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あなたの言葉がこの制度を支えています

作者: yotogi

タイトル:あなたの言葉があなたを処理します

あなたは、制度の仕組みをよく知っていた。

会社も、地域も、家族でさえ、

発話された言葉を自動的に検知し、「社会的調和度」を分析し、

それに基づいて個人の行動を規制・制御していることを。


だからあなたは、極力、慎重に語ってきた。

「大丈夫」「問題ない」「適切だと思う」――制度に歓迎される言葉だけを口にして。


だが、ある日、ふと、

あなたは小さく口に出してしまった。


「少しだけ、疲れた。」


ほんの小さなつぶやきだった。

職場の端、残業後の暗いデスクの前で、誰にも聞かれずに。


しかし、その瞬間、あなたの腕に装着された端末が静かに震えた。

液晶には赤い文字でこう表示されていた。


【疲労感を確認。規制開始:行動制限レベル1適用。休養期間72時間を設定しました】


あなたは、はっと息を呑んだ。


自分の発した言葉が、

自分自身の行動を制限する「命令」として返ってきたのだ。


翌朝、会社の入口でセキュリティドアが開かなかった。

表示にはこう出た。


【規制中:あなたは休養義務者として登録されています。職場への入場はできません。】


職場に入れないことを、あなたは予測していなかった。

あわてて上司に連絡したが、メールの返信には淡々とこう書かれていた。


「昨夜の自己申告により、休養義務が課されています。

規定に従い、3日間の休暇を取ってください。」


自己申告?

あなたはそんなものを提出した覚えはなかった。

ただ、小さくつぶやいただけだった。


自宅で戸惑っていると、昼過ぎに制度管理局から電話がかかってきた。


「あなたの昨夜の発言が健康管理制度に自己申告として記録されています。」


あなたは慌てて反論した。


「私はただ、『少し疲れた』とつぶやいただけです。それだけで――」


「はい。それが“自己申告”です。」


相手の声は穏やかで、恐ろしいほど冷静だった。


「あなたの発した言葉は、即時処理対象として自動認識されました。

規制解除を希望されますか?」


あなたは反射的に答えた。


「はい、すぐ解除してください。」


相手は少し間を置いてから、こう告げた。


「いまの発言を『規制解除要求』として記録します。

これは規制への反対行動として判断され、追加処理対象となります。

規制レベルを2に引き上げます。外出制限を伴う48時間の自宅監視措置を設定しました。」


電話が切れた。

あなたは言葉を失った。


次の日、自宅の扉が開かなくなった。

食料品を買おうと外に出ようとした瞬間だった。


【規制レベル2:外出禁止措置発動中】

【理由:反対発言による自己規制強化】


画面にそう表示された。


あなたは壁に寄りかかり、震える声でひとり呟いた。


「なんでこんなことに……」


そのつぶやきすら、端末は聞いていた。


【困惑・反抗的感情を検知。規制レベルを3に引き上げました。

全電子デバイスへのアクセスを72時間停止します】


あなたは急いで端末のスイッチを押したが、

画面は暗く消えていった。


真っ暗な部屋の中、あなたはもう言葉を発することができなかった。

次に何かを口にしたら、それが何を引き起こすか恐ろしくて仕方がなかった。


けれども、喉が震え、抑えきれずに言葉が漏れた。


「助けて……」


その瞬間、部屋中に響いたスピーカーの音声が告げた。


【助けを求める発言を確認。緊急支援措置として、社会適合度再教育施設への強制搬送が決定しました。】


あなたはドアが強制的に解除され、白い服を着た数人の人間が入ってくるのを見た。

その人たちは静かにあなたを担架に乗せ、無言のまま施設の車に運び込んだ。


再教育施設の真っ白な部屋で、

あなたは施設の職員から説明を受けている。


「ここでは、あなたが“適切な言語選択をする能力”を再学習します。」


職員は穏やかに笑った。


「さあ、何か話してください。」


あなたは黙って首を横に振った。

だが、職員は柔らかい口調で続ける。


「話してください。

その言葉が、あなたの処置を決定します。」


あなたは、必死に唇を噛み締め、

何も言わずに耐えた。


職員は微笑を浮かべたまま、

ただ、じっとあなたを見つめている。


「話してください。」


沈黙の中で、あなたは理解した。


言葉が、自分自身を殺そうとしている。

そして、その言葉をあなた自身が語ってしまう。

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