フラグ 16 仲良くやろうぜ
「ちょっと待てよ!」
おおっとぉ、今回の話はリュートでもレイでもなかったー
一発目のセリフはまさかのイグニス。
前回、完全に置いてきぼりだったからね。
もちろん、忘れてた訳じゃなくて一話にあんま色々出しちゃうとお話が霞むから。
てな訳で、苛立ってるイグニスの話を聞いてみよう。
イグニスはその場を去ろうとしているリュートとレイの背中に向かい、思いっきり身を乗り出した。
仲間のパーティ達も同じだ。
シャレにならんという顔で二人を見つめている。
それを背に受けたリュートとレイは、彼らの方にチラッと振り返った。
「どした?」「なに?」
二人とも少しキョトンとしている。
まさに言葉通り、何の用? と、いう感じの表情だ。
それがイグニス達を苛立たせる。
「ふざけんなリュート! その女はまだしも、オマエは聞いてたろ!」
「ん? あぁ……」
俺はちょっと斜め上を見ながら思い出した。
王子との駆け引きやレイのカッコよすぎる啖呵のせいで、完全に忘れてたわ。
まあ、元々嫌いな奴の事なんてそんなもんだよな。
「そーいや、冒険者の資格を剥奪されたんだっけ?」
俺が敢えてちょっと嫌味なボケをかますと、イグニスは一瞬歯をギリッと食いしばった。
「ちげぇよ! まだされてねぇ!」
「じゃあいいじゃん。ほな♪」
俺はニコッとしながら片手でサッと挨拶したんだけど、イグニスの顔は変わらない。
怒ったままだ。
「待てコラ!」
やっぱエセ関西弁が気に入らんのだろうか。
いや、そうではなさそうだな。
イグニス達、顏がマジで焦りと悲壮感たっぷりだ。
エセ関西弁ぐらいでここまではならんやろ。
「テメェ俺達から横取りしやがって! このままじゃ、俺ら冒険者の資格剥奪されるだろうが!」
「そうよ! どうしてくれんのよっ!」
「まったくだ。この、横取りマンめ!」
くっそ、だから三人目。さっきからズリーよ。笑わせんなって。
けどさ、そんな事を言われてもどうしようもねえっての。
いい加減にしてほしい。
「あのさ、文句なら言う相手が違うんじゃねーの」
「ああん?」
「決めたのは俺じゃねぇ。王子様だぜ」
「ぐっ……!」
俺がそう言うとイグニスの奴、急に大人しくなっちゃった。
もちろん、魔女っ子ちゃんも戦士くんも同じ。
まあ、俺も分かってて言ったんだけど。
でも、実際その通りだし嘘じゃない。
「だから、文句あるならカイン王子様に言ったらいいんじゃね」
「リュート、テメェ……!」
俺が思いっきり睨まれてると、横からレイが少し心配そうな顔を向けてきた。
「リュート、どうしたの? なんで彼らあんなに怒ってるの?」
えっ? 外から話を聞いてたんじゃないのかって?
そんな事無いわよ。
ドラゴン化したディオの背中に乗って、空の方にいたんだから。
まあ、ディオは耳がいいけど私の聴力は普通なの。
だから心配になって当然でしょ。
リュートはなぜか知らないけど、トラブルに巻き込まれやすい体質なんだから。
私はリュートから軽く全容を聞くと、軽く溜息を吐いた。
「ハァッ……じゃあ彼ら、私達が王子と約束したから怒ってるって事?」
「まあ、そういう事。アイツらの剥奪免除の条件は、モンスター共の討伐だから」
「そう……少し気の毒ね」
ちょっと切なそうな顔を浮かべたレイを見ながら、俺は思っちまう。
───ったくレイ、お前どこまでいいヤツなんだよ。気は強ぇクセにさ。絶対に断罪なんてさせてたまるか!
