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黒騎士は姫を押し付けたい



「……」


 結局、獣人王カプカの領地まで来てしまった。


 これは全部セイレンメイド長のせいだ! すぐに出発しようと思ったら、忠告と称してあれこれ言ってくるから! もちろん、赤ちゃんの抱き方とか! 授乳の仕方とか、ありがたいお節介でしたが!! でも今回だけは早く解放してほしかった!!(泣)


 とにかくそんなわけで、とりあえず四天王の一人であるカプカに会うために、彼女が治める南の領地にやってきたが。


「……ふむ」


 カプカはどうやら不在のようだ。


「は、はい! 急用ができてしばらく帰ってこれないとのことで……」


 カプカの専属執事が額に流れる冷や汗をハンカチで拭きながら頭を下げた。

 奪命王という異名を持つ俺を一人で相手にするのはかなり負担なようだ。しかも、言うものが客に自分の主人がいないということだからな。もっとそうだろう。


 うう。それにしても執事さんが立派な中年の姿で、ちょっと良心が痛む。年寄りをいじめる気分!

 でも、ごめんなさい! 怖がらせるつもりはないんですけど。 俺も本性を見せないように必死だから。緊張しなくていいと慰めることはできないんですよ。マジごめん。


 それにしても困ったな。カプカが屋敷にいないなんて。


「……目的地は?」

「そ、その、聞く間もなく出て行ってしまいましたので……申し訳ありません!!」

「……」


 くっ!!

 場所さえわかれば、直接行ってお願いするつもりだったのに。場所もわからないなんて。くそー。

 はあ、仕方ないな。


「あ、あの、奪命王様。もしよろしければ、伝言でも残しますか? ご主人様がお戻りになったら、必ずお伝えしますので」

「……もういい」


 伝言なんて残せるわけないだろ! 俺、この仕事できないから代わりにやってくれないか? 伊達で百年近く奪命王やってるわけじゃないんだ。そんなキャラ崩壊なことできるわけないだろ!!?

 くっ。ちくしょう……!!!


「……戻ったら知らせ」

「は、はい! 必ずお知らせします!!」


 俺は深く頭を下げる執事を残して屋敷を出た。


 さて、どうしようかなぁ。

 カプカは留守にすると、短ければ数日、長ければ1ヶ月以上帰ってこないこともある。

 だから残念ながら、その間は俺がこの小さなお姫様の世話をし続けなくちゃならない、と言うわけだが。

 早くも胃が痛い。


「ぴゅぅーー♥」


 眉間を押さえていると、懐にいるお姫様が可愛い声で喃語を言った。


「お前は心配なんかなくていいな」


 黄色いダイヤのような瞳をキラキラと輝かせながら笑う姿を見ていると、こちらまで元気になるような気がした。

 錯覚だろうけど。

 まあ、でも次に何をするか思いついたので、いいことにしよう。


「よし! とりあえず、ハンスの店二でも行ってみるか」


 ベベについてあれこれ聞きたいこともあるし、もしかしたら少し助けてもらえるかもしれないからな。


「あ、行く前にこの息苦しい鎧を脱がないとな」


 俺はカプカの屋敷から十数分離れたところで、ベベをそっと置いて鎧を脱ぎ始めた。

 黒騎士の特徴とも言える黒くて派手な鎧を脱ぎ、武器を外すと、鎧の内側に着ていた軽いスーツが現れた。

 白いシャツに飾り気のない黒いベスト、黒いズボン。どこからどう見ても普通の事務職にしか見えない服装。

 黒騎士の仕事をするとき以外は、俺は基本この格好だ。


「この姿なら人の視線を気にしなくていいから、楽なんだよな」


 俺は脱いだ鎧と剣をマジックバッグに入れながらそうつぶやいた。

 この格好で街を歩くと、みんなどこかの商店街の店員が歩いていると勘違いしてくれる。おかげで肩の力を抜いて動けるのが嬉しい。


「さて、鎧も脱いだ事だし。そろそろ行くか。ベベ姫」

「ぴゅぅ♥」


 俺は楽しいそうに答えるベベを抱きしめ、目的地であるハンスの店へと足を運んだ。






 そうしてやってきたハンスの店だがーー。


「ハアアアンナアアアアーーーーーー!!!! 許してくれええええーーーー!!!!!!」


 良い歳のな大人が羊の角が生えている小さなお嬢さんにぶら下がって大泣きしていた。とてもシュールな風景だ。でもこれがこの家の普通の日常風景でもある。ちなみにあそこで大泣きしているおじさんが俺が会おうと思っていた店主のハンスで、そのハンスに捕まっているのがハンスの娘のハンナだ。


「今日はまた何をやらかしたんだ、ハンス」

「ああっ!! ナイトー!! いいタイミングで!! お願い!! ハンナを止めてくれ!! ハンナが俺の収集品を捨てようとするんだ~~~~~!!!!」


 ハンスが俺の仮名を呼びながらしがみついた。

そうだ。仮名だ。あの重い黒騎士の鎧を脱いだ俺は、「ナイト」という名の普通の下級魔族として認識されている。

 ……道を歩くだけで気絶する人が出ない日常。やっぱりメッチャ大切。(泣)


 それにしてもこれはいつものあれか。

 雑貨屋のオーナーであるハンスだが、彼はものすごいコレクターでもある。それも普通のコレクターではなく、お店で売ると言って絶対に売れないようなものも買ってしまうオタクコレクターだ。

 でもその中にたまに使えるものが混ざってることもあって、全部捨てるわけにもいかないんだよねー。

 一度見てみようか。


「とりあえず物を見せてくれ」

「ああ! わかった! ハ、ハンナ! そういうことだから、それをナイトに渡してくれ」


 目元に涙を溜めたハンスが哀れな目でハンナを見上げた。

 すると俺とハンスの顔を交互に見たハンナは、どうしようもないという表情で手に持っていたものを俺に差し出した。


「はあー。必要ないものなら、はっきり断ってくださいね」

「ああ、わかった」


 どれどれ、これは……。


「本当に、棒の先がくるくる回る魔道具は誰も買わないと言うのに、お父さんは聞かなくって」

「……いいな!!」

「今回はやっぱり内藤さんもいらないでしょ? ……エッ。いいんですか!?」

「ん。いいよ。すごく」


 むしろ購入するしかない。

 この魔道具、ミニホイッパーなんだから!

 これさえあれば、自分でクリームを打たなくても、パンに乗せるクリームが簡単に手に入るから! 何なら一日一回トーストにクリームをかけて食べてもいいと思う! やっぱり毎回クリームを作るのは面倒で諦めていたから


 しかし、そんな俺の考えを知らないハンナは、頬を膨らませて興奮気味に怒った。


「ああ、もう! ナイトさんはうちの父さんに甘すぎます! この前も、その前も、そう言って変なものばっか買って!!」

「いや、それもそれなりによく使ってるんだけど」


 前回は確かにグラム数が0点1グラム単位で測定される天秤の魔道具だったし、またその前は髪を乾かすのに最適な温風を出す魔道具だった。今日もその魔道具を使って髪を乾かしたんだから。 ちゃんと活用してる。

 まあ、こんなことをハンナに言ったら「髪は普通にタオルで乾かせばいいんでしょ?」と言われそうなので絶対に言わないけど。


「ハハハ! ハンナ! ほら、ナイトもこの魔道具の良さを分かるだろ! やっぱり俺の見る目は確かなんだ!!」

「「いや。それはないから」」



 

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