黒騎士と姫とオムツ
「はあ……」
ちょっと叫んだら少し落ち着いた。
魔王城が防音性が高くてよかったな。そうじゃなかったら、落ち着くのに1時間かかったかもしれない! ハハハッ!(泣)
「にしても静かだな」
もともと子供はもっと泣くんじゃないのか?
……静かすぎてむしろ不安だ。ちょっと見てみよう。
ベッドにそっと近づくと、ベッドの中央にいるお姫様がただ静かに指を吸っていた。
「ぴゅう?」
ああ、よかった。何か問題があったわけではなく、ただよく泣かないタイプの赤ちゃんだったようだ。
「……にしても可愛いな」
さっきはびっくりして、かわいいかどうか考える余裕もなかったんだが、今見れば姫はとても愛らしい姿をしていた。
「君、確か名前は……ベアトリーチェだったな。長いな。そのまま呼んだらきっと舌を噛む。よし、約してベベと呼ぼう」
そう言いながら頬を軽くツンツン押すと、小麦粉のような触感の頬が優しく指先を包み込んだ。
あ、柔らかいな。……ちょっと抱きしめてみようかな。
「……ああ、なんか癒される」
あたたかくて、柔らかくて、何か甘い香りがして。傷ついた心が癒される~~~~。
これなら赤ちゃんの世話をするのも悪くないかも。
肉まんのような白い頬を膨らませ、ウルウルとした瞳でこちらを見上げる姫は、まさに赤ちゃん天使……。
「プエッ……」
あ、いや、待てよ。
ウルウル?
マサカ、って思ったとき、
「オギャアアアアアアアーーーーーーーーーーーー!!」
ヒメサマガナキダシハジメタ。
そしてそれと同時に、
「うわっ!! 痛い!! 何、何だ、これ!! 聖力!?!」
姫と触れている所からピリピリとした痛みが走る。
魔族に直接打撃を与えることができる能力。
聖力だった。
「いや、なんでこんな赤ちゃんが聖力を使えるんだよ!?」
いや、違う。使っているんじゃない。溢れる聖力が高ぶる感情に沿って周囲に発散されているのだ。
この年齢でこんな聖力なんて!!?
一体この子の正体は何んなんだ!? ああ、聖国のお姫様だったな!!!!(泣)
「にしても、なんで泣くんだ!?」
もしかして俺の顔を見るのも嫌!? いや、さっきまで泣いてなかったじゃん! 俺の顔を見るのが嫌で泣いてるわけじゃない!! たぶん! 違う! うん!! もしかしてさっき俺が大声で叫んだから驚いたのかな!? いや、それも結構時間が経ってるし!! 今更でしょ!! アカチャンムズカシィィ……!!!!!!
俺はパニックながらもそう思った。
姫と触れたところが火傷でもしたかのようにヒリヒリしたが、この程度の怪我なら時間が経てば自然に治る程度なので問題ない。
それよりも泣いている姫をなだめるのが先だった。
赤ちゃんはいつも泣く言うけど、理由が無いとは思えないほど激しい泣き方だった。
きっと何か問題があるに違いない。
お腹が空いてるとか、姿勢が悪かったとか、おむつがぬれてるとか……。
「……おむつだけは勘弁してくれぇ」
俺はそうつぶやきながら、ベベを抱きしめ、オドオドと体を揺らした。
ベベの下の腕がほんのりあたかかった。
……おむつだった。くそーー。
「ど、どうしよう!!」
俺、おむつなんて変えたことないですけど! この歳まで独身だし!! どうしよう!? あ、そうだ!! メイド長!!!!
タン!! とドアを開けて出た俺は、まだ廊下で待機しているメイド長に向かって突進した。
「……メイド長!!」
「はい」
「……おむつの替えの方を教えてくれないか?」
一度だけ!! 一度だけでいいから!! 頼むよ!!!!!! 一生のお願いだから!!!!!(泣泣泣泣泣泣)
四天王としての体面があるのでできないが、心の中ではすでに土下座状態だ。マジだすけて。ホントヤバイカラ!!(泣)
幸い、メイド長は大まかな状況を察していたようで、土下座をしていないにもかかわらず、俺のお願いを聞いてくれた。
ちょっと深いため息をついたけど。本当にありがとうメイド長!! 後で美味しいものプレゼントする!!
***
「……こうして、布で纏めたら完成です。おわかりになりましたか?」
「ああ、わかった。ありがとう」
俺の頼みでおむつ替えを教えてくれることになったメイド長は、俺が理解しやすいようにベベのおむつをゆっくり交換してくれた。
ええと、おむつをはずして、濡れた布でお尻を拭く。後少し乾かして、それからおむつをあて紐で結ぶ、だな。
よし、次は俺もできそうだ。ありがとう、メイド長! やっぱり持つべきは頼もしいメイド長だね!! 頼りになる〜〜〜〜!!
「ぴゃーーッ♥ ぴゅーうーー♥」
おむつがすっきりとしたお姫様も満面の笑みを浮かべている。
とても気持ち良さそうだ。
さて、それじゃあ急ぎの用事も済んだし。ドアもちゃんと閉めて聞く人もいないし、大事な話を始めようか。
「質問なんだが、魔王様に言って、姫の世話役を他の者に任せるのは無理か?」
「無理でしょう」
「……やっぱりそうか」
やっぱりそうだよねええ!!
魔王様の命令だしさ! ちくしょう!!
魔王も何考えてるんだ!? 一度も子供を育てたことのない俺のような奴に、 こんな赤ん坊を任せるなんて!! 間違って何かあったらどうするんだ!! せめて子供を育てたことのある獣人王のカプカに任せてくれ!! どう考えてもその方がいいだろ!!!!?
……いや、ちょっと待ってよ。
そうだ! カプカに任せればいいんだ!! 子供も育てたことがあるし、俺と同じ四天王だし! 包容力のある性格だし! カプカが先に自分が姫の面倒を見るって言ったら、魔王様ももう一回考えてくれるに違いない! よし! カプカに押しつけよう!!
立ち上がった俺はメイド長に挨拶をした後、カプカの気配が感じられる方向に向かって、勢いよく歩き始めた。急がないとカプカが自分の領地に戻ってしまう!! よし! 急ごう!!
「奪命王様」
そんな俺の足を、メイド長の声が捕まえた。
本当に、こっちは忙しいと言うのに。
「何だ」
「姫は連れて行ってください」
「……ああ」
ちくしょう! このまま知らないふりをして出れば、カプカを連れてくるまでメイド長に任せておけると思ったのに。やっぱりダメか。やはり魔王城でもトップクラスの有能さで有名なメイド長。手強い!
「さあ、どうぞ。魔王様の命令だから、絶対に忘れないように」
「……ああ」
鉄壁の無表情で俺に警告したセイレンメイド長は、ベベと一緒に大きな袋を一つ俺に差し出した。さっきここでおむつを取り出したのを考えると、この中に姫が使うものが入っているのだろう。
くそ! もう少し早ければ逃げられたのに! 惜しい!!
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