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俯棺風景  作者: ししゃもふれでりっく
第十一話 ゲヘナにて愛を謳う者達 下
102/116

03


「ネージュ、NPCを除いて三十だ」


 僕と同じ程度の身長、けれど、その体躯は僕と違い細いながらもアスリートのように洗練されたものだった。適度な筋肉に包まれた手足、高い鼻、端正な顔立ち、一見して作られたようなそれが実は現実の姿と同じであると聞いた時は驚いたものだった。


「ありがとう。十分な人数だよ。この短期間でこれだけ集まったのは君のおかげだ」


「よせよ。外様の俺がこの地位にあるのも拾ってくれたお前の御蔭だ」


 苦笑という表情が良く似合う格好良い人である。


「君が優秀だったから、だよ。いくら僕でも使えない人を気にかける余裕はないよ」


 そんな彼に僕も似合わない苦笑を浮かべながら返す。


「言ってろ」


 そう言って彼は笑った。名前は騎士ナイトという。名字が貴志なのでそんな名前にしているのだとか。和歌山辺りの名字だという。ちなみに僕は貴志さんと呼んでいる。


 彼は……元ROUND TALBEの人だった。


 中国地方を襲ったNEROのNPC軍団から逃れていた所を僕と……僕の部下達が助けた事が縁となってLAST JUDGEMENTに参加した。最初は、あのROUND TALBE出身と云う事で軋轢もあったけど―――いや、今でもあるけれど―――、彼自身のキャラによって今ではこうして僕の右腕になってくれている。彼以外にもROUND TALBE出身の人はいるけれど、彼以上に馴染んでいる人はいないように思う。彼自身の人間性故だろう。レベルの高さを鼻にかける事もないし、ROUND TALBEでは当たり前だったという肉の宴―――勿論、LAST JUDGEMENTでそんな事をすればマスター達による処刑である。―――というものも積極的に参加していたわけではないなどなど。そういうのが良かったのだろう。そうさ。話せば分かり合える人達はいるのだ。状況がそうさせてくれなかっただけで、誰も人を殺したくはないのだ。


 寧ろ、今となってはLAST JUDGEMENTの面々よりも、ROUND TALBE出身の人達の方が戦いを嫌がっている。負けて来たからこそ分かる事もあるのだ。負けたからこそ、もう争いは勘弁したいという。


 今居る元ROUND TALBEの人達は、その殆どが二か月と少し前の新生ROUND TABLEとROUND TALBEギルドマスターQueen Of DeathことReincarnationとの戦いに参加していたという。


 恐れ、怯え。


 大多数を前にしても引かず、殺し続けたギルドマスターの事を彼らは恐怖の象徴として記憶している。『あんなものを見たら、戦いなんてしたくなくなる』とは彼の言葉である。そして、同時に……


『あの時の俺達は浮かれていたんだ。間違いなくギルマス……リンカ様は最強のプレイヤーの一人だった。あのNEROすら圧倒していたんだ。円卓も含めればLAST JUDGEMENTにもDEMON LORDにも負けなかっただろう。例え性格に難があろうと、あの人についていけば俺達は誰にも負けないはずだった。そうさ。なんで俺達はあの時、あの方を裏切った。誰も彼もが熱に侵され、浮かれ、あの人の敵となった。なぜだ……誰かに誘導されたとでもいうのか』


 そうも言った。その後、LAST JUDGEMENTを貶めるような発言をした事を詫びていた。別段その事に僕は何も思わなかった。事実だ。ROUND TABLEが最初に僕達を狙っていたら、DEMON LORDとの戦いの最中に横槍を入れられたら僕達は間違いなく負けていた。僕はここにいなかっただろう。だから、そこは良い。そこは良かったのだが、誘導されたような、と感じる貴志さん。もしかして、本当に誰かに誘導されていたんじゃないだろうか、そんな風にも思った。気の所為かも知れないけれど、その事が妙に頭に残っていた。


 ともあれ、そんな貴志さんと一緒に多くの仲間を集めた。


 イクスさんに見捨てられたとはいえ、彼女への想いを諦めたわけでも捨てたわけでもない。彼女の為になるならば、と僕は仲間を集めていた。もう二度と顔を合わせる事ができないかもしれないけれど、それでも良いと思った。いや、単に会うのが怖いだけなのかもしれない。もう一度、見たくもないなんて言われたら僕はそれこそ誰かに殺して貰っていたことだろう。


 僕は弱い。


 僕の弱さが雪奈を殺し、イクスさんを遠ざけた。


 けれど、この弱さに甘んじたままではいけない。


 僕の事が苦手きらいだといったけれど、イクスさんは今でも僕を、僕達を守ってくれている。そのために慣れない仕事をずっとしている。倒れないだろうか、辛くないだろうか。そんな事ばかり思う。だから、そのために。影ながら彼女の役に立てれば良いと考えて、集団を作った。


 名付けるならば、イクス親衛隊なのだけれど、認められるわけもないので特に名前はない。周囲からはネージュグループなんて呼ばれているみたいだけれど……


「それで……いつ、潜り込むんだ?」


「明後日行われる教会完成式典中がアレもいなくて良いかな、と。メンバーはとりあえず僕と貴志さんの二人だけ」


「確かに、潜り込むには良いタイミングだ」


 弱い僕が出来る事。


 弱い僕達が出来る事。


 それを考えた結果……


「尻尾は見せ始めているんだ……必ず証拠はあるよ」


 キョウコさんを……いいや、キョウコを殺す。


 あの時は証拠が足りなかった。僕の言葉だけで信じて貰う事はできなかった。けれど、今度は大丈夫だ。いや、例えそれで信じて貰えなくても僕は構わない。親友キョウコを殺した裏切りネージュなんて呼ばれても、それでも構わない。キョウコがイクスさんの隣にいれば、いつかイクスさんが殺される。


 その兆候は表れているのだ。


「良く見つけたもんだよ。まさに執念だな」


 あるいはキョウコ自らが、もう良いと思っているのかもしれない。そうとさえ思える。それほどに分かり易いものだ。


「そんなにギルマスの事が好きかね」


「好きだよ」


 素直に、言える。


「はんっ。いいね。手伝ってやるよ」


「ありがとう」


「いいってことよ、リーダー。俺達はお前の部下だ。存分に使えよ」


「戦いを嫌った君達には申し訳ないけれどね」


「申し訳なく思う必要なんてないさ」


 そう言って彼は笑った。


 望んで殺していたわけではない。けれど、彼は自分が碌な死に方をしないだろうと言う。良く言っている。せめて、大量殺人を犯しそうな輩を倒す事ぐらいして少しばかり碌な死に方をしたい、そんな事を良く言っている。


 その気持ちが分かるとは言えない。けれど、僕も……そうさ。人を殺してのうのうと生きようとは思わない。けれど、せめてそれがイクスさんのためになるようにしたいと、そう思う。


「ところで、NEROの警戒は良いのか?」


「NEROの事だけれど。聞いた話によると……どうやら、WIZARDが関東に入ったらしい。陸路で関東に入った後、NPCの軍団を全滅させて……ターミナルへ向かったらしい」


 関東近郊はNPCの巣窟だ。相手にしていられないと思ったのだろう。


 逃げたわけではない。LAST JUDGEMENTの把握するターミナルへの転送は禁止している。今、WIZARDがターミナルから行ける場所はNEROの領地だけだ。何処に行ってもNPCがいるのに、態々ターミナルを使うと言う事は、その中心へと向かったとしか思えない。


 NEROの城へと向かったのだ。


「間違いなく、どっちかが死ぬな」


「だと、思う」



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