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黒騎士と姫とハンナと山菜取り

 さて、そんなこんなで村の近くの森まで来たけど。

 俺は細い森の道を歩きながら、ハンナに尋ねた。


「それで、ハンナはどうして森に来ようと思ったんだ」


 ハンスが出した条件が魅力的すぎて、ハンナに聞くのを忘れていたが、少々気になる。

 今のままでもハンスの店を継げるから何もしなくていいのに。

 なぜ危険な森の中まで来ようとしたのかわからない。何か特別な理由でもあるのだろうか?


「ええと、そうですね……。その、お父さんに言わないでもらえますか?」

「ああ、もちろんだ」


 目を泳がせながら言うハンナの言葉に、俺はためらいなく言った。

 すると、考えをまとめるように、静かに森の道を歩いていたハンナが、しばらくしてぼそっと言った。


「ええと、これからのためなんです。私はお父さんと違って、外部魔力があまりないじゃないですか」

「……ああ、そうだな」

「だから、もしお父さんの店を継いだとしても、このままではちゅうとはんぱな感じになると思ったんです。

「それは……」


 違う、とは言えない。


 魔力には内部魔力と外部魔力がある。

 内部魔力というのは、文字通り人の内部に存在する魔力で、体内の力を強化するために使われる。


 外部魔力とは、人の外部に存在する魔力であり、魔力を使って現象を起こすために使われる。

 この内部魔力と外部魔力というのは、適性によって使える人と使えない人に分かれ、基本的に獣人は外部魔力を使えない人が多い。

 そして、獣人とのハーフであるハンナもそこに含まれるということだ。


 しかし、普通はそんなことは問題にならない。

 外部魔力がない人でも、普通に生活して生きていくには問題ないのだから。

 外部魔力がない人でも、魔道具は普通に使える。そして、才能のある人が修練を繰り返せば、体に触れたもの、つまり、鎧や剣などを強化するのはできるようになる。

 だから普通なら、そこまで気にすることではないということだ。


 問題は、ハンスの雑貨屋が、普通の店じゃないというところにある。


「ハンスの店は『あれ』だもんな」

「そうなんです。『あれ』ですからね」


 ハンスとハンナが住んでいるスターン村は、獣人王カプカ・タイガーの傘下の領地である。

 なので、スターン村の住民はほとんどが獣人だ。

 つまり、外部の魔力を持たない人が多いということになる。


 そしてそんなスターン村で、魔法を使えるハンスの店は少し変わった立場になっている。

 外部の魔力を持たない村人たちは、魔道具のようなものを修理するのが苦手だ。新しい魔道具を作る作業など不可能に近い。

 そんな中でハンスは雑貨屋を営みつつ、困った顔で訪ねてくる人々の魔道具を修理し、場合によっては新しい魔道具を作ることもしている。

 例えるなら、ハンスの店は雑貨屋というよりは「魔道具屋」や「何でも屋」に近い。ハンス本人は認めていないけど。

 とにかくそんな状況でハンスの後を継いで店の店主になるのが、外部魔力のないハンナなのだ。

 それはハンナが困るのも当然だ。


 しかし、そこで終わらないのが、ハンナの良いところだろう。


「だから思ったんです! 私も自分の長所を見つけよう、って」

「そうか、だから森に」

「はい!森に行くのはお父さんが許してくれなかったので、あまり行ったことがないですから!始めるならここからがいいと思ったんです!」

「いいアイディアだな」


 確かに慣れない環境でしか見つけられないものもあるのだから、ハンナの発想は悪くない。


 それにしてもちょっと泣けるな。ベベみたいに喃語しかできなかった子が、いつの間にかこんなに大きくなって! くすん!


「よし! 俺もがんばるぞ!まず何からやろうか!」

「えっと、まずは山菜採りからやりたいです! 食費節約のために!」

「おおっ」


 さすがハンナ、しっかりしてるなあ。ここで食費の節約まで考えるとは。 思わなかった。 感心感心。

 それにしても山菜取りか。 大人の俺のほうが経験豊富だろうし。ハンナが何か聞いてきたら一生懸命教えてあげよう。頑張ろう!


 と、思ったのがついさっき、だったが


「ハンナ、すごいな」

「えっ、そうですか」

「うん。すごいよ」


 まだ1時間も経っていないのに、ザルをいっぱいにするとは。

 ハンスの店の後継者でなければ、山菜取りを生業にすることを真剣に勧めたかもしれない。

 三歩に一度のペースで山菜を見つけるなんて。しかも薬草や珍しい果物なんかもたくさんとったし。 もうこれは才能としか言いようがない。

 それに比べて俺が今まで見つけたのは、ベベが今遊んでいる、市場でもよく見かけるリンゴのような果物、リンガ一個だけだった。


「ぴゃあっ♥」


 ベベは喜んでいるけど、それでも。


「……恥ずかしすぎる」



 何がハンナが聞いてきたら一生懸命教えてあげようだ、過去の俺!

 森に入ってから今まで俺が発見した山菜はひとつだけじゃないか! 過去の俺の、バカ!

 ハンナの横で一緒に採って、ザルはいっぱいになったけど! それが余計に恥ずかしい!! 子供に助けられるなんて!! 恥ずかしくて首のところがが熱くなっちゃう!

 くっ! 穴があったら入りたい!


 そうして自分の情けなさを嘆いていると、ハンナが俺の袖を軽く引っ張った。


「あの、ナイトさん」

「う、うん」


 俺は目を泳がせながらハンナに答えた。

 もしかして恥ずかしがってるのハンナにバレた? バレないように頑張ってたんだけど。


 そんなことを考えていると、ハンナが片手でお腹をさすりながら言った。


「そろそろお昼にしませんか? 私、お腹空きました」

「ああ、そうだな。そろそろご飯にするか」


 結構早い時間に会ったのだが、村から森まで来るのに時間がかかったので、少し山菜を探しただけで、もうお昼の時間になっていた。


「そういえば言ってなかったけど。ハンナ、弁当は持ってきたか? もし持ってこなかったら、俺のを分けてあげるけど」


 そう尋ねると、ハンナが得意気に言った。


「はい! 持ってきました! 早起きして作りました!」

「おお、そうか。えらいな、ハンナ」


 そういや、この世界ではこういう場合、お弁当は各自持参するのが基本だよな。

 念のため弁当を二つ持ってきたけど、必要なかったな。後で自分で食べよう。

 

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