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俯棺風景  作者: ししゃもふれでりっく
第三話 悪魔憐れむ男
20/116

03





『どうせ俺様は負け犬さ……だが、そんな負け犬でも城主に一矢報いる事ができるのならば、仲魔になるのも悪くはない』


 そんな風に格好良いような格好悪いような台詞を告げるアンダードッグを仲魔にしたのはキリエを仲魔にしてから数時間後の事だった。ここにもアンダードッグはいるのだな、と感心した。冷たい雪の上を四足で歩くのは辛いんじゃないかと思えば、寒冷地仕様なのだとか。御蔭で本州にいた奴よりレベルが1つ高い。


 閑話休題。


 そんな風に仲魔を集めながら、城へと向かう。


 キリエ曰く、城は割と近くだそうだ。俺達が出会った場所とターミナルのあった駅舎を挟んで反対側に位置するとのこと。反対方向に向かっていた事に何とも言えない気分になったが、キリエと会えた事を思えば悪くない。


 ちなみに、北海道は広すぎると言う事で他の都市とは違い、都市間での移動が可能なのだとか。もっとも、他の都市から一気に行けるわけではなく、一旦、道庁のあるこの街に来ないと移動できないみたいだけれども。私鉄みたいなものかな、と聞いた時に思った。


「主様」


「なんだ、リディス。あぁ、剣か……」


「良く覚えていましたね、ボンクラ頭なのに。鳥頭ではなかったという事でしょうか」


 言って、腕を組みながら神妙そうに頷くバイザー付き天使あくまがいた。


「ま、折角城に乗り込むんだ。皆の装備を整えてからにするとしよう」


「えぇ」


 装備を整えるための手段はいくつかある。


 一つは奪う。一つは見つける。一つは作る。一つは悪魔のドロップ。


 生憎とこの地はかなり気温が低い所為かプレイヤーキャラの姿は見えず、奪うという選択肢は取れそうになかった。そうなると、探索して見つけたり、設計図を元に作ったり、悪魔のドロップを狙うしかないのだが……リディスの剣程の業物が早々手に入るだろうか。どう考えても手に入りそうになかった。関東へ行けば剣を修理できるスミスとかもいるだろうけれど……好き好んでNEROの膝元に行こうとは思わない。馬鹿でもない限り、近寄る者はいないだろう。正直、今時分に、好き好んでランカーのいる場所に行く奴なんて気が狂っているとしか思えない。


「そういえば、あの爆弾魔は城を落とさないのか?」


 気が狂っている奴というので思い出した。


 この世界で一番レベルが高いのは誰か?といえば彼女-――WIZARDだろう。薄汚い灰色の髪を持った魔法使い。返り血に染まった姿、脳裏に刻まれたあの光景を忘れる事など一生涯出来ないだろう。今思い出しても身震いしてしまう。


 そんな彼女は城を落とさないのだろうか。


 レベルは十二分だろう。NEROとWIZARDのどちらかと闘えと言われれば誰もがNEROの方を選択する。それぐらいに彼女はプレイヤーを殺し過ぎている。つい先程確認した所、十人単位でカウントが増えていた。近寄りたくない存在No.1である。さておき。


 何か考えあっての事だろうか。……まぁ、気が狂っている人間の考えなど俺に分かるわけもないか。唯一分かるのは、


「あれも、殺さないといけない」


 という事ぐらいだ。現状、WIZARDと出会ってしまえば災害に遭ったと我が身の不運を嘆く事しかできない。けれど、未来は違う。レベルをあげて、仲魔を増やして、武装集団を作り、蹂躙するようにあの魔法使いを殺してしまおう。NEROも、SISTERとやらも。……勿論、SCYTHEも。


 そのためにもまず、武器を集めよう。


 とはいえ、どんな武器を集めようか。そう思って仲魔に目を向ける。


 リディスとキリエ。そして格好良い台詞を吐くのが好きな寒冷地仕様のアンダードッグに、スネークヘッドという頭だけの蛇。ぱっと身、魚の頭みたいな感じである。そして、フォックスツーテールという尻尾が2つの狐の悪魔。もふもふしている愛らしい仲魔である。ちなみに、口からエキノコックスという名の寄生虫を吐き出すので要注意でもある。


