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黒騎士と姫と離乳食作り2

 それよりも今大事なのは、ベベがこのオートミール粥を食べてくれるかどうか、だ。

 うろ覚えだけど、初めて離乳食を与えるのはとても難しいと前世で聞いた記憶がある。

 そしてその記憶の中には、初めて離乳食を始めるときは少しお腹が空いているときがいいと聞いた記憶もあり、俺は悪いけどベベがお腹が空くのを待っていた。


 時計を見ながらハラハラしていると、お腹を空かしたベベが泣き始めた。


「ぷへぇ