炎竜と人間
世界の片隅に、大きな火山がありました。
その奥地に村があることを知っているのは、ごくわずかな人だけでした。
この村は、ある宝を護っていました。
それは「夏の結晶」です。
そして、結晶を護る竜もいました。
炎を司る竜。炎竜です。
しかし彼は、村に降りることはありませんでした。
炎竜はただ、赤く染まる空を飛んでいるだけ。
村人たちには、そんな炎竜を恐れていました。
村の守護者と知っていても。
その強い力だけは認めていたのです。
炎竜はずっと思っていました。
人間に興味はない、と。
自分はただ、結晶に手を出すものを倒すだけだ、と。
彼は、ただ当たり前のように。
何百年も夏の結晶を守り続けてきたのです。
そんなある日のことでした。
この火山に、すこし異変が起きました。
火山の活動が止まっているのです。
これをおかしく思った村人たちは、炎竜の所へやって来ました。
「炎竜さま。火山の活動が止まってしまいました」
「……そうだな」
村人たちの言葉に、炎竜はそっけなく返事をしました。
「あなたの力で、なんとかなりませんか?」
村人たちが炎竜の前にたくさんの食べ物を置きました。
すると炎竜は、長いひげを震わせてこう言ったのです。
「人間の食物に興味はない。これを持って、ここから去れ」
「しかし……それではここら一帯が」
「ここは私の縄張りだ。火山の事は自力で片付ける。貢ぎ物などいらぬわ」
そう言うと、炎竜は村人たちに背を向けてしまいました。
村人たちは困ったような表情を浮かべながら、村へ帰って行きます。
「人間が……」
大きな翼も、鋭い牙や爪もあるのに。
朱色の鱗を持つ炎竜は、決して村を護ろうとはしませんでした。
他の結晶の守護者たちは、村と共に生きていると言うのに。
炎竜がここにきてから、村との関係を持ったもとは一度もありませんでした。
火山の活動を元に戻した矢先、炎竜は感じたことのない気配を感じました。
まるで、とても冷たいような感覚。
炎竜思わず、自分の住処から空を見ました。
赤く染まった空を、青い竜が飛んでいます。
その青い竜は、まるで誰かを探しているようでした。
――我ら守護竜以外、この世に竜はおらぬはず
そう思いながら、炎竜は住処に戻ろうとしました。
「ここにいたのだな。炎竜よ」
後ろから声が聞こえます。
炎竜が振り向くと、そこには先程の青い竜がいました。
「私は夏を守護する竜だ。それを知っての無礼か?」
炎竜がそう言いました。
「私は冬を守護する竜。冬の結晶を護りし氷竜」
青い竜はそう言いました。