 俺を合わせて総勢6名。


 それが今の戦力である。


 仲魔の空きストックは5つ。それらの仲魔の事も想定して武器を集めなければならない。とりあえずはリディスの剣とキリエの武器が最優先だった。他の者達は物を持つ事自体が難しそうだし……あれか、昔あった国民的RPGのように牙とか装備させれば良いのだろうか。或いは口にナイフを咥えさせるというのもありだろうか。


 などと悩みながら、とりあえず衣服や食糧確保も兼ねてコンビニへと向かう。


 コンビニへの案内は現地魔人であるキリエがしてくれるので非常に楽だった。人(NPC)と悪魔の合いの子という設定なので彼女自身、NPC寄りの存在なのかもしれないな、と思いつつ彼女を先頭に白い雪が積もった道を行く。


 雪化粧だけを見れば綺麗なものである。雪見酒を嗜む年齢ではないが、そういった機会があれば嗜んでみるのも良いと思えるぐらいに。もっとも、その下に隠されているのが凸凹としたアスファルトやら倒れた樹木だったりもするが……。そこに目をつむれば、割と良い景色だと思う。


 そこかしこに積った白い雪。


 くろすらもその内に隠してくれそうな白さだった。


 ふいに、リディスと出会った時のことを思い出す。


 追われていた。襲われていた。


 5人の人間に俺は襲われていた。


 彼らが何故徒党を組んでいたのかは分からない。一緒にゲームを始めた仲間だったのかもしれないが、そんな事は今となっては分からない。覚えているのはただ、がむしゃらに逃げていた事だけ。


 初日のWIZARDによるアレを見た後だったから尚更だろう。


 初日からの数日間、俺は最初の街に隠れていた。崩れた建物の片隅で、怯えながら震えながら隠れていた。そして、見つかって逃亡。そして……近くの森へと駆けこんだ。


 その奥で出会ったのがリディスであった。


 いつか聞いた天女の物語のように、月光に照らされた湖で―――あれを湖というのかは分からないが―――水浴びをしていたリディスに出会った。彼女がバイザーを外していた姿を見たのはその時が初めてで、今のところ最後でもあった。


 突然現れた俺に、驚く事なく、一瞬だけ俺の方に視線を向け、興味なさそうに顔を逸らし、そのまま水浴びを続けた。今にして思えば豪胆である。


 そんな彼女に場違いながらも見惚れていた俺に追い付いた男達が、俺を見つけ、そして彼女を見つけ……下卑た笑みを浮かべながら彼女に手を出そうとした。


 この男達の血に塗れた汚い手で彼女に触れさせるわけにはいかない、などという変な男の意地というか、正義感を覚えて立ち向かった挙句、当然のように男達に殺されかけた。


 腕が折られ、足は骨が見える程に切り裂かれ、腹には深くナイフが差し込まれていた。血に酔った男達は俺を殺す事を楽しんでいた。彼女の存在すら忘れて。


 呼吸もままならず、痛みに呆とする俺。このまま死んでしまうのだろうか。そう思った。そう遠くない未来に俺は死ぬのだろう。そう確信した。


 だから、せめて、彼女には逃げてほしいと思って目を動かして彼女に視線を送り、そして、彼女もまた俺を見ていたのを知った。覗かれても興味なさげにしていた彼女が、俺が男達に一方的にやられているのも興味なさげにしていた彼女が、いつの間にか俺の方を興味深そうに見つめていた。


 そして、HPバーが残り僅かとなったとき、彼女がその手を動かした。


 次の瞬間、彼女からPT申請が届いた。視界に映るそのダイアログのボタンを押そうと首を動かし、なんとか舌先で押した。


 その瞬間、スキルを獲得した事を示すテロップが眼前に、呆とする視界に浮かんだ。


 悪魔からPT勧誘を受ける事で、スキルを覚えるのだろう。俺以外にもそんな状況にあった者は同じスキルを覚えているのだろう。それがどれだけの数いるかは知らないが。


 ともあれ、仲魔になった彼女は男達を手に持った剣で切り殺し、俺を助けてくれた。


 血に染まる彼女の白い翼。それを穢れだと感じた。こんなにも綺麗な彼女の白い翼が俺のために汚された事がどうにも許せなかった。戦闘後、そんな事を伝えれば、俺に肩を貸しながら、彼女は笑った。


