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黒騎士と姫とドレス2


40話の内容が少し変わりました。

そのまま読むとちょっと話が続かないと思いますので、前の話から読んでください。


 俺はその間に横から抜け出し、悲鳴を上げているメイドたちの方に視線を向けた。


「おぎゃあああああーーーー!!!!」


 悲鳴を上げるメイドたちの声の合間から、ベベの泣き声がはっきりと聞こえてきた。

 さっきまで元気だったベベは、突然現れて体を触る針子メイドたちの手に驚いて泣いてしまったようだった。


 てか、こんなことを考えている場合じゃなかった!!


「きゃああっ!! たすけて……!!」


 ベベの体からほのかに発せられる聖力に、アンデッドである針子メイドたちが浄化されていく。

 黄金色の光と共に、メイドたちの指先が金色の粉となって散り始めた。

 早くどうにかしないと、針子メイドたちがこのまま成仏してしまう。


「どいて!!」


 メイドたちの間を抜けた俺はベベに向けて手を伸ばした。

 ただ近づいただけなのに、すでに肌がやけどをしたようにヒリヒリする。ベベから発せられる聖なる力にダメージをうけているのだ。

 はっきり言って痛い。

 だが、今はそんなことを言っている場合ではなかった。

 俺はピリピリする腕を動かし、泣いているベベを抱きしめた。


「くっ! よ、よしよし、ベベちゃん! 驚いたんだね、でももう大丈夫だよ、俺が来たんだからもう泣かないで、ヨシヨシ〜〜」

「おぎゃあああーー!! うえええぇぇ!! うっ! ふえぇぇ……っ」


 痛みで小さく震える声で話をかけながらベベの背中を優しくなでると、背中を叩く慣れた手の感触にベベの呼吸が徐々に安定するのがわかった。

 俺はベベを抱きしめなおしながら、ベベの耳元で落ち着いた声でささやいた。


「うん。よしよし、もう泣やめようか、ベベちゃん」

「ぷえ…。うぅーー」


 ほどなくして、ベベが徐々に泣き止んだ。

 まだ涙が残っているベベの目元を拭いてあげると、ベベが少し顔を上げた。

 ベベの真っ赤に染まったピンク色の目と俺の目がぴったりと重なった。静かに見つめ合っていると、ベベがゆっくりと目を瞬いた。


 もう泣き止むのだろうか。

 でもまだ油断はできない。赤ちゃんは一度泣いたら泣き止んでもすぐまた泣きだすものだから。

 俺は静かに体を揺らしながら、ベベの背中を軽く撫でた。

 すると、ゆっくりとまばたいたベベがやがて眠りに落ちた。

 俺はそんなベベをそっとベビーカーに乗せ、ベベがまた泣き出さないかしばらく様子を見た後、防音効果が付いたシールドを張ってそっと後ろに下がった。

 大泣きしたベベも心配だったが、ベベの力に当てられた針子メイドたちも心配だったからだ。


「皆さん、大丈夫ですか?」


 小さい声で尋ねると、針子メイドたちがまだ緊張が抜けていない表情で首をかしげた。

 ベベの聖力は今まで俺が見てきた誰よりも強い。そんな聖力にあてられたのだから痛くないはずがない。 俺が奪命王の側近だから緊張しているのだろうか。

 はぁ。後でロベランに言って、みんなの手当てを頼もう。


 そんなことを考えていると、針子メイドたちを代表してエマさんが前に出て言った。


「……話は聞いていましたが、まさかこれほどとは。 ナイトさんは大丈夫ですか?」

「あ、はい。少し火傷をしたくらいです」

「少し……ですか」


 そう言って袖をちょっと上げて腕を見せると、メイドたちが微妙な表情をした。


 ええと。なんだろう。

 なんでみんなあんな顔をしてるんだろう。

 ああ、そういえばベベの力は普通の下級魔族が耐えられるものではなかったな。普通の下級魔族、それもアンデッド系の魔族がさっきの魔力に打たれたら、運が良くても半身不随を避けられない威力だったからな。

 それなりに上級魔族であるはずの針子メイドたちの手足が溶けたというのに、普通の下級魔族だと言っている俺が火傷で済むのはおかしいことだろうな。

 ここは少し言い訳をしておく必要がありそうだ。


「そんなに心配しなくても大丈夫です。ご主人様から頂いたこのアーティファクトがありますから」


 俺は聖石を取り出しながら、針子メイドたちに言った。

 すると、今度は針子メイドたちの顔が固まった。

 今回も他の針子メイドを代表して、エマさんが言った。


「ご主人様がそのアーティファクトを……?」

「はい。私がこの子の力に当てられて休んだりすると面倒だから、自分で何とか対応しろってことなんだと思います」


 これだけ行ったら言い訳にはなっただろう。


「そ、そうですか……」


 しかし、そんな俺の考えとは違い、エマさんと針子メイドたちはなんだか少しあいまいな笑みを顔に浮かべながら一歩後ろに下がった。

 さっきから何であんな反応なんだろう。分からん。


 俺はそんなことを考えながら、少し話を変えた。


「それより、この調子だと、今日のうちに採寸を終わらせるのは難しそうですね」

「ああ、そうですね……」


 大泣きした後寝むってしまったベベも問題と言えば問題だが、それ以上に針子メイドたちの調子が問題だった。


 代表であるエマさんは俺のサイズを測るためにベベと離れていたので無事だったが、他のメイドさんたちはそうではなかった。

 指先だけ少し溶けた人もいれば、手首まで消えてしまった人もいる。どう考えてもこのまま仕事を続けるのは無理だ。

 何より、ベベを見る針子メイドたちの視線があまりいい感じではない。


 ベビーカーに乗ってすやすやと寝ているベベにメイドたちが恐怖に満ちた視線を向けていた。

 このままサイズを測るのは、ベベにも、針子メイドたちにも良くないだろう。

 針子メイドたちの顔色を覗いたエマさんの考えも同じだったのか、首を縦に振った。


「そうですね、あなたたちはもう下りなさい。ここは私一人で担当します」

「……はい。かしこまりました」


 しおしおと首を下げた針子メイドたちは、互いに体を支え合いながら部屋から出て行った。

 すると部屋に残るのは、針子メイドの代表であるエマさんと俺、そしてベベだけになった。


「エマさんも一緒に休んだらどうですか? 驚いたでしょう」


 いつも一緒に働いているはずの他の針子メイドたちのあんな姿を見たのだ。エマさん自身に怪我がないとはいえ、ショックを受けてないはずがない。

 そんなことを考えながら提案すると、エマさんが強い意思が見える表情で首を横に振った。


「心配していただきありがとうございます。 ですが、私は私の仕事をさせていただきます」

「……そうですか」


 働き者だな、エマさんは。

 いつもやりたくないことから逃げるのに忙しい俺とは大違いだ。

 ていうか、ちょっと待って。エマさんが自分の仕事をするってことは……。


「ですので、さっさとサイズを測りましょう。ナイトさん」


 はは、そうなりますよねぇ。

 この大騒ぎにも関わらず、自分の仕事を忘れないなんて。エマさん、ほんとに働き者だなぁ。

 どうやら採寸が終わるまでは、エマさんの手から逃げるのは無理のようだ(泣)


 

 読んでいただきありがとうございます!

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