄物を実装してないこの世界じゃ」


「排泄物でなければ実装はされているのでは?」


 あぁ、排泄物ではないよなぁ確かに。分泌物ではあるけれど……いや、だったら汗も実装されていそうなものだが……その辺りはクリエイターの性格か。それが殺人の起因となるならば、実装するだろう。寧ろ、こういった世界だ。女プレイヤー少ないだろうし……全く、反吐が出る。まぁ、出ないけれども。


「ともかく、そういう事はしない。大事だと言うのならば尚更だ」


「そうですか」


「なんで残念そうなんだよ、お前」


「いえ、人間は、添え膳を喰うものだと聞いておりましたので。所詮、童貞ですか」


「黙れ、処女天使」


 どこからそんな情報を仕入れたのやら……。


 まったく、笑ってしまう。


 こいつと一緒に最後を迎えられたら良いなと再三思った事を、再度思う。


「……絶対にクリアしてみせるよ」


「お付き合い、致します」


 その日、しばらく、抱き合ったまま2人、時を過ごした。






―――






「じゃ、これから忙しくなるだろうが、皆、コンゴトモヨロシク」


「……おれさまおまえまるかじり?」


「どこで覚えて来たんだよ」


「魔人の出現確率は1/256である、という情報を手に入れた書籍に……コウリャクボンというのでしたか」


 なんとか転生の攻略本に違いなかった。


 バイザー付けた天使がその本を読みながらうんうん頷いている光景を想像して、ついつい笑ってしまった。


「主様……どうぞ、ご命令を」


 そんな風に笑っている俺に、キリエが恭しく声を掛けて来る。


 やっぱり鎧に性格が引き摺らているように思える。呪いの装備とかだったのだろうか……分からない。が、デュラハンの中にいた少女は本当の姿と言っていた。だったら、囚われていたという事なのだろうか。悪魔を憐れむ者が現れるまで解ける事のない呪いとか……まぁ、そんなのは妄想だ。真実など考えても分からない。いずれ彼女らが現れた時に聞けば良い事だ。


 これ以上、キリエが反抗的―――リディスに対してだけだが―――な態度を取らなければそれで良い。彼女も仲魔であることに違いはないのだから。


「じゃ、まずは金集めといこう。出現悪魔のレベルがあがったってことはそれだけ手に入るものが良くなったと考えて良いだろう。だから……稼いでもっと良い街にしていくぞ。悪魔の住みやすい王国を作って……そして、他の土地全てを俺たちの力で蹂躙しよう」


 ここからだ。


 悪魔の王として、プレイヤーその全てを殺し、このゲームをクリアしよう。


 仲魔達と共に。


 








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