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俯棺風景  作者: ししゃもふれでりっく
第十一話 ゲヘナにて愛を謳う者達 下
101/116

02


 澄み切った空。斜陽の空。


 こんな状況で、こんな世界だというのに、私はそれを見てとても綺麗だと思いました。この世界は本質的に何も穢れがないからなのだと思います。


 そんな夕焼けに染まる世界を見ていると学校に通っていた時を思い出します。


 そんなに昔の事ではありません。けれど、本当に遠い昔のように思います。


 忘れ物を取りに戻った教室。誰も居なくなった教室。昼間はあんなに皆が騒いでいたのに、その名残など欠片もありませんでした。最初から誰にも使われていない場所のように静かでした。寂しさを感じてしまうほどに静かだったのを今でも覚えています。


 自分の机へと向かい、机の中から目的のもの―――国語のプリントでした---を探しました。


 今は国語もそこまで苦手というわけではありませんが、その頃は苦手でした。御蔭でその直前に行われた試験で赤点だったのです。それで先生から追加のレポートを頂きました。これを出せば点数をあげてくれるという魔法のレポートです。レポートのお題は読書感想文でした。読むのは何でも良いという曖昧なレポートでした。銃の歴史について書かれた本でも良いのかな?と馬鹿なことを考えていたのを覚えています。


 ともあれ、そんなレポートのお題や提出日、提出先について書かれた紙。それを机の中に入れたままにしていたのです。


 ごそごそと机の中を探し、それを見つけて鞄に入れました。無くしてなくて良かったと思うと同時に、誰に言い訳するでもなく照れ隠しのように笑いました。放課後の教室で一人笑っている変な子。それがまた、別の恥ずかしさを産んでしまいました。


 一頻り恥ずかしがった後、そのまま帰っても良かったのですが、私は窓の外から差し込む夕陽の美麗さに目を奪われ、自然、窓際へと。


 この校舎は大して背は高くありません。まして私は屋上にいるわけでもありません。けれど、遠くまで見渡せて、とても綺麗でした。


 静かで、平和で、綺麗で……色んな想いが浮かびました。同時に、この国は良い国だと思いました。もう何年もいるのに改めてそう思いました。


 銃弾が飛ぶ事もなければ、砲撃が飛ぶ事もありません。まして悲鳴が聞こえる事もありません。確かにテレビを見れば毎日のように事件事故で人が死んでいます。けれど、事件、事故として取り上げられるぐらいの数でしかありません。それに楽園エデンだって人は亡くなるでしょう。程度の差です。いえ、別段人の死が少ないから良いと言いたいわけではありません。それだけのことで良い国だと言いたいわけではありません。そんな事を考えていた私の耳に、その『良い国』の証のようなモノが聞こえて来ました。


『おーい!』


『こっち、こっち!パース!』


 眼下を見下ろせば、同級生たちがサッカーボールで遊んでいるのが見えました。


 校舎の前、アスファルトの上で彼ら、彼女らは楽しんでいました。ああいうのを青春というのかもしれません。私は呆としながら、そんな彼らを眺めていました。季節は冬。外は寒いだろうに、とても楽しそうで、とても幸せそうで、少し羨ましさすら沸きました。


 その中には雪奈がいました。キョウコがいました。そして、ネージュ君もいました。ネージュ君の友人達もいました。皆、とても仲がよさそうで、とても楽しそうでした。


 それからどれくらい彼らの事を眺めていたでしょうか。


 気付けば、雪が降り始めていました。


 その年、最初の降雪でした。


 牡丹雪。


 ひらひらと風に流されながら、アスファルトに注いでいました。誰もが空を見上げていました。


 私もまた、そうでした。


 気付けば私は、そっと窓を開けて、窓から両手を伸ばしていました。


 冷たい風が全身に、冷たい雪の感触が指先に伝わってきて、きっと私はびっくりしたんでしょう。変な声をあげていました。そして、その声に気付いたのか、眼下で……ネージュ君が私の方を見ていました。私を見て、小さく笑っていました。


 恥ずかしくなって、私はすぐに窓を閉めて、ネージュ君に会わないように急いで家まで帰りました。それまでで一番早く家に帰られたと思います。


 そんな想い出。


 そんなに遠くない昔、とても懐かしく、それでいて今でも心の奥に仕舞っている大事な想い出。記憶の奥底にずっとずっと大事にしまっているネージュ君の笑顔。とても恥ずかしかったけれど、それでも覚えています。


