『ほうじ茶』
【ほうじ茶】
「――それでは、貴方が私の……」
そう言って彼女は茶を啜る。目は伏せたままで、しかし意識はこちらに向いているのだろう。
霧島楓。目の前で正座するこの女性こそ、僕の許嫁になる人だ。彼女は和服を着ていた。藤色の着物に帯は深い緑。なんというか、彼女は落ち着いた色が好きなようだ。
六畳の和室、僕と彼女は向かい合っている。家の都合で婚約が決まり、今日はその挨拶だった。親同士の話も終わり、今は二人だけという状況だ。息を吸う。大きく吐く。なぜなら落ち着くから。つまり僕は緊張していた。お見合いとかそういうのをすっ飛ばしていきなり婚約だなんて。しかも、相手がこんな美人だなんて。
「ねえ――」
その時、彼女の凛とした声が響いた。芯の通った、綺麗な声だった。
「な、何かな」
「そう緊張されていてもどうしようもないでしょう? 落ち着かないとゆっくりお話もできません」
お茶でも飲んでゆっくりしてくださいな。と彼女は微笑んだ。中性的な、きりっとした眉が上がった。僕はハッとして顔をしかめる。
「そうだね。いただくよ」
楓が注いだお茶を口につけた。焙じた茶葉の香りと熱を感じる。そしてこの、あっさりとした口当たり。
「ほうじ茶……だね」
「ええ、私が好きなんです」
「奇遇だね、僕もほうじ茶が好きだ」
「お茶は、よく……?」
もう一口。熱い茶が口の中に広がる。
「飲むよ。小さいころから祖母と暮らしていたから。自然とね」
「ああ、おばあ様と。……よかったです」
彼女は何かに安心したようだった。どうしてかときくと、
「家の都合とはいえ、趣味が合わない方だったらどうしようか……と。飲み物の好みって人が出るとききましたから」
そしてまた笑う。彼女は続けた。
「家の都合で決まった人。よく知らない方でしたし、気がかりはありました――」
ですが、と。
「なんとなく、良い方なのだなと」
「それって……」
「もう少しお話ししましょう。お互いのこと、もっと知りたいですし」
気付けば僕はとても落ち着いていた。茶は半分になっていた。見ると、彼女は湯呑を傾けている。一気に飲み干し、
「ふぅ……。おいしい」
彼女はそうつぶやいた。なんだか表情が柔らかくなっていた。
「おかわりいかがです?」
真っ直ぐ僕の目を見る、彼女の瞳はとても優しかった。
「頂くよ」
茶を注ぐ音が静かに響いた。
焙じた茶葉が香っていた。
天晶様からのリクエストSSです。お題は『ほうじ茶』と言うことで。
ほうじ茶といえば、割と全国的に飲まれているのではないかと思います。その苦みや渋みの少ない味わいから、赤ちゃんでも飲めるとか。
ほうじ茶は、一般に煎茶や番茶、茎茶を焙煎したもので、出来るだけ熱いお湯で淹れるのがよいとされています。
日本茶のなかではそこまで高級なほうでもないのですが、京都などでは、上質なものが料亭などで出されたりするとかなんとか。
私はあんまりお茶飲まないほうでして。コーヒーをお茶とするならば飲むのですが。
それはそれとして。
今回はNLということで、許嫁な二人です。深夜テンションで書いたので例のごとく構成が微妙。後味のしまりの悪さをいい加減直したいところです。
ちなみに今回のヒロイン、霧島楓さん。完全に私の趣味です。