表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俯棺風景  作者: ししゃもふれでりっく
第二話 シンデレラになれない少女
13/116

04




「……何もないじゃない」


 ビルに入り、小一時間捜索してビルから出た。出た瞬間、WIZARDがため息交じりに不満を告げる。


 何もなかった。人が生活していた跡は残ってはいたが、特にめぼしいものはなかった。プレイヤーごとに仮想ストレージがあるのだから当然、重要なものはそこに入れてあるだろう。全くの無駄骨であった。


「宝探しに失敗はつきものだと思って、あそこのビルにいってみるかね。フロアボスとやら、少し見てみたい」


「折角のゲームだしね。賛成~♪」


 一転して陽気な雰囲気を見せるWIZARDと共にヤマネが教えてくれた大きなビルへと向かう。


 その道すがら、コンビニを発見し、店番をしていたNPCに声を掛ける。無愛想なおっさんだった。だが、無愛想なりに色々と教えてくれた。向かって左手側のビルの最上階にフロアボスがいるのだとか。右側のビルは特に特別な何がいるわけでもないが、多くの悪魔がそこに潜んでいるとか。なるほど、と納得しながら御礼も兼ねて服を購入する。足が吹き飛んだ所為で片足部分がなくなっていたのである。


「あら、シズの生足が隠されたわね。残念ね」


「僕の足なんて見ても仕方ないだろう」


「そう?女の子みたいで綺麗よ?」


「褒め言葉ではないな」


 昔妹にも同じ事を言われたな、と思いだしながら黒いジーンズを購入し、その場で装備を変更する。そして次いでとばかりに同色の小さめのジャケットを購入し、それも装備する。


黒色好き?」


「いや、特にそういうわけではないよ。どちらかといえば白いカッターシャツとネクタイと臙脂色のスーツとスラックスが履きたい。靴は革靴が良いな」


「さっきのNPCみたいな?」


「あぁ、それだ。動きづらくなければ是非そうしたい」


「じゃ、レべリングの御礼はそれにしとくわっ!」


 ふふん、と楽しそうに鼻を鳴らすWIZARDを無視してNPCのおっさんに声を掛けてその場を離れる。


 それからまた暫く歩き、件のビルに到着する。


 遠目から見れば小さかったビルも、足元に立てば大層高い。ツインタワーと言われても納得したであろう。


 どちらのビルもざっと数えた限りでは30階ぐらいだった。自然に覆い尽くされる人工物の塔。コンビニを背にして向かってその左側、そちらに行こうとした所、右側のビルの10階だろうか。


 そこに人影が見えた。


 華奢な両手で武骨な銀色のハンドガンを―――遠目に見えたそれは間違いなくトーラス レイジングブルだった―――装備した女性が一人。所謂シスターのような格好をした女性が大きな窓を背に戦っているのが見えた。


「レイジングブル……やはりあるのか」


 暫くその女性を見ていれば、レイジングブルの銃身から幾度かマズルフラッシュが放たれ、その銃口の先にいる二足歩行の牛の形をした悪魔が沈んだ。猛る雄牛と呼ばれるレイジングブルでもって牛型の悪魔を殺す所業は何とも面白さを感じるものだった。そしてそれを労う様に数人の男女が女に駆け寄り、そして揃って奥へと、僕の視界から外れた。


「是非、欲しいね」


「二兎追う者はなんとやら、よ。だからほら、浮気も駄目って事よ」


「持っている物にしか興味はないよ。持っている人間に興味はない」


「その死体なら興味津々のくせに」


「そこは否定できん」


「否定しなさいよ、人として」


 苦笑する。


 しかし、ギルドの前にいたNPCは左側と言っていた。右側のビルにギルドメンバーが居るとは言っていない。あんな口の軽い執事が嘘を吐くわけもない。とはいえ、こんな近くで別行動をする別集団がいるだろうか。恐らく、いや、間違いなく同じギルドの面子であろう。だが、それならばなぜ別行動をしているというのか。


「二面作戦を取る理由はないしね」


「さぁ?馬鹿なんじゃないの?」


「半数かそれ以下に分けたとしてもフロアボスを倒せる自信があるというのか?既に何度か試しているのなら話は分かるけど……」


「また無視したわね!?」


 考えた所で彼女らの考えが僕に分かるはずもない。それこそ時間の無駄だった。


 左側のビルの入り口に至り、そしてビルの中を……漸く姿を現した悪魔達を殺しながら、恐らくギルドの者達に殺されたであろう真新しい悪魔達の死体を眺めながら、延々と階段を昇って行った先、その頂上で、それと出くわした。


 先行していたであろうギルドの面子は軒並み肉塊となり、例のライフルの残骸もその場に落ちていた。それを回収する暇もなく、しばしの交戦の後に僕達は逃げ出したのだった。






―――


 




 そして現在である。


 ビルから脱兎の如く逃げてきた僕とWIZARD。コンビニまで移動し、新調したばかりのジャケットの代わりを購入し、次いでに缶コーヒーを購入し、それを飲みながら状況を確認する。良い汗掻いたとばかりにスポーツドリンクを飲みながら額を拭っているWIZARDは無視である。