 夕陽を見ていると、その想い出が浮かびます。自然と、意識しなくても浮かんできます。


 そんな想い出を―――脳裏に拳銃を浮かべて弾き飛ばしました。


 それは浮かべてはならない想い出です。ネージュ君を遠ざけるために、ネージュ君を傷付けた私が浮かべて良い想い出ではありません。


 DEMON LORDとあの天使あくまの姿。


 あの二人の最後の姿を見て、私はネージュ君を遠ざける事に決めました。


 私がネージュ君を庇って死ぬのは良いのです。でも、ネージュ君は……あの天使あくまのように私を庇うでしょう。心優しい人です。自分が傷つくよりも他者が傷付く事を嫌う優しい人です。私とは違います。私は、ネージュ君が傷付かなければ他の誰かが傷付いても良いとさえ思える悪い奴です。地獄に行くべき存在です。


 だから、遠ざけました。


 宝物を壊されないように。


 遠ざけて、手の届かない所に置いておけば……きっと大丈夫。あれだけのことを言ったのだから、ネージュ君だって私を庇おうとは思わないでしょう。私の事を忘れて、時折思い出して『何て奴だ』なんて言いながら過ごしてくれるでしょう。


 それで良いのです。


 私が死んだとしても、もうネージュ君は悲しまないでしょう。その事が少しばかり残念だと思いますけれど、でも……良いのです。ネージュ君が悲しむ事なんて私は望んでいません。傷付けた本人が言う事じゃないのですけれども。


 傍から見れば、馬鹿馬鹿しくも寂しい人間だと思われる事でしょう。


 でも、私は、私自身を寂しいとは思いません。キョウコと……親友と共に地獄へ向かえるのですから。それ以上を望んでは罰があたります。


「イクス様、北陸に向かったNPC部隊が全滅しました」


 そんな声に、現実へと戻されました。


 振り向けば、所謂軍服というのでしょうか、深緑色のソレを着た女性が敬礼していました。確か二十歳を超えたぐらいの方だったと思います。年下の私を相手に畏まったポーズをしている事に、小さくため息を吐き、再び窓の方を向きました。


 窓の外を飛ぶスカベンジャー達が見えました。


 今日はどこに行くのでしょうか?隊列を組んで、優雅に空を飛んでいました。ただ、今日は風が強いのでしょう、皆が皆、カァァァと情けなく鳴きながら風に流されていました。そんな光景に笑みが零れます。呑気で良いな、とそう思います。


 今の私は、そんな死体喰スカベンジャーいに安らぎを覚えてしまうほど、忙しい日々を送っています。自分で自分の事を忙しいと言う人ほど働いていないと言われるかもしれませんが、実際問題忙しいです。やることは満載です。


「そうですか。では、NPCを補充次第、再度北陸に向かわせて下さい」


 背を向けたまま、年上の彼女に向かってそんな指示を出します。


「承知しました。それと、イクス様。別件となりますが」


「何ですか?」


 大人ぶった、偉そうな口調に違和感を覚えることはもうなくなってきました。相手の目を見ることなく、背を向けたまま偉そうにする事も慣れてしまいました。


「騎士団の者達が訓練のために遠征に出るとのことです」


「そうですか。そちらに関しては貴女に一任します」


「拝命致します。ありがとうございます」


 背後で、深く礼をしているのが伝わってきました。ハァ、とため息が零れようとしたのを何とか押さえます。酷く変な顔をしているのだろうな、と思います。


「それと……」


「まだ何か?」


 堰を切りそうでした。それも押さえて、言葉と共に振り向けば、眼前の女性が苦笑を浮かべていました。我慢していたのがばれていたようでした。浮かべた苦笑そのままに、これで終わりです、と女性は言いました。