 そして、言った。


『偶然ですが、良い主を見つけました』


 それ以来、彼女とずっと一緒に居る。


 彼女に人殺しを肩代わりさせたこと。


 彼女の白い翼を赤く染めてしまったこと。


 その罪がこの雪に隠され、消えてしまわないだろうか。


 そう思った。


「アキラ様?」


「なんでもない」


 不思議そうに首を傾げる彼女を見て、いつか彼女を、人を殺す事の無い世界へ導けたら……そう、思った。


 


 


―――






 白銀に染まる世界。


 それを赤く染める事もまた罪深い事だと、そう思う。


 一匹、二匹、三匹。


 仲魔にならぬ悪魔を殺し、解体して行く。いくらスキルがあろうと常に仲間になるわけではない。寧ろ話し掛けて仲魔にならない場合の方が悪魔としては厄介である。本来は無感情に人間を襲うだけの存在が、感情を持って襲ってくる。それは恐怖であったり、怒りであったり、様々な感情である。そんな感情塗れに襲ってくる悪魔とNPCやプレイヤーキャラの何が違うのだろうか。寧ろ悪魔の方が人間らしいのではないだろうか。


 仲魔達と共にある事で、俺は……そう思い始めていた。会えば殺し合いになってしまう人間プレイヤーなんかより、あまり関る事のないNPCよりも、仲魔達の方がどれだけ人間らしく俺に接してくれる事か……。


 深淵を覗く者が深淵から見られているのと同じく、悪魔を憐れむおれは悪魔に憐れまれ、そしていずれ悪魔となるのだろう。


 それでも良いと、そう思う。


「……調子が悪いなぁ」


 意識を切り替えるように言葉を紡ぐ。


 やはり仲魔にする目的が城主を殺す事だからだろう。そんな気概のある悪魔はそういない。悪魔だって傷付けば痛いし、死ぬのだ。死ぬかもしれない道程についてくるためにはそれなりに悪魔にもメリットがなければならない。あるいは……何も考えていないかだ。


 今朝方仲魔になったうにょろうにょろと蠢くスライムが俺の足元を動き周っていた。雪に塗れて、一見、雪玉のように見える。


 きっとこの彼は何も考えていない。


 考えている仲魔の方はといえば、今先ほどの戦闘について話合っていた。


 リディスとキリエの2人である。昨日の今日ではあるが、傍から見れば仲が良いように思う。ちなみにリディスの方が倍以上レベルは高い。キリエも学ぶ事があるのだろう。


 今の二人の会話内容は剣での攻撃に関してだった。


 相変わらずヒビの入った剣を、キリエに伝えるように角度を変えて何度か振り下ろしている。それを見ながら真似るようにキリエが剣を振る。何とも拙い感じで、ついつい笑みが零れる。


 そんな2人は、まるで、師匠と弟子のようにも見えた。


 天使に剣を教わる魔人。何とも、ファンタジーだった。ちなみにキリエの持つ剣は今朝方、骨身に染みると寒がっていた骸骨製の悪魔が持っていた物を強奪したものである。特別良いものでもなければ悪い物でもない。初心者向けの装備だった。服の方は便利なコンビニで手に入れたものに代わっている。動きやすそうなカジュアルなものである。御蔭で、彼女の右半身の骨が良く見えるのが何ともホラーだった。


 さらにちなみに剣を振っていた所でキリエの経験値が増えるわけではない。戦闘でしか経験値は得られない。その辺りはプレイヤーと同じだ。もしかするとプレイヤー同様スキルを覚える事もあるのだろうか……。