「僕の攻撃でもダメージは通る。加えてWIZARDの爆弾では致命的なダメージにならない。防御力は低いがHPは高いと考えるべきかね。レベル差はあろうが、となると、基本的にはパーティやらレイド前提のボスか」


 失い、再生した腕を眺めながら先程の悪魔の姿を思い出す。


 顔2つの犬……恐らくオルトロスと称される悪魔だろう。そのステータスを想像する。攻撃力は相当に高い。彼らが軒並み死体となっていた事を思えば、悪魔のレベル自体も高いと考えるべきだ。ただし、レベルが高くなくてもダメージは通る。初心者でも楽しませるためか知らないが、彼らよりも更に大人数であれば何とかなるのかもしれない。まぁ、僕はやろうとは思わないが……ああして見られただけで十分だ。それ以上に得られるものなどない。


「犬の死体に興味はないしね」


 無理して攻略するメリットはない。そこまでしてあの悪魔を殺す理由もない。フロアから出てこないのならば邪魔にもならない。フロアボスの持つ設計図とやらも簡単に得られるならば別だが、そこまでして手に入れようとは思わない。彼らにとっては必要だったかもしれないが……僅かなダメージとはいえ、ダメージは通るのだ。希望があれば人は止まらない、そんな心理を擽る相手に彼らは後退のタイミングを逸したのだろう。その結果があれではお粗末に過ぎるものの、その辺りが『彼』の悪辣さというべきか。


 ……しかし、それよりも強いと考えてしかるべきな各地方に1匹しかいない城主をソロで殺したNEROは本当にどうやってやったのやら……


「さ!今度は殺すわよっ!」


 スポーツドリンクの殻をNPCのおっさんに手渡しながら血気盛んにWIZARDがそんな事を言ってのけた。


「どうやって」


「簡単よ、簡単。隣のビルからシズが遠距離攻撃よ。それでOKよ」


「Cz75やMP5では届かんよ。100mや200mは離れている。それに、それが出来れば先程の輩も苦労していないだろうに」


 とはいえ、一考の余地はあった。それを行える武器があれば試してみるのも良いだろう。


 ともあれ、彼らが全滅していたという事は、彼らも初めてアレと闘ったのだろう。流石に自分が死ぬと分かっていて戦う馬鹿もいないわけで……隣のビルに昇っていた同じギルドの者達も知らない行動だったのではないだろうか。


 逆に、死んだ彼らは右側のビルを昇っていた者達とは会いたくなかったと考えても良いのではないだろうか。ギルドの内情は知らないが、こんな世界で作られたギルドである。内部分裂や意見の違いはあるだろう。


 先日殺した彼らの装備の貧弱さに比べると右側のビルを昇っていた者達の方が装備の質は良いといえる。レイジングブルに対する僕の贔屓目かもしれないが、つまり……あちらがギルドの本体なのだろう。幹部というと言い過ぎだが、主戦力。そして、それらの戦力差を覆そうとしたか或いは僕……いや、WIZARDを殺すという戦果をあげて自分達を見直させようとした。そう考えるのはどうだろうか。こんな世界だ。自分の立場を向上させること執着する者がいてもおかしくはない。自分達が蔑にされる事を許せず、自分の利を最優先して行動していてもおかしくはない。


「シズぅ?どうする?」


「君の言う様に狙撃ライフルでも探すか。とはいえ……闇雲に探してもね」


 そんな風に悩んでいた時である。何が引き金になったのかは分からないが、NPCのおっさんが口を挟んできた。


『駐屯地が悪魔に占拠された。討伐をできる者を探しているのだが、君達、誰か知らないか?』


 と。


 どうでも良いが、このおっさんより、ヤマネやアリスの方が人間っぽかったな……そういえば、別の所に移動するというのをアリスには伝えていなかった。今頃、誰も来ない店で一人店番している事だろう。スカベンジャー達に残飯をあげながら……などと考えていれば、次の瞬間、視界に浮かんだのは『クエスト 駐屯地に住まう悪魔を撃破せよ』というクエストの参加を即す案内だった。その案内の中には報酬も記載されており、『報酬 銃の設計図ランクC  / 参加者』と記されていた。


「なるほど。彼らはここでクエストを受けたというわけか。……さっきの女が持っていたのもコレかね……レイジングブルがランクCというのは解せないけれど」


 あの時殺した少年達が持っていたナイフの設計図がランクCだった事を思い出す。彼らもこういった類のクエストを受けて手に入れたのだろう。そういえばあのナイフもまだ作ってはいないのだが、精々レベル15かどうかぐらいの少年達が持っていた事を考えれば……そこまで良い物が出来るとも思えない。だから、レイジングブルはクエストボスのレアドロップとかなのかもしれない。などと期待するのはどうだろうか。