「明日、こちらにキョウコ様が来られるとのことです」


「キョウコが?北海道の方は大丈夫なのですか?」


「伝令をお伝えいたします。『北海道が暇すぎる。イクス、そっちが来ないなら、こっちから行くから覚悟しなさい』だそうです」


「はは……」


 変わらないな、と思った。


 あの日、キョウコに北海道に行ってもらってから早2ヶ月が過ぎていました。


 2カ月。


 世間の大人達にとってはあっという間で、子供達にとっては長い時間が経ちました。その中間である私は……早いというのが印象でした。


 慌ただしい毎日でした。


 DEMON LORDが死に、ROUND TALBEが壊滅し、ランキングすら一新されたあの日から、この世界は劇的に変化を遂げたと思います。


 現状、この世界はNEROと私達のLAST JUDGEMENTの二大勢力によって支配されています。


 支配、というと語弊はあるのかもしれませんし、私には支配している気はありません。私達はただづどっただけです。ですが、今の私の状況を思えば、支配していると言われても過言ではありません。この世界で生存しているプレイヤーは、その殆どが私達のギルドへと集まりました。


 あの戦争の後、隠れて生きていた者達、小さなギルドを作って生き延びていた人達、そんな人達がこぞって私達の下へ現れました。ある小さなギルドのマスターが言っていました。『もう自分達だけで生きる事には限界を感じている。だから強い人達の下へ』と。別段、私達は自分達を強いとは思っていませんが、彼らからするとそう感じるようでした。そして、そんな風に集まった人達の中にはROUND TABLEの方もいました。もう殺し合いだの何だのは勘弁だと、そう言っていました。ROUND TABLEの最後を私は知りません。ですが、誰も彼もが怯えるように震えていました。壮絶だったのだろうと、そう思いました。


 そんな風にプレイヤーが集まって来たLAST JUDGEMENTのギルドメンバーは以前の数倍に膨れ上がり、もう他にプレイヤーはいないのではないか?と言えるぐらいに私達は大きくなっていました。


 残った人間プレイヤーの厳密な数は私にも分かりません。


 現状、1800名が残っているかどうかではないでしょうか。


 今もなお人を殺し続けているNERO―――1220名。


 WIZARDに殺された人達―――985名。


 DEMON LORD、ROUND TABLEに殺された人達―――亡くなる直前の記録によれば計1000余名。


 私とキョウコが殺した人達―――500名強。


 これで約3700。


 その他、悪魔に殺された人達。


 トータルすれば5000名程にはなるのではないでしょうか。参加者数が6800名のはずですから、概算で残り1800人。現在、その内の1500余りがLAST JUDGEMENTに参加しています。300程差はありますが、多分ですけれど……私達のギルドに参加している人以外はもういないのではないでしょうか。そう思います。


 それぐらいの人数が今、LAST JUDGEMENTにいます。


 ……あぁ、他にもいました。


 Cz。


 2か月前にランキングに乗った人間。


 それが誰かは分かりませんでした。けれど、私にはどうしてもあの時、あのビルで見たしにがみに思えてなりませんでした。WIZARDの隣に立っていた男、あの男に。勿論、私の想像でしかありません。未だCzと呼ばれる人間は見つかっていませんので……。ですが、私はそうだと思います。


 そういえば、最近はWIZARDの話も聞きません。怪談のような形で語られてはいるみたいですが……。それがまた、彼女の恐ろしさを助長させているのでどうにかしたい所ではありますが、人の口に戸は立てられません。それにゲーム開始直後のあの惨劇、あれを忘れられる者はいないでしょうし……。


 ともあれ、あの男とWIZARDが姿を表していないのは、きっと偶然ではないでしょう。


 いずれ、あの男もWIZARDも私達が……私とキョウコが殺さなければなりません。私達以外であの二人に立ち向かえるのはそれこそNEROぐらいのものです。


 あんな人間達が生きていて良いわけがありません。あんな人殺しを是とするような人達は生きていて良いわけがありません。私達が死ぬならば、あの二人を殺してからじゃないといけません。


 勿論、NEROも私達が殺さないといけません。そうでなければ私達に未来はありませんから。


「……負けません」


「イクス様?」


「いえ、なんでもありません。下がって良いですよ」


「はっ!では、失礼いたします」


 敬礼一つ、女性が退室しました。


 彼女の姿が完全に消えたのを確認してから、ため息一つ。


 そう言う事を強制しているわけではないのですが、いつのまにかそういうのが当たり前になってきました。そんな軍隊のような事をされると何とも言えない気分になるのですけれども……。


