氷竜の失われた力
「ここは私の縄張り。それを知ってここまで来たのか?」
炎竜は、氷竜に言いました。
「南の炎竜。噂は聞いていたぞ。人間に興味がないと……」
氷竜は、炎竜に言いました。
「人間は、愚かな生き物ぞ。神を困らせ、あげく神に季節を創らせた」
まるで嫌々語るかのように、炎竜は言いました。
「季節の到来は、生き物全てが望んだこと。なにも人間だけの望みではない」
氷竜は空を見ました。
その時、炎竜はこう言いました。
「お前……氷なのに、こんな火の山に訪れてよかったのか?」
「……」
「氷竜ならば、たちまち力を削られるぞ」
「それならもうよい。私には、もう力がないからな」
すると氷竜は息を吐きました。
しかしそれは、わずかな霧となっただけでした。
「本来ならば、炎をも凍てつかせる息。だか、今となってはその力もない」
「なぜ……そこまで力を失っているのだ?」
炎竜の問いかけに、氷竜は悲しそうな顔をしました。
「私は……村から忘れ去られてしまった」
「それは、どう言うことだ?」
少し驚きながら、炎竜は氷竜に聞きました。
「村からの信仰が失われる……?そんなことがあり得るのか!?」
「炎竜。お前は村から恐れられて信仰を得ている。今思えば、その方がよかったのかもしれん」
そう言うと、氷竜は翼を広げました。
「さて。私はここを去るとしよう。さすがに暑くてたまらん」
氷竜が炎竜の住み処を立ち去ろうとしたとき、炎竜は思わずそれを止めました。
「信仰を失い、お前はどうしようと言うのだ?」
「わからん。だか村に戻らねばならん」
すると氷竜は、少し考えたよう頭をかしげた。
「そうだ。炎竜、お前の名を聞かせてくれぬか?」
「なぜだ?」
「またここを訪ねるかもしれん」
「……そうか」
炎竜は、静かに自分の名を告げました。
「私は、炎竜のファルマだ」
「ファルマ……しかと聞き覚えた」
名を聞くと、氷竜は空へと舞いました。
そして炎竜に自分の名を告げます。
「私は氷竜のグラース」
「グラース。では私も聞き覚えた。また会おう。ここでにてお前を待つ」