黒騎士と姫とハンナと山菜取り4
「……い、イチゴ!?」
さすがファンタジー世界というか。 もう200年以上生きているけど、いまだにこういう光景は慣れないな。
本当に不思議だ。
ていうか、よかったぁ。茂み、死ぬんじゃなかったんだ。
本当に良かった。
ホッと胸をなで下ろしていると、茂みが自分の体についたイチゴを摘んでハンナに差し出した。
「えっ! くれるの?」
ハンナが尋ねると、茂みがバサバサと体を動かした。
かなりの量だが、どうやら本当に全部あげるらしい。
茂みの答えにハンナはスカートを大きく広げ、そこにイチゴを受け取った。
「あ、ありがとう」
ハンナがお礼を言うと、どことなく楽しそうにバサついた茂みがそのまま森の奥の方へ消えていった。
気配がどんどん遠ざかっていくのを見ると、ここから遠くのどこかにいくみたいだ。
「……嵐のような茂みだったね」
「そうですね」
ぼんやりと答えたハンナは、スカートの上に山盛りになっているイチゴを見て困ったように笑った。
「これはどうしたらいいでしょうか」
「そうだな。……食べればいいんじゃないか。毒もなさそうだし」
「えっ。いいんですか?」
「あぁ、いいよ。あれはタビイチゴっていって、氣のまま旅をする魔界の植物なんだ。よっぽど運に恵まれないと会えないから、幸運のイチゴとも呼ばれてるらしいけど。とにかくそのイチゴはすごく美味しいらしい」
先ほど実をつける姿を見て思い出したんだけど。
ああ、タビイチゴだとわかっていたなら、あんなイジリ方しなかっただろうのに。 そうしたら俺もイチゴを一つくらいは……いや、ムリか。
俺、アンデッドだし。嫌われてるし。
そんなことを考えていると、しばらく考え事をしていたハンナが俺の方に近づいてきた。
「はい、ナイトさん!半分こにしましょう」
「えっ! いいのか? ハンナがもらったものだろ」
「いいんです! うちで食べるには多すぎですから。 それに、さっきナイトさんに助けて貰いましたし」
助けて貰ったって……。ああ、くすぐられた時のことか。 気にしなくていいのに。元々そういう時のために俺がついてきたわけだし。
でもハンナの好意を無視するのもなぁ。
それに、何よりタビイチゴは一度も食べたことがないんだから気になるんだよね。
「ええと。じゃあ、三分の一くらい貰っていいか? 俺も一人暮らしだからさ」
「 はい。分かりました」
話を終えたハンナと俺は、タビイチゴを分け、それぞれの弁当箱にタビイチゴを入れた。
ていうか、起き上がる前は確か弁当箱にジャムサンドイッチが2個残っていたのに。 いつの間にかそれがなくなっていた。 おのれ、タビイチゴ!!!
タビイチゴと別れた後、もう少し山菜取りをした俺たちは夕方になる前にハンナの家に戻った。
「ハンナ、無事でよかった!!!」
ハンスが長い間離れていた家族にでも会うようにハンナに抱きついた。
態度だけ見ると、はるか彼方、魔界と人間界の間にある「夜の帳場」にでも行ってきたようだ。
俺は鬱陶しいくらいハンナにくっついているハンスをハンナから外しながら言った。
「一緒に行った俺に感謝の言葉はないのか」
「フン! ウチのハンナを誑かした奴に何も言うことはない! さっさと帰れ!」
「お前よく言うな。自分から頼んでおいて」
まあ、いいや。俺もハンナから色々もらったし、タビイチゴとか。
しかし、ハンス。お前のその対応は間違いだとだけ言っておこう。 ハンナが白い目をしてお前を見ているからな。
ここでちゃんと大人の対応をしてれば、ハンナの中でのハンスの評価も上がっただろうに。
まあ、自業自得というものだな。
「もう帰るよ。 それより整地の日にも来るからな」
整地の日とは、日本での土曜日のことだ。
「は? 何でだよ。うちでべべちゃんの世話をするのはその次の日だろ」
「ハンナが料理を教えてほしいらしくてさ」
ハンナと話した結果、サンドイッチの作り方を教えるのは整地の日になった。
代わりにその日、ハンナは俺の離乳食作りを手伝う約束だ。
「えっ、ハンナ? 別にこんな奴に習わなくてもいいんだよ? すでにハンナの料理は世界一美味しいんだから!」
「ううん、私が食べたいの。ナイトさんのサンドイッチすごく美味しかったから」
「だ、そうだ」
あと、こんな奴なんて、さすがに言い過ぎだろ。 こう見えても料理には自信があるんだからな。
「とにかくそういうことだから、整地の日にまた来るよ。 あ、あと、ハンナにはこれ用意してもらえるかな? サンドイッチに入るもののリストなんだ」
「はい! わかりました! 朝一で用意しておきます」
「ああ、お願い」
俺もその日は朝一で必要なものを買ってこよう。
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