 ふぅ、とため息の様な深呼吸をして、気分を変え、再び思考をNEROへと向けます。


 2カ月前にNEROが中国地方の城主となり、そこから一週間余り。


 突如、列島にNPCが溢れました。情報収集部隊の人達が悲鳴をあげながら、方々から帰って来ていました。北陸、中部、関西、中国、四国、九州。北海道と東北以外の都市がNPCで埋め尽くされました。


 暴君が暴君としての行動を開始したのです。


 瞬く間に東北と北海道以外の城、私達が所有している以外の城、その全てがNEROによって落とされました。


 そして、所有する都市その全てにおいて、NPCによる殺害許可が制定されました。集団、高レベル、殺害許可あり。生半可なプレイヤーでは太刀打ちできません。日を追うごとに数は増えて行きます。NPCが金を稼ぎ、NEROがそれを受け取り、NEROがNPCを増やす。ネズミ算式にNPCの数が増えて行きました。


 最近では、悪魔を見るよりもNPCを見る方が多いというのを騎士団―――組織が大きくなった結果、NPCや悪魔と戦うための部隊が出来てしまいました―――から聞きました。


 領土あるいは領地内だけではなく、その外にまでNPCが流れて来ています。北海道は海を跨いでいる分ましなようですが、ターミナルを利用して渡って来るNPCもいるといいます。陸続きである東北は酷いものでした。領土境界での争いがずっと続いています。それを止める事は出来ていません。


 幸いにして、私達も人数が増えています。低レベルの人達はレベリングも兼ねて近場で金を稼ぎ、それを元手にこちらもNPCを雇い、境界に向かわせています。NEROのNPCのレベルを考えれば、キルレシオは3:1。勿論こちらが3であちらが1です。じり貧といえば、じり貧ですが……今のところ何とかなっています。人殺しの許可は出しておりませんが、NPCへの殺害は致し方なく認めました。やらなければ殺されるのですから……反面、その御蔭で、ギルドメンバーのレベルもあがってきています。経験値が少ない分効率は悪いのですが、他にやりようもありません。レベリングのために悪魔を探しに行ってNPCと遭遇して殺された者達も数多います。今では遠征部隊というものが作られ---先程の女性が言っていた話―――、集団でNPCを狩る事をしています。NPCを狩ることで相手の装備を奪う事もできますので、下手に金を稼ぐよりも金銭効率は良いのです。


 それを元手に自分達の装備を、NPCの補充を、というサイクルが廻っています。じわじわとギルドメンバーが減っているのは事実ですが、生き残った人達の成長は止まっていません。どこかで必ず拮抗すると、そう思っています。


 しかし、相対的に悪魔がその数を減らし、NPCばかり殺しているというのは良くない傾向だと思います。NPCは人の形をしています。ですから、それを殺し続けていれば、殺人への抵抗感、人間を害する事への忌避感を抱かなくなるのではないでしょうか。そんな心配があります。いいえ、事実、そんな事もありました。


 人が多くなればなるほど、問題は発生します。


 ちょっとした喧嘩が殺し合いに発展する事もありました。当然、その犯人は、東北であれば私が、北海道であればキョウコが処刑しています。そのルールだけは破っていません。人が増えた所為でその事に色々いう人が増えて来たのも事実です。特に今まで自分達でルールを作って過ごしてきた小さなギルドの者達にそういう傾向が強いです。勿論全員ではありませんが、気性の荒い人達というのはどこにでもいるものです。逆にROUND TABLEにおられた方々は静かでした。彼らは殺人も当たり前のようにしていたわけですが……やはりそれだけ壮絶だったのでしょう、彼らのギルドの最後というのが。


 ともあれ、軋轢が産まれています。今はまだ自分達が少数派であるという認識があるので表だっての行動はしておりませんが、時間の問題かもしれません。その打開策でもありませんけれど、キョウコから、『そういう奴らは私の所に送りなさい』と言われています。流刑地というわけでもないのですが、気性の荒い人達は北海道に行ってもらっている事もあります。結果、北海道で暴力沙汰や殺人紛いの問題が発生する事も多くなったのですけれども……。『構わないわよ、結果的にそっちではイクスの手を煩わせるのが少なくなっているって事でしょう?』と、ありがたいようなありがたくないような言葉も頂きました。


