黒騎士と姫と悪友
「ハハハ! ハンナ! ほら、ナイトもこの魔道具の良さを分かるだろ! やっぱり俺の見る目は確かなんだ!!」
「「いや。それはないから」」
ハンナと俺の声がハモった。
俺たちの同時ツッコミでハンスが倒れた。
でも、何回か連続で当てたくらいで調子に乗るのはマジで困る。なんせハンスは見る目がおかしいから。
普通に冷たい鉄板の魔道具を持ち込んだこともあったし、履いているだけで踊るんじゃなく、酔いするほどただ回る靴を持ち込んだこともあった。
前のは普通に氷の上に鉄板を乗せた方が効率的で、後ろの靴になると普通に呪われ物である。
集めること自体を悪く言うつもりはないけど、せめてそんな呪われたものを普通に雑貨屋で売ろうとしないでほしい。
さて、事態も落ち着いた事だし、そろそろ真面目な話をしようか。
「ハンス。ちょっと良いか??」
「くすん。娘と親友に売られた俺に何の用だ」
おいおい、その程度のツッコミでいい大人が泣くんじゃない。マジ泣きじゃないか。
てか俺もいろいろと忙しい。話は勝手に進めてもらう。
「話がある。真面目な話だ。中に入って話してもいいか」
真面目な顔でハンスの目を見て話すと、
「……わかった。ハンナ、お茶を用意してくれ」
さっきまで泣いていたのが嘘のように席を立ち上がったハンスが店のドアを開けて中に入った。
俺が真面目な話をしようと思っていることに気づいて配慮してくれたのだ。
見る目はちょっとアレだけど、本当にいい奴なんだよな。今もちょっと泣いているけど。
***
「それで? 言いたいことってなんだ?」
ハンナが出してくれたお茶を飲みながら、ハンスが尋ねた。
「ああ、この子のことだ」
俺はそう言って、持っていたスリングをめくってハンスにベベを見せた。
「ぴゃーー♥」
おむつを交換してからずっと機嫌の良いベベは、満面の笑みでハンスと目を合わせた。
しかし、ベベのかわいい笑顔に反して、ハンスの表情はあまり良くない。
「……人間の、子供?」
「ああ、それも聖力を持つ子供だ」
「はああーーッ」
俺の話を聞いたハンスは両手で顔を押さえた。
人間時代からの悪縁であるハンスは、この村で唯一、俺の正体を知っている。
したがって、奪命王である俺の立場、そんな俺が面倒を見るような立場の人間の子供、しかも聖力持ち。という数少ない手がかりだけで、ハンスはベベがどんな存在なのか気づいてしまったのだ。
「……よし、聞かなかったことにしよう!」
「おい! ひどいな! 友達だろ?!!」
「ふざけるな! 俺はそんな危険なことに首を突っ込む気はない! こっちとら可愛い可愛いハンナという娘がいるんだからな!!」
「チッ! この親バカやろう!」
堂々と言いやがって!
まあ、最初から期待なんかしてなかったけどな! これぞ俺の悪友だ!!
「まあ、そう言うんだろうなとは思ってたよ」
俺はよだれを垂らして俺の服にシミを作っているベベの頬を拭きながら言った。
そもそもこの方面で助けを得られるなんて思ってない。
ただ、この魔界で唯一気楽に話せる相手である悪友に愚痴を言いたかっただけだから。これでいい。
「じゃあ、後ろの話は聞いてないことにしていいよ。それより一つ聞きたいことがあるんだけど」
「ああ、何だよ、何が聞きたいんだ」
「人間の赤ちゃんは何を食べさせればいいの?」
「そりゃ、乳だろ……ああ、ここでは普通の動物の乳が手に入らなかったな。適度にミノタウロスの乳でも食べさせればいい。とはいえ、そのまま飲ませるわけにはいかないけど。ミノタウロスの乳にヒダマリの薬草の汁を混ぜるか、それともーー」
「それとも?」
「ちょっと待ってろ」
しばらく席を外したハンスが小さな箱を持ってきた。そしてそこから親指大の小さな玉を一つ取り出した。
「この聖石を使えばいい。食べさせる前に聖石で軽く魔気を浄化すれば、人間の赤ん坊でも食べられるようになるから」
「聖石って、こんな貴重品どこで手に入れたんだよ」
「入手ルートは秘密だ。うちのハンナが獣人とハープだろ。万が一に備えて取っておいたんだ。あの子、聖力を使うって言ってたじゃないか。日常を過ごすだけで少しずつ体から漏れる聖力をその聖石に貯めておいて、必要な時に使えばいい」
魔王国に住んでるからといって、全員が魔族というわけではない。
様々な事情によって魔王国に住むことになったハンスのような人間や、ハンナのようなハーフ獣人など、様々な人種が住んでいる。
そして、聖力と相まみえない魔族とは違って、聖力が役立つ種族もたくさんいるんだ。
そんな彼らにとって、聖力を保存し使用できるようにしてくれる聖石は、もしものときに命を救う手段にもなれる。
「そうか、でもそんな貴重なものを俺に渡していいのか?」
どうやって手に入れたのかはわからないが、かなり苦労して手に入れたのだろう、ということだけはわかる。
そりゃそうだ、この聖石。魔界では本当にとてつもなく、もはやゲロが出るほど入手が難しい。何んと言っても世界唯一の採掘地が聖国のど真ん中にあるからな。
それをこうして俺にくれるということは、万が一の時のために持っていた非常手段を俺にくれるというのと同じことだ。
これがあれば、ベベが聖力を暴走させてしまった時にも大きなダメージを受けずに済むし、いろいろと役に立つだろうが、それでも黙って受け取るには相当な大物だった。
「ハハッ! 大丈夫だ。ハンナもけっこう大きくなったし、多少のことではそれが必要になる事態なんて起きないだろう。それでも気になるなら、後でそれがいらなくなった時、聖力をパンパンに詰めて返してくれればいい」
「……わかった。そうする。ありがとう」
口ではそう言うけれど、ベベのことを手伝えないのが気になるんだろう。気にしなくていいのに。本当にいい奴なんだから。
よし、後で手伝えることがあれば全力で協力しよう。
「それにしても、このまま持ち歩くのは不便だな。ベベが飲み込んだら大変だし。穴を開けてブレスレットにしてもいいか」
「ああ、いいぞ。どうせなら可愛く作ってくれ! 返してもらったらハンナにプレゼントするから!」
こいつ、今、俺に後でハンナに渡すときのためにかわいいブレスレットをつけろって言ったんだな。
こんな真っ黒な男がかわいいブレスレットつけてるの見たいのかよ。
まったく。シンプルに紐に聖石1つだけつけるからな! ……後で返すときは、ちょっと飾りを付けて返すかもしれないけど。
さて、この話はここで終わりにして。
「実はもう一つお願いがあるんだけど」
「今度は何だよ、真面目な顔をして」
「胃薬を頼む。胃が死ぬほど痛い」
本当さっき謁見室に行った時から今までずっと痛かったんだから。もうそろそろ胃が死にそうなんだ。胃薬をくれ。できるだけ強いやつで(泣)
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