「銃の設計図ねぇ……私いらないし、シズにあげるわよ。シズの分と私の分で2回くらい作れば少しはマシなものが作れるでしょ」


「ヒモ度があがるな」


「精々、私のヒモに絡まって抜け出せなくなって頂戴。ま、それで駄目なら大人しく関東に向かいましょう」


 そんな彼女の言葉と共に駐屯地へと向かう。


 駐屯地は都市部から離れた南の方にあった。


 緑溢れる山の近く。都市内は彼らのギルドによって悪魔が掃討されていたが、この辺りは悪魔が跋扈していた。アンダードッグに似たゾンビや野生動物然とした悪魔。或いは神話や物語に登場するような妖精や蛇の体に人間の上半身を繋げたキメラなどなど。


 特に小さな人型に羽の生えた妖精はNEROが言っていたビュレットなる名前の悪魔だった。攻撃力は低いものの空を飛び、さらには小回りが利く所為で倒すのに一苦労だった。WIZARDもこういうのは苦手らしく、やたら滅多ら爆弾を投げては避けられていた。ヒモからの脱却を目指し、襲ってくる妖精を手づかみし、Cz75で打ち抜く。人のような悲鳴をあげながら死ぬ辺りが製作者の悪趣味を感じた。


 倒せばNEROが言っていた様に質の良い―――ゲーム用語で言えば店売りよりATKが+5―――が得られた。御蔭で暫く妖精狩りに勤しんでしまった。当然、その間WIZARDは手持無沙汰であり、勝手気ままに森の中に入っては野生動物然とした悪魔を殺していたようである。


「そういえばナイフを作っていなかった……素材は……足りないか。鉄……鉄か」


 どこで手に入れるのだろうと思い、はたと気付いて仮想ストレージ内にあった壊れた銃を取り出し、解体スキルを使う。プログレスバーのようなものが眼前に表示され、それがじわり、じわりと動いて行く。


「何しているの?」


 壊れた銃を手に、呆としている僕にWIZARDが不審そうに問う。


解体技能スキルらしい。昨夜銃を解体していたら覚えたよ」


「ふぅん?……ちなみに、結構遅くまで起きていたの?」


「いや、そうでもない。12時超えたぐらいには寝たよ」


 そんな他愛のない会話をしている間にプログレスバーが100%に到達する。時間にして一分弱。そして、眼前に『 鉄 を手に入れた』というテロップが表示され、壊れた銃が手の中で鉄へと変化した。何ともゲーム的だった。


「なるほど。解体が出来るというのはこういう事か。便利な技能だ」


 都合良く鉄が手に入ったが、恐らく銃によって得られる素材は違うのだろう。これからはガラクタもしっかり集めるとしよう。そう心に誓った。


「変なゲームよねぇ。こういうゲームだともっとこう攻撃技みたいなのあると思うんだけど。エターナルダイナマイトファイアー!とか」


 びしっと腕を伸ばし、白磁の如き長い指先を伸ばして甲高くテンション高く軽快に叫ぶWIZARD。


 それを無視して設計図を確認する。


「……ねぇ、ちょっと無視は止めてよ。これだけは無視しないでよ。恥ずかしいにも程があるじゃない。穴があったら入りたくなるじゃないのよ」


「それこそエターナルダイナマイトファイアーとやらで掘って入れば良い。僕は止めない」


「止めて。止めて頂戴!」


 両手で頭を押さえて首を右に左にと振る。陽光に輝く彼女の銀髪がその所為であちらこちらへと揺れていた。


「ちなみにWIZARDは爆弾生成以外の技能は取得しているのか?あぁ、別に教えなくても構わない。こういう世界だ」


 別に教えなくても良い、という台詞を言い切る前に、


「何よ今更。そういう格好良い台詞はレベルが追い付いてから言いなさいよ」


 一転して呆れたような表情でそういうWIZARDであった。確かに。現状ヒモとしか見えない僕の台詞ではなかった。


「爆弾生成能力がレベル3で裁縫がレベル4、料理がレベル2ね」


 なんとも家庭的な爆弾魔だった。


「なるほど……使っていれば能力のレベルもあがるのか」


「そそ。シズはまだレベル1?」


「結構使っていると思うけど、残念ながらまだレベル1のままだよ」


「トリガーハッピーの癖に軟弱よ!」


 強い敵とでも戦っていればあがるのだろうか。あるいは取得のために使った弾丸数を数えてはないが、それ以上は使わないと駄目なのだろうとそんな事を考えながら、アリスの店で購入した作成キットを仮想ストレージ内のアイコンをタップして使用する。使えば、眼前に設計図と材料を入れる画面が表示され、それに従ってドラッグアンドドロップ。


「傍から見るととっても間抜けよね」


 耳を貸さず、作業を終えてOKボタンを押せば先程と似たようなプログレスバーが動き、それが100%に達した時にアイテムが生成された。


「……鉄くずが産まれたよ」


「シズの運の無さに私、大爆笑」


 言葉通り、WIZARDが腹を抱えて笑った。


 なるほど。失敗する事もあるのか。


 納得と共に丁度良いタイミングで襲って来た妖精を捕まえ、Cz75を口の中に突っ込み、射殺する。


「あはははははっ!八つ当たりとか、妖精さんが可哀そうよっ!」


 ケタケタと笑いながら、WIZARDが僕を指差して笑っていた。


 煩い。






評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