 そういう人達の処刑もキョウコに任せてばかりです。かなりの数になっているのではないでしょうか……。


 その事にも、ため息を吐きたくなって来ます。


 ともあれ、現状はそんな感じでした。


 東北、北海道共に戦力増強のためにレベリングと資金集め。資金が集まったら領地境界にNPCを派遣する。その繰り返し。その間にプレイヤーのレベルがあげ、来るべきNEROとの戦争に備えています。


 そんな日々です。


 それらを取りまとめるのが私の役目です。


 騎士団のグループ長から状況を聞き、それに対して命令を下す。問題があればキョウコと相談し、二人で決める。日本と同じく合議制でも取れば良いのかもしれないが、力を付けて来たプレイヤーが上に立ち、その方針を歪められるのは本意ではなく、相変わらずキョウコと私のツートップからのダウン式です。この方式を揶揄され独裁と言われる事もありますけれど、構いません。私達は、私達のままでこの世界を生きることを目的としているのですから。それが叶うなら、私は独裁者にでも何にでもなります。


 そういった騎士団の話に加えて情報収集部隊の人達の話も聞きます。足の早い人達です。移動することに特化した人達です。私は陰で忍者部隊と呼んでいます。実質、騎士団のトップは私、忍者部隊のトップはキョウコにしているからです。


 そんな感じで色々と情報を精査して、犯罪者を処刑して、命令を下す。そんな毎日です。そして……


 コンコン。


 扉をノックする音がしました。


「どうぞ」


 失礼します、と一言、入って来たのは青年でした。先の女性と同じく軍服姿でした。


「建設状況を報告いたします。城壁の進捗率は相変わらずです。物資が足りていないとのことです。また、例の教会に関しては……あと数週間と云った所かと」


「城壁に関しては承知しました。教会に関しては……いつも言っていますけれど、本当にいるのでしょうか?」


「貴女がギルドマスターなのですから、致し方ない事ではないかと……」


 はぁ、と気の乗らない返事をしてしまいました。


 優先するなら城壁を優先してほしいものです。飾りだけの教会などあってないようなものといいますか、なくても良いものです。


「とりあえず状況は把握致しました。可能な限り城壁優先でお願いします。足りない物資に関しては騎士団が遠征から戻って来たら考えましょう」


「承知致しました」


 再び、失礼しますと一言、退室しました。


「まったく……気分転換にはなるのかもしれませんが……」


 建築物。


 一ヶ月前の事です。


 突如としてギルドマスター専用メニューにそんな項目が現れました。より正確にいうならば、建築材料を購入するメニューが表示されました。コンクリートそのものだったり、木材だったり、金属だったり、硝子だったり。試しに購入してみれば、ブロック状のソレが現れました。繋ぎ合わせるとその繋ぎ目が消えるという魔法のような物でした。


 ゲームマスターである神様が機能を追加したのでしょう。


 今更と云った所ではありますが、殺すことだけだったこの世界に創造性というものが誕生した瞬間でした。


 キョウコは勿論、騎士団のグループ長や忍者部隊の長、その他何人かのギルドメンバーを集めて話をした所、元々現実世界で建築屋さんだった人が意見をくれました。それを巧く使えば城壁や真っ当な建物を作る事ができるかもしれない、と。結果、現在では二百人近くが建築分野に従事しています。よっぽど作ることが楽しいのか、寝る間を惜しんでがんばっているようでした。


 もっとも……


「遊びすぎな気もしますが……」


 キョウコが煽った様な気がします。


 件の教会は北海道に建設されるのですから、多分犯人はキョウコだと思います。


 いくら私がランキングにSISTERと表示されているからといって、教会を作った所で何の意味もありません。祈る神様がいないのですから、本当何の意味もありません。ですが、彼らはそっちを優先しているようです。まったく、困った人達だと思います。罪を犯しているわけでもありませんので、何とも言いようが無いのが現状です。せめて領地境界の境界線となる城壁を先に作ってほしい所です。まぁ、あそこでの建築は危険を伴うのは確かですけれども……。城壁に櫓みたいなものをつければ、遠距離から攻撃できるし良い事尽くめだと思うのですけれども……。


 ともあれ、そんな感じです。


 今の私は、私達はそんな感じです。


 抗うために誰もががんばっている、そんな状況です。


 NERO、WIZARD、Cz、その3人を殺せばゲーム終了。あとはだらだらとゲームマスターがあきるまで過ごせば良いですから。


 もう一息、がんばろうと、そう思います。


 キョウコと二人で。



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