「主様。次は私を前に出させて頂ければと思います」


 2人の反省会が終わり、剣を片手にキリエが近寄って来てそんな事を言った。特に反対する理由もなく、その言葉に頷く。


「しっかり経験値を稼がせて頂きますね」


「等分だろうに」


 苦笑する。


 彼女1人が頑張ってもPTで戦闘しているのだから経験値は等分される。PTに10名いれば10分の1しか入らない。もっとも、このPTで経験値が入るのは俺と彼女だけである。PTの共闘ボーナスもあるのだろう。思いの外得られる経験値は多いように思う。特にPTメンバーだけは多いので戦闘時間は短く、時間辺りの経験値も他のプレイヤー達とは比べ物にならないのではないだろうか。


 御蔭で、昨日の今日ではあるが、彼女のレベルはかなりあがっている。元より、彼女のレベル上昇はプレイヤーと比較して相当に早い。彼女の経験値テーブルがどうなっているかは分からないが、仲魔になった時がLv5―――思いの外低かった―――で、今が12だ。特別強い悪魔と闘ったわけでもないのに、そのレベルの上がり方はプレイヤー基準からすれば異常なほど早い。


 ステータスに関しては自動であがるそうな。楽ではあるが、俺みたいなVIT偏重などができない点で、MMORPG的にはあまり良いものではない。昔やっていたゲームぐらいしか知識にはないが、基本MMORPGは偏ったステータスの方が強い。スキル構成も重要ではあるが、それ以前にそれを行使するプレイヤーのステータスが重要である。


 将来的なレべリングも考えてのステータス設定も良いだろう。例えば、本来であれば俺みたいにVITだけあげていれば、レべリングに詰まってしまう。敵を倒すための攻撃力が欲しくても、攻撃力を得るためにはレベルをあげなければいけない。泥沼だ。だが、俺には仲魔がいる。その御蔭で俺はこのステータスでもやっていけるというわけだ。一応、VITのステータスがカンストしたら、STRやDEXなどに上げようと思っている。AGIをあげて避けて耐える壁というのも良いが。まぁ、それだとヘイトを稼ぐのは難しいだろう。今でも苦労しているというのに。


 閑話休題。


 キリエのステータスは―――悪魔にはMGIなるステータスがある―――いわゆるIntなどと呼ばれる事もあるステータス。魔法……というよりも悪魔の特殊攻撃の攻撃力を高めるものだ。それとSTRが少し他のステータスより高いとか。


 だから、剣なんて持たせてみたわけである。DEXが高ければ銃を持たせたかったところである。まぁ、銃は銃で弾丸の問題があるので必ずしも良いものではないのだけれど……どこぞの戦闘機ゲームのように小さな妖精さんが機体内でミサイルを作ってくれるわけでもないわけで……。


 まぁ、とりあえず、今は彼女のレベルをあげながら仲魔達の装備を整えるのが先決である。


 白く染まった都市を歩きながら、悪魔を探す。


 相変わらずプレイヤーはおらず、その代わりと言っては何だが悪魔は割と多い。


 建物の影、道路の真ん中、道路を覆う雪の下。或いは建物の中や公園の中。空を飛んでいるものもいる。


 現れた悪魔と交渉し、失敗すれば殺し、成功すれば仲魔とする。集団で囲んで仲魔に成らなければ殺すとは酷い脅しもあったものである。システム的には認められているとはいえ、少し罪悪感が沸いてこない事もない。


『そんな事を言って、どうせ僕は殺されるんだろ!殺されてやるもんか!』


 そんな言葉と共に、手の平サイズの雪兎に飛びかかられる。


 何の痛痒もない。何度も何度も飛びかかりながら汗を掻き、我が身を溶かして行く雪兎を掴まえてその冷たい、雪で出来た腹にナイフを差し込む。瞬間、ぷしゃと沸いた血にその体や手の平が赤く染まって行く。内臓あったのな、と染まった手の平を見ながら思った。


「主様、次は私だと……」


「襲われたら流石になぁ……」


「……次こそは私が」


「了解」


 そんな言葉を交わしながら、ぞろぞろと仲魔と共にまた街を徘徊する。


 暫く歩けば、今先ほどと同じ雪兎あくまが現れ、同じ言葉を伝えれば、今度は仲魔になった。個体差なのだろう。そしてまた徘徊する。そんな事を繰り返していれば、いつしか仲魔はストック限界に達する。


