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黒騎士と姫とドレス3


「それでは、私はこれで失礼いたします」

「は、はい。ありがとうございます」


 ベベと俺の採寸を終えたエマさんが、頭を下げて部屋から出て行った。

エマさんを見送った俺は、ふらふらと歩き、ソファにぐったり腰を下ろした。

 すると、エマさんと入れ替わるように部屋に入ってきたロベランが、さりげなく俺の前にお茶を置いた。


「御主人様、お疲れ様でした」

「ああ、ロベラン。ありがとう。だが、その前に言うべきことがあるんじゃないか」


 俺は聞きたい言葉があるんだが。


「出過ぎた真似をし、もし訳ありません」

「ああ」

「ですが、このロベラン。後悔はしておりません」


 後悔はしてないのかよ。


「ご主人様はこの霊墓城のご主人です。なのでこの城の誰よりも質の良いものを身につけるのは当たり前の事だと存じます」


 そうかそうか。

 しかし。


「今の俺は下級魔族のナイトなんだけどな」

「そうだとしても、同じことです」


 ご主人様はご主人様ですから。

 ロベランが堅くなに言い切った。

 ロベランは断固だな。まったく。

 どうやらロベランにとってこの話題は譲れないものらしい。

 しょうがないな、今度は俺の方から折れるか。もう採寸も終わってしまったし。


「今回は許してやる。だが、次またこんな事があったら許さないぞ。わかったな」

「はい。かしこまりました」


 俺の言葉にロベランが丁寧に頭を下げた。


 よし、有能なロベランだ。次からはこんなことはないだろう。


 そう思った俺は、深いため息を吐きながらソファに体を任せた。


 ところで、それ以外にもロベランに聞きたいことがもう一つあった。


「そういえばこの前、この子の性力について城の者たちに警告しておけと言ったが、それはどうなった」

「おっしゃるとおり警告しておきました。 べべ様は恐ろしい力を持っておられますから、軽々しく触らないようにと」

「それにしては、今さっきそのことで、大変な事故が起こったんだが」


 そう言った俺は、ロベランをじっと見つめた。

 すると、ロベランが頭を下げて言った。


「申し訳ございません、ご主人様。この霊墓省の使用人たちは皆、ご主人様の名に恥じない働き者ですので、少しやる気が多すぎたかと」

「たとえそうだとしても、命令を守るために自分が傷ついては本末転倒だ。言いにくいかもしれないが、もう少し強く言ってくれ」

「ですが、ご主人様。この城の者たちは皆、ご主人様に仕えるためにいるのです。 それは甘すぎるのではないかと」


 そう出るのか。

 たしかに現代日本と違って、この世界ではまだ主人のために命を捧げることを最高の忠義と考える傾向があったな。

 ロベランも、いや、頑ななロベランだからこそなおさらそういう考えを強く持っているのだろう。

 だが、今回ばかりは俺も「はい、そうですか」で済ませることができなかった。

 現代日本人としての自我が「ひぃぃっ! パワハラ!! ダメ!! ゼッタイ!!」と悲鳴を上げていたのだ。


 パワハラはダメだ! ただでさえ人間を殺せないというリスクを抱えているのに。使用人たちに嫌われることまでしたら後が怖い。

 あとで本性がバレて、今持っている地位や威厳がなくなったりでもしたら、自分たちが従っていた奪命王がこんなしょうもない奴だと知った使用人たちに火炙りされる可能性が高い。

 仕方ない。ここでは少しハッタリを言っておくか。


「黙れ、ロベラン。いつからお前が俺の所有物に口出しできる立場になった。城のものはすべて俺の物だ。俺の物の使い方をお前が決めるな。それを決めるのはこの俺だ」


 そう告げた俺は体の中に縛っていた力の枷を静かに解いた。

 周りを押しつぶすような黒いオーラが俺から発せられる。


「……くっ!!」


 俺が作ったシールドに包まれたベベは今もスヤスヤ眠っているが、直接俺の魔力に当てられたロベランは違う。

 ロベランが何か重いものに押しつぶされた人のようによろめいた。

 眉間に皺を寄せ、冷や汗を流すロベランの顔は、すでに死者であるにも関わらず、何だか青白くなったように見えた。

 なんだか老紳士をいじめているような気がして、気分がとても落ち着かない。

 しかし、まだ気を抜くことはできない。

 俺は力をさらに強く発散しながら、ロベランに釘を刺した。


「わかったか」

「……は! かしこまりました」


 ロベランが肩を震えながら深く頭を下げた。

 俺はそんなロベランをしばらく眺めた後、彼を抑えていた力を体に戻した。


「今度はこれで見逃してやる。次からは気をつけろ」

「……は!」

「それと、さっきの事で傷を負った針子メイドたちには、傷の治癒と慰謝料、そして一週間の休暇を与えるように。俺は俺の所有物が万全でない状態で出歩いているのを見るのが不愉快だ」

「は! かしこまりました」


 よし。 これでこの件は片付いたか。

 それじゃあ、次の話に移ろうか。


「聞きたいことがあるんだが。カプカ領から何か話とか来なかったか」


 どうしてもこの前ノールさんの農場でギャルルに会ったことが気になっている。

 獣人は基本勘が鋭い方だから。ひょっとすると俺があの仮面の男だと気づかれた可能性も考えてる。


 もしギャルルが俺の正体に何か疑いを抱いているのだとすれば、真っ先にやることは俺の背後調査だろう。そこまではしなくても何かしらしてくるに違いない。

 だが俺の心配は余計な心配だったようだ。

 しばらく考えをまとめているようだったロベランが言った。


「話……ですか。何も聞いておりませんが、何かあったのでしょうか」

「そうか。何もなかったらいいんだ。 ちょっと気になってただけだから」


 何もなかったらそれでいい。

 ギャルルがナイトという身分を疑っていたとしたら、こっちを探ろうとするんじゃないかと思っただけだから。

 ノールさんのミノタウロス農場で会った時も、最初は少し疑っていたようだが、その後は俺が使った魔道具のほうに気を取られていたし。この感じだとしたらギャルルに何も疑われなかったということだろう。ん。そうに違いない。

 しばらく考えをまとめていると、ロベランが静かな声で言った。


「わかりました。でも、もし後日何かあればおっしゃってください」

「ああ、そうするよ。……念のためだけど、今後、もし向こうから何か動きがあったら、俺に知らせてくれ」

「はい。畏まりました」


 ロベランが軽く頭を下げながら言った。

 仕事熱心なロベランだ。ここまで言っておけば俺がわざわざ気を使わなくても、ロベランが気にかけてくれるはずだ。

 後は何か動きが見えてから考えばいいだろう。ん。


 だから、俺はもういつも通りの日常に戻る!!


 

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