表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/28

神、学園をつくる

それは、一枚の手紙から始まった。


 


 【わたしたちは、先生の教えを忘れないために、紙に書いています。

 もっと勉強したいです。

 でも、先生がいない日もあるので、勉強できる場所があったらいいなと思いました。】


 


 震える字で書かれていたのは、リーシャの手紙だった。


 丁寧に折り畳まれた羊皮紙に、ところどころ涙の跡がにじんでいる。


 


 「……あいつ」


 


 俺は静かに、手紙を胸ポケットにしまった。


 


     * * *


 


 「学園を、建てようと思う」


 


 神殿の中、村の長老たちと向き合いながら、俺はそう告げた。


 


 驚きと戸惑いが広がる。中には喜びを隠せない顔もあった。


 


 「“教えの神”の教義を記す場としてならば、すでに神殿が――」


 


 「違う。神じゃなく、“先生”としての話だ。子どもたちの“日常”に、“学び”を作りたい」


 


 神殿は厳かで、立派だ。だがそれは“信仰”のための場所だ。


 **俺が作りたいのは、毎日、当たり前のように通えて、笑いながら学べる“学校”**だ。


 


 「名前は、“リエナ学園”にしたい。意味は――“学びを重ねる場所”だ」


 


 静まり返る室内で、最初に声をあげたのはガルドだった。


 


 「面白ぇな、それ。支援するぞ。商人としても、未来を担う子どもたちは大事だからな」


 


 次に手をあげたのは、ラフィーナだった。いつの間にか後方に立っていた。


 


 「宗教と切り離した“学びの場”であるのなら、教会としても干渉の理由はありません」


 


 その場にいた者たちの視線が、次々とうなずきに変わっていく。


 


 俺は小さく、リーシャの手紙を胸元で握った。


 


     * * *


 


 村の広場。大工たちの槌音が響く。


 神殿のすぐそばに、小さな木造の建物が少しずつ姿を見せ始めていた。


 石よりも木を使うことで、温もりのある雰囲気を重視した。


 黒板代わりの大きな板、粗末ながらも整えられた机と椅子。

 それを見て、村の子どもたちが目を輝かせた。


 


 「せんせいっ! あれが“リエナ学園”?」


 


 「ああ。お前らの“学校”だ。ここで毎日、いろんなことを教えてやる」


 


 「ほんとに!? 毎日来てもいいの!?」


 


 「むしろ来い。サボったら、補習な」


 


 子どもたちがきゃあきゃあと笑ってはしゃいだ。


 その姿を見ながら、俺は“黒板”にチョークで大きく書いた。


 


 【第一回 リエナ学園授業】

 【題目:この世界の名前】


 


 「世界の名前……?」


 


 「この世界に名前があること、知ってるか?」


 


 子どもたちが首を横に振る。


 


 「この世界の名は――《リエナリア》。意味は“無限の流れ”。」


 


 「なんか……かっこいい!」


 


 「それを知ってるかどうかで、少しだけ世界が広くなる。今日の授業は、それでいい」


 


 黒板の前に立ち、俺はふと視線を上げた。


 


 教室の後ろに、ラフィーナが立っていた。腕を組み、じっと子どもたちを見つめている。


 


 「……なに見てんだ、査問官」


 


 「――“奇跡”を、です」


 


 小さくそう呟いて、彼女は去っていった。


 


     * * *


 


 夕方。建設途中の校舎の壁に、子どもたちが自分の名前を刻んでいた。


 


 「せんせい、ここに“リーシャ”って書いた!」


 


 「お前が卒業するときに、それ見て思い出せ。“ここで学んだ”ってな」


 


 「卒業ってなに?」


 


 「……全部教え終えたら、お前は“旅立つ”んだ。もっとたくさんのことを学びに、自分の道を見つけに」


 


 リーシャが、少しだけ寂しそうな笑顔を見せた。


 


 「でも、わたし……せんせいの教室が、一番好きだよ」


 


 「それでいいよ。まずはここで、“好き”になってくれ」


 


     * * *


 


 夜。俺は机に向かって、新しい“カリキュラム表”を作っていた。


 


 《文字》《計算》《世界地理》《植物》《礼儀作法》……


 


 そして一番上に、大きく書いた。


 


 【生きる力】


 


 それが俺の教えるすべての根本で、信仰よりも強くて、どんな神様より現実的な力だと、今ならはっきりわかる。


 


 《スキル「教化」が発動しました》

 《影響範囲拡張:不特定多数への波及効果・弱 発生》

 《教えが“概念”として広がりはじめています》


 


 脳裏に刻まれるように、言葉が浮かんだ。


 


 広がる――俺の“授業”が、村を超えて。

――次回:「学園に、初めての“転校生”が来た。」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