 10名。


 その内8名はリディスの予想通りに城主との戦闘で死ぬだろう。


 だからこそ、こうやって適当に現れた悪魔を仲魔にしている。感情が移らないように。憐れまないように。そうやって次々と悪魔を使い潰しながら、俺は先へと進む。だから、少し沸いた罪悪感なんて白い雪の下に隠して無かった事にしてしまおう。


 生き残るであろう2名。


 リディスとキリエ。その二人が主戦力である。


 キリエのレベルはまだ足りないだろうが、こうして戦闘を繰り返しながらせめて20近くまでは引き上げたい。今のペースなら数日も掛らないのではないだろうか。プレイヤーとは全く違う上がり方に少し羨ましくもなる。俺のレベルは、先日のカップルを殺した時にかなりの経験値を得たものの、この地に着いてからあがっていない。悪魔のレベルが大して高くないのもあるだろう。けれど、プレイヤーに設定された経験値テーブルはプレイヤーを殺す事を前提としている。同レベル帯のプレイヤー1人を殺せばそれこそ悪魔を万単位で殺す事に等しいような、そんな差がある。


 このゲームを作った者は何を考えているのだろう。


 久しぶりに、そんな事を思った。


 デスゲーム物といえばもはや使い古されたネタでもある。それを現実にしようと思った人間は一体何を考えたというのだろう。現実の世界とはまた違う世界を作りたかったのだろうか。いや、だったらサバイバルゲームにする必要はない。やはり、人が死ぬのが見たいのだろうか。理解できない理由だった。唯一分かるのはきっと安穏と生きてきた普通の人間には理解しえない、という事ぐらいのものだ。


 例えば、極限状態に置かれた人間達の行動を把握したい、そんな心理学の実験だという方がまだ分かる。だが、きっとそれも違うのだろう。


 だが、類似しているといえばそうなのかもしれない、とも思う。


 過去にスタンフォードで行われた心理実験。映画の題材にもなったそれは、看守と虜囚をロールするというものだ。次第にその役割に沿って人間が行動し始めるという。予定していた期間が大幅に短くして終了した実験だ。そして、二度と行われる事のなくなった実験でもある。


 怖い話だと思う。


 人間の性格は環境と役割に依存するという事なのだから。


 大昔の人間と今の人間の違いなど、生活している環境が違うに過ぎない。原始人が現代に産まれ、育てば現代人との違いを見つける事は難しい。


 この世界に、こんな世界に置かれた現代日本人はどうなっていくのだろう。


 人殺しという役割を与えられた者達は、いつしか人殺しになっていくのだろうか。悪魔を憐れむ者がいずれ悪魔になるように。


 悪魔の王になろうとする俺のように。


 リディスに言われた悪魔を使い潰すという言葉。


 つい先日言われた時は躊躇していたその言葉をこうやって今、実践できてしまう俺は、もう……十分この世界に染まっているのだろう。


 後ろできゃっきゃきゃっきゃと騒いでいる仲魔。これから俺の意志で死んでしまうであろう仲魔達の姿を記憶に留める。俺が殺すのだ。せめて、それだけは覚えておこう。


 ふいに。


 本当にふいに視界に入ったリディスの姿。


 いずれ俺やキリエは彼女のレベルを超えるだろう。


 その時、俺はどう行動するのだろうか。


 そんな事を思った。


 先日、確かに俺は彼女を使い潰さないと誓った。


 けれど、仲間達を使い潰して行くという行動ロールを続けた俺はどうなるだろうか?


 いいや、絶対にそんな事はしない。


 そんなわけが……ない。


「主様?悪魔を探しにはいかないので?」


 足を止めた俺に、どこか不思議そうにキリエが声を掛けて来る。


 そんな彼女に何でもない、手を振り、止まった足を動かしながら更に思う。


 最後の時に隣にいるのはリディスではなく、キリエなのではないか……と。


 いいや、そんなわけがない。


 俺が、命の恩人であり、道しるべとなったパートナーを、リディスを捨てるわけがないだろう。


「大丈夫だ……そんな事は、ない」


 そんな風に自分に言い聞かせているのが、酷く滑稽で、酷く不愉快だった。




 


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