“教団”って、税金かかるんですか?
「――で? 何だって?」
「ですから、“教団”として正式に活動するのであれば、村からの“保護認定”を受け、その上で“信仰団体税”の登録を……」
宿の食堂で、俺は今朝から三度目の頭痛に襲われていた。
対面に座るのは、村役場の書記官を名乗る青年。眼鏡に小太りのいかにも事務的な男である。
「信仰団体……税? そんなのがあるのか」
「当然です。教義を広め、信者を集め、影響力を持つ以上、“収入”が発生するという扱いになりますので」
「いや、俺、金なんてもらってないけど……」
「神殿の建築。供物。食料支援。すべて“信者からの自発的寄付”と見なされます」
なんだその理屈。宗教=税金って、現実と変わらねぇじゃねぇか。
「なお、村長から提出された教団設立届には、“教えの神・ダイゴ教”と明記されておりました」
「誰が教団名つけた!? しかも俺の名前じゃねーか!」
「“親しみやすさを重視”とのことです」
村長ェ……!
* * *
午後、神殿で子どもたちの授業をしていると、村の若者たちがざわついていた。
「おい、先生が税金取られるって話、マジかよ……」
「じゃあ神さまも、お金に困るのか……?」
「もしかして、授業料とか取られるのか……?」
空気が変わり始めていた。
信仰というのは、純粋なままではいられない。
組織になる。金が動く。ルールが生まれる。
そして、疑念が芽生える。
「先生……」
リーシャが俺の手を握った。
「わたしたち、もう……勉強できなくなっちゃうの?」
「……バカ言え。お前らから金取るわけねーだろ」
俺は笑って、頭をぐしゃぐしゃに撫でてやった。
「授業ってのはな、“誰にでも開かれてるもの”なんだよ」
* * *
その日の夕方、神殿の裏手にこっそり呼び出された。
相手は、村の商人組合の代表――ガルドという男。
年は40代。豪快な笑顔と、現実主義の目を持っている。
「先生、単刀直入に言いましょう。あんた、すでに“市場”を持ってる」
「市場?」
「“信者”って言い換えると“顧客”だ。影響力がある。人が集まる。物が動く。――そこには“金”が流れる」
「…………」
「だから、俺たちと手を組まないか? 教材、紙、筆記具、教団関連の物資……全部こっちで調達して、支援する代わりに、適正価格での“販売権”を任せてほしい」
「……俺の授業、無料なんだけど?」
「それでいい。だが周辺ビジネスは避けられねぇ。人が集まれば、誰かが動く。ならば、先生側が主導してルールを作った方がマシって話さ」
現実だった。いや、現実“すぎた”。
教育が社会を変えるってのは、こういうことか――
ただ教えてるだけじゃ、済まなくなるんだ。
* * *
宿に戻ると、机の上に**「教団運営の基礎(初心者向け)」**という分厚い本が置かれていた。
「……誰だ、置いたの」
宿の主人が困ったように笑った。
「ラフィーナ様から、そっと渡されました。“せめて、税務と契約の基礎知識くらいは”とのことです」
あの査問官、意外と気が利くじゃねーか。
ページを開くと、目が痛くなるような文字の羅列が並んでいた。
「……“団体格の選択によって、納税義務の有無と教義の公益性が審査対象となり”って……くっそ、めんどくせぇ!」
バタリと本を閉じて、天井を仰ぐ。
《スキル「教化」が発動しました》
《対象:自分》
《効果:“集中力”強化:一時的適用》
脳裏に刻まれるように、言葉が浮かんだ。
――なんで俺、自分に教えてるんだよ。
少しだけ、笑いが漏れた。
「でも、やるしかねぇか」
* * *
翌朝。神殿の前に新たな立て札が設置された。
【ダイゴ教団は授業料を取りません】
【すべての子どもたちに“学び”を無償で提供します】
【支援物資は透明に管理し、利益は教材の普及と貧困支援に充てます】
それを読んだ村人たちが、ざわめいた。
そして、誰かがぽつりとつぶやいた。
「……これが、先生の“教え”なんだな」
俺は立て札の横で、小さくうなずいた。
「……教えるってのはな、“誰かの明日”をつくることなんだよ」
――次回:「神、学園をつくる」