俺はマジでそう思ってる。
だってイグニス達はレイを取っ捕まえようとしてるんだぜ。
しかも、元々は自分達の出世欲。
今は、自分達の保身の為にだ。
そんな相手の事を想える人間なんてそうはいない。
けれど、イグニス達はレイのそんな気持ちも知らずに罵声を浴びせてくる。
「ざけんなよ! クロスフォード・レイ! 元々はオマエが原因なんだからな!」
「そのとーりよ! アンタが大人しく処刑されなかったせいなんだからね!」
「うむ。まったくもってその通りだ。この……高飛車女め!」
あっ、三人目。今回裏切りやがった。フツーじゃねぇか。
って、そこじゃねぇわな。
マジでコイツらありえん。
俺の事をどうこういうのはまだ許せるけど、レイの事言われたら我慢出来ねぇ。
カッチーンときたわ。
「おいイグニス! お前らいい加減に……」
そこまで言った時、レイはイグニス達を見たまま俺の前にサッと出た。
「アナタ達の言う通りよ。ごめんさない」
「レイ?!」
俺が謎めいた顔を浮かべる中、レイは華美な瞳でイグニス達を見つめている。
「けど、私も理不尽な事で断罪される訳にはいかないの。だから、一緒にモンスターの討伐に行きましょう。別に、協力しちゃダメなんて条件は無いんだから」
レイのこのセリフを背中越しに聞いた俺は、思わず固まっちまった。
ただ同情するだけじゃなく、レイは本気で相手を救おうとしてるから。
───まっ、イグニス達は正直ムカつくけど、レイがそう言うなら仕方ないよな。
俺はそう思ったけど、イグニスはそんなレイの事を睨みつけた。
「チッ、ウザッてぇ……上から見やがって! ざけんなよ女風情がぁ!」
その眼差しと言葉がレイの心をギュッと辛くさせる。
また、それと同時にイグニスはレイに殴りかかってきた。
イグニスの拳がレイに迫る。
あぁ、強そうな拳が私に迫ってくるわね。
でも、もういいの。
前世からこういうばっかりだから。
私は別に上から言ったつもりがなくても、生意気だって言われたり合理的で冷たいとか言われてきたし。
今だってそう。
私だって退く訳にいかないからお互い上手くいく方法を提示したんだけど、イグニスだっけ?
彼には上から目線に映ったのね。
いえ、彼だけじゃない。
他の二人もそんな感じで私を見てる。
結局、人から誤解されるのは前世でも今世でも変わらないのよ……
私は哀しみと共に今から殴られる拳が恐くて思わず目を閉じた。
けれど、顔に伝わってくるハズの痛みはこない。
───えっ、まさか……
そう思ってそっと目を開くと、私の目に映ったの。
イグニスの拳を片手でギュッと受け止めてるリュートの姿が。
リュートは拳を受け止めたまま、ギリッと顔をしかめてイグニスを睨んでいる。
「イグニス……お前、いい加減にしろよ!」
「クソが……リュートのくせに生意気言ってんじゃねぇぞ!」
イグニスはマジで刺すような目で睨んできてるけど、俺は全然怖くねぇ。
いや、嘘ついた。
ちっと怖いけど、そんなんどうでもいい。
こっちはマジで頭きてんだ。
「生意気? お前こそ……なんでレイの気持を分かろうとしないんだよ!」
「ああっ? 知るかよ、んなもん! バカじゃねぇのかテメェ……!」
その言葉聞いた俺は、より怒りが湧いてきた。
マジでイグニスに言っても分からんだろうけど、言わずにはいられない。
「俺には分かるんだよ……レイはな、ずっと……理不尽に耐えてきたんだよ!」
「あんっ……!? 理不尽だぁ?」
「そうだよ。レイは令嬢であの王子の婚約者。言いたくない事だって、王子や国の為に言わなきゃいけない時だってあったろ……本当は、いつも笑っていたいのによ……!」
俺はイグニスの拳を必死で耐えながら話を続ける。
「そういうのは嫌われる損な役割だ……でも、レイは相手を大事に想うからこそ敢えて言ってきた。イグニス……お前にだって一緒だ」
「……んだと?」
「レイはお前に助かってほしいから、手を差し伸べただけなんだよ。それを上からとか、ふざけんのも……大概にしろ!」
リュートの怒りに満ちた声が王の間に響き渡った。
その声がレイの心を震わせ、瞳に涙を滲ませる。
な、なによ。別に泣いてないんだから。ただ、目に汗が滲んだけだけよ。
……だって、初めてなんだもん。こんな風に言ってくれた人。
まあ、正確に言えばこういうの言ってくれそうなのは、一人だけいたわ。
前世で付き合う寸前だった翔よ。
でも翔とは結局付き合えずに終わっちゃったし、この世界に来てからだって辛かったわ。
あの前世と今って不思議な感じで、私はどっちも生きてきたの。
霜月 沙紀としてもクロスフォード・レイとしても。
けれど、どちらの人生でも人からずっと分かってもらえなかったし誤解されてきた。
───でも、リュート。アナタは……!
イグニスの拳を受け止めてるリュートの手を、私はそっと包むように握って微笑んだ。
「リュート、ありがとう」
「レイ……!」
「もう、大丈夫よ」
私がそう告げると、イグニスはサッと身を引いた。
「チッ、なんだよ……!」
顔をしかめて睨んでいるイグニスを、私はジッと見つめている。
もちろん、イグニスは殺気立っているけど私は怖くない。
むしろ、リュートが傷つく方がずっとイヤなの。
だから一歩も退かないわ。
「さあイグニス、選びなさい! 私を殴ってこのチャンスを失うのか、私達に協力して冒険者の資格を守るのか……どっちがいいの!」




