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黒騎士と姫と綜技硏1

「おはようございます、ナイトさん」

「おはよう」


 ハンナと森にピクニックに行ってきた次の日。俺はベベと一緒に綜技硏に向かった。

 ABC兄妹がベビーカーが完成したと執事長ロベランを通して知らせてきたからだ。

 通りすがりの人に挨拶をしながら綜技硏の地下3階に向かって進むと、四角いメガネのビイさんが生き生きした顔で俺達を迎えてくれた。


「おはようございます、ナイトさん!」

「おはようございます、ビイさん」

「ぴゃあ♥ ぴゃあーー♥」


 習慣的にガラガラを振りながら挨拶すると、ベベも俺の声に合わせて挨拶をした。

 ベベのかわいい挨拶に、ビイさんが優しく微笑んだ。


「ベベちゃんもおはよう。今日も可愛いね」


 以前は研究室がレディンという災害で吹き飛ばされたショックで少々疲弊していたのか、今日はだいぶ対応に余裕がある。

 俺は彼女の追って研究室に入りながら尋ねた。


「そのあと研究室はどうなりましたか? 復旧は無事できましたか」

「はい! 綜技硏の修理部門はさすがですね! 私たちの研究室、爆発する前よりきれいになりました! ナイトさんも見てください!」


 ビイさんがそう言って、そっと門から体を退かした。

 すると、ビイさんの言葉通り、とても素敵になった研究室が目に入った。

 爆発の余波で黒焦げになっていた壁は真っ白に塗り替えられ、同じく壊れていた家具も新しいもので変えられていた。つい数日前、半壊したとは思えないきれいさだった。

 しかもその中には、以前レディンの研究室で見た、かなり高価な新式の魔道具もあった。

 詳しい値段は覚えてないが、おそらく基本で与えられる復旧支援金では買えない値段であることは間違いないだろう。

 一体いくら使ったんだろうか。


 そんな事を考えていると、ビイさんが改めて見て心は踊ると言うような顔で、研究室を眺めながら言った。


「ほんとに素敵でしょ!」

「そうですね。素敵ですね、とても素晴らしい研究室です」


 ここに入ったであろう修理費がいくらかかったのかがちょっと気になるけど。

 レディンの研究費を3パーセントもとってあげたんだから、その中で処理したんだろう。

 俺はそう自分を納得させながら、ビイさんの言葉に答えた。


「あっ! ナイトさん、おはようございます」

「ナイト君、やっほぉーー」


 ビイさんとの会話を聞いたのか、エイさんとシイさんが研究室の奥のドアを開け、俺に挨拶をした。


「おはようございます。エイさん、シイさん」

「ナイト君ーー、シイさんじゃないよ。 シイちゃんだよぉーー」

「ああ、そうでしたね、シイちゃん」


 呼び捨てにするのをうっかり忘れていた。

 せっかく手に入れた呼び捨てなのに。気をつけないと。

 俺は満足そうに笑うシイちゃんの顔を見ながらそう思った。


「そういえば、ベビーカーが完成したと聞きましたが、見せてもらっていいですか」

「ああ、はい! 今持ってきます!」


 そう言って奥の部屋に入ったビイさんがベビーカーを引いて出てきた。

 ハンドルは木製、フレームは白、ベベの体を寝かせるシートはかわいいウサギの柄が入ったピンク色の布でできていた。

 形は現代のものよりも、中世のベビーカーに近い。

 だが、これはこれでかわいいし、そのままおむつ替えもできそうでいいと思った。

 試しに軽く押してみると、引っかかることもなくスムーズに進んだ。どんな生地を使っているのかはわからないけど、シートを覆う布も手触りがいい。


「おお、とても良いですね」

「そ、そうですか」

「はい。ちょっとベベを乗せてみてもいいでしょうか」

「はい。どうそ!」


 ABC兄妹の許可を得た俺は、早速ベベをベビーカーに乗せてみた。

 ベビーカーのシートに乗せられたベベは、指を吸いながら首をかしげるだけだった。泣かないとことを見る限り、寝心地は合格のようだ。

 あとは動いてみるだけ。

 俺はそっとベビーカーを前に進ませた。

 すると、ベベを乗せる前と同じくベビーカーはスムーズに前に進んだ。


「すごく良いですね」

「……ふぅー」


 俺の褒め言葉に、ABC兄妹が安堵のため息を吐いた。


「ナイトさんに気に入っていただけてよかったです。 自信はありましたけど、それでもちょっと緊張しちゃいました」

「緊張してたんですか?」

「はい。だって、あれだけの研究費をもらったんです。 もし、ナイトさんのめに合わなかったらどうしようかと」


 そうか。研究費がプレッシャーになっていたのか。

 そんなに気にしなくてもいいのに。もともと研究というのは、完成品が出来るまで時間がかかるものなんだから。

 それに、胸を撫で下ろすにはまだ少し早い。


「あの、ちょっと修正してほしいところがあるんですけど。いいですか」

「あ、はい! 何でも言ってください」

「じゃあ、言葉に甘えて。頭のほうに日除けを付けていただけますか? この子を寝かせるとちょっとまぶしそうなので」

「ああ、確かにそうですね」

「できれば折りたたみ式にして、光の入る量も調節できるようにしてほしいです」

「はい。わかりました」


 俺はそのほかにもいくつか修正してほしいポイントを言った。

 すると、ABC兄妹もそれに合わせて改善方法を話し始めた。


「バックルはこれがいいと思います。最近エイ兄さんが開発したんですけど、丈夫な上で脱着が簡単なんです」

「あ、これは確かに良いですね。ベベが動いても簡単に外れなさそうです」

「日よけの素材はこれがいいよぉーー。ビイお姉ちゃんの収集品なんだけど、耐久性が良くて、雨も防いでくれるんだぁーー」

「雨もしっかり防いでくれるのは嬉しいですね。 ベビーカーに傘をかぶらせるのは大変ですから」

「もしもの時のことを考えると、前にシイが開発したシールドの魔道具を追加した方がいいと思うんですが、ナイトさんはどう思いますか」

「俺もいいと思います。できれば、虫や毒も通さないようにできますか」


 そんなことを話していると、あっという間に時間が過ぎてしまった。

 俺たちがそれに気づいたのは、お腹を空かしたベベが泣き始めた後だった。


 

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