表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俯棺風景  作者: ししゃもふれでりっく
第二話 シンデレラになれない少女
16/116

エピローグ





 陽が昇り始め、世界が明るさを取り戻し始めた頃、僕達は再びその部屋に来ていた。そして悪魔を確認したところ……


「……杜撰な」


「杜撰ねぇ」


 スコープ越しに見える悪魔のHPは回復していないようだった。ご丁寧に肉が削がれ血が流れていた部分は乾いているものの、悪魔の動きは遠目から見ても鈍かった。相変わらずうろうろして、時折地面に口を付けているのは肉片でも探しての事だろうか。そういえば、スカベンジャーが入って来られない室内なのに彼らの肉片が残っていなかった。


 ともあれ、この『彼』の杜撰さはありがたいものだった。御蔭で気兼ねなく、余裕を持って狙撃に集中できる。淡々と昨日と同じ単調な作業を繰り返し、繰り返し、人工の太陽が東の空から南へと差し掛かろうとした頃、漸く、悪魔が沈んだ。


「何もないわね」


「何もないな」


 沈んだ悪魔に対して都合10発さらに弾丸を叩きこんで動かない事を確認して、ようやく立ち上がる。


「経験値が増えた感もないわよね。シズの方はある?」


「ないね……距離が離れ過ぎていると駄目とか?」


「そういう所はしっかりしているのね」


 そんな運営への不満を告げながら、タワーを降りて向う側へ行こうとXM109を仮想ストレージに入れて片付けようとしていた時だった。


 双眼鏡で悪魔を見ていたWIZARDの歯がぎりっと鳴った。


 何事かとXM109からスコープを外し、それを使って悪魔の方を見れば……集団がいた。


「……スカベンジャー共」


「僕が言える台詞ではないので控えておくよ」


 レイジングブルの銃身を上向きにして胸元で構えた女。先日も見たシスターのような格好をした女だった。そばかすが残るあどけないその顔が、悪魔の死体を見るだに驚愕を浮かべた。その後ろに居る者達も慌てるように悪魔に近寄り、剣やらマシンガンの銃身でそれを突いていた。その数、二十余人。まだそれだけいたのか。と言う事は元々は50人を超えるかなりの大所帯だったというわけか。


 どうやって彼女らの仲間が死んだのか付きとめたのか、それは分からない。が、弔い合戦でもしようとしていたのだろう。まったく、仲良しこよしで良い事だ。


 そして、そんな彼女らは悪魔が死んでいる事を確認すると解体し始めた。


 腹の中から何が出てきたのか、それは見ていた僕にもよく分からない―――NPCのおっさんが言っていたように設計図なのだろうが―――。だが、何やら喜んでいる様子が見える事を思えばかなり良いものが出てきたのだろう。それを悪魔の腹から取り出した者がシスター姿の女にそれを手渡していた。女の方も遠慮する事なくそれを受け取り、はにかむ様な笑みを浮かべた後、仮想ストレージにそれを入れた。


「それは私のよっ!……ちょっと殺してくるわ」


「ま、その前にとりあえず、試してみようかね」


 XM109を構え、一発、そのシスターの横面へと打ち込んだ。


 がつん、と揺れる彼女の頭。


 衝撃にたたらを踏んだものの、しかし、その場に崩れ落ちる事はなかった。血が流れている以上、ダメージは通ったが大してHPが削れたわけではないようだった。慌てるように彼女を心配する者達。そんな彼ら彼女らの心配をよそに、撃たれた当人は撃たれた方向を、XM109の所為で割れた窓へと近寄り、そして―――僕を、僕とWIZARDを見つけた。


 一瞬の戸惑い、そして次の瞬間に見せた引き攣った表情は……なんとも年相応―――恐らく20に満たないだろう―――だった。そして、流れるような作業で一緒に来ていた者達と共にその場を去って行った。


「AIより良い頭をしている」


「色々酷い台詞よね、それって。同情するわ」


「君に同情されるとは彼女も可哀そうに」


「……ところで、態々攻撃してあげて、気付かせて、私から逃がした理由は何?理由によっては流石の私も怒るわよ?」


「いや?どちらかといえば彼女の持っているレイジングブルは欲しい所だがね……あれだよ。あの格好」


「シスター?」


「そう。それ。キルカウントランキング第3位。SISTER。きっと彼女だろう?2位とはかなりの差だけれど、残念ながらそんなレベルのプレイヤーキャラ相手だと僕は足手まといになるんでね」


 そんな僕が示した理由に、WIZARDが呆けたような表情を浮かべた。馬鹿じゃないの?と言いたげだった。


「それって私一人で行けば良い話じゃないの?」


「……確かに」


「……シズぅ?」


「……君の殺し方が嫌いなんでね」


「最初からそれを言ってくれてればまだ納得したんだけどねぇ……許さないわよ。絶対に許さないから。でも、熱いヴェーゼをくれたら別よ!それで許してあげなくもないわっ!」


「断る」


「じゃ、逃避行はしばらく続くって事で妥協してあげるわ。というか、足手まといになるって、シズって私の事嫌いな割に、一緒にいてくれる事前提で話しているわよね。というかそもそも関東にいくのもシズは先に一人で転送ターミナル使って行けば良かったわけだし……これはあれよね。期待するわよ?期待していいわよね?」


 あぁ、確かに転送ターミナルを使えばこんな所に来る事もなかったな……そんな自分の間抜けさや馬鹿さ加減には辟易するが、まぁ、良い武器が手に入ったし、WIZARDの腕に刻まれた痕や12時を超えた彼女の事を知れたので良しとしよう。


「観察対象としては、ね」


「……ちょっと好感度アップした?したのね?したわよね?それって」


「好感度ではないけどね」


 言葉そのままに観察対象だ。相変わらず殺し方が嫌いなのは変わらない。けれど、その腕が誰かに奪われるのは許せない。勝手に殺されて死体を晒すのも許せない。12時を超えた狂った姿を他の誰かが見る事も許せない。


 それを人間は好感とは言わない。


 言葉で表すならば、やはり執着なのだろうと、そう思う。


 紛い物の写真を作り出していたかもしれない『彼』に対する興味よりも、WIZARDやSCYTHEへの興味の方が強くなって来たのは、彼女らの方が僕の興味をそそり始めたのは間違いないと、そう思う。


 だから、まぁ、暫くは彼女と一緒に行動するのも良いと思った。






―――






 そして、再びWIZARD曰くの逃避行と相成った。


 行き掛けの駄賃というわけでもないが、WIZARDが彼ら……いや、彼女らのアジトを徹底的に爆破し、崩壊させてから数日。僕達は関東へと向かうためにひび割れたアスファルトの上を歩いていた。


 青い空、輝く陽光。大変、天気が良かった。


 そういえば、ここ最近は雨が降っていない。地元に居た時は何度か雨が降ったが、此方に来てからはまだ降っていなかった。まぁ、気温や雨に打たれる冷たさを考えれば降らない方が良いのだけれども。


 時折、森の中に入ったり、山に入ったり、川沿いを歩いたり、海を見に行っては悪魔を殺して経験値を稼ぐというそんなノンビリとした道程を歩みながら、あと1,2日で東京という所まで来た時、視界の隅にテロップが入った。


『ギルド LAST JUDGEMENT が 東北 の城主となりました。以後、 東北 はギルドの設定した法令に従い運営されます』


『東北 制定法令: NERO、WIZARD、DEMON LORD、SCYTHE、は東北ターミナル利用不可』


『ギルド ROUND TABLE が 九州 の城主となりました。以後、 九州 はギルドの設定した法令に従い運営されます』


『九州 制定法令: NERO、WIZARD、DEMON LORD、SCYTHE、SISTERは九州ターミナル利用不可』


『 アキラ が 北海道 の城主となりました。以後、 北海道 は城主の設定した法令に従い運営されます』


『北海道 制定法令: NERO、WIZARD、SCYTHE、SISTERは北海道ターミナル利用不可』


 立て続けにそんなアナウンスが流れた。同時と言っても良いぐらいのタイミングの良さだった。


 そのテロップを見ながら、個人の場合にはキャラ名が、ギルドの場合にはギルド名が表示されるのだな、と納得していた僕の横で、WIZARDが打ち震えていた。


 憤るようにその手で白いローブの裾を握り締めながら、暫くふるふると肩を震わせていたかと思えば、


「あ゛ぁ゛ぁ゛!?何よ!?何なのよ!皆私の事嫌いなのね!そうなのね!」


 WIZARDが煩く鳴いた。


 分からないでもない。


 まぁ、つまり、なんというか災害認定だった。


「まぁ、嫌いだろうな。僕も嫌いだ」


「ちょっとぉ!?」


 そんなどうでも良い事はさておいて。ターミナル利用不可のアナウンスの選択は任意なのか。だとするならば、NEROがWIZARDを利用不可にしたときにアナウンスしなかったのは嫌がらせだろう。間違いなく。


 とりあえず、


「おめーと言っておけば良いのか?」


「何が!?おめでたくないわよっ!これじゃ、どこに行くにも徒歩になるじゃない!?」


 転送ターミナルは県庁所在地を結んでいるわけで、一言で地方といってもそれでもまだ結構な個所がまだ利用できるとは思う。が、不便なのは確かだろう。


 ちなみに、現在のキルカウントランキングは、


 1位 WIZARD


 2位 NERO


 3位 SISTER


 4位 SCYTHE


 5位 DEMON LORD


 である。


 気付けば、再びDEMON LORDが返り咲いていた。北海道にDEMON LORDの名前がなかった事を考えれば、『アキラ』という人間がDEMON LORDのキャラ名なのだろう。ギルドではなくNEROと同様、彼もまたソロで城主を殺したわけか。フロアボスに四苦八苦していた僕達には到底、城主を殺す事などできないだろうが……ランキング1位であるWIZARDでも無理なそれをさて、どうやったのやら。そんな事を考えていれば、ふいに例の天使の事を思い出した。人間の言葉を使う天使と連絡を取っていたと思われるDEMON LORD。もしかすると、悪魔を遣って城を落としたとでもいうのだろうか……。


 そして、東北の方はSISTERがマスターなのは分かるが、九州の方のギルドは誰なのだろうか。SCYTHEがギルドを作る事など考えられない以上、ランキングにも名前が出ておらず、それでいて城を落とせる程のギルドの規模を持っているのはどこの誰だろうか。


 というか、SISTERのギルド、数が相当減ったと思うわけだが、それでいて城主を殺せるとは……フロアボスの方が強かったのか、あるいはその時に手に入れていた設計図からできた物がそれだけ強かったのか……などと考えていたら、


『関東 制定法令(再通達): WIZARDは関東ターミナル利用不可』


 そんなこれ見よがしなテロップが流れた。


「あのガキ……さーて、東京いくわよ!さっさといって殺すわよ!」


「まずはレべリングじゃなかったのか?」


「……ふん!」


 言い様、なぜか僕の腕を掴んで来た。


 それが暑苦しくてついつい、Cz75を取り出し、その横面に向けて引き金を引いてしまった。


「あいたーっ!?」


 WIZARDが鳴いた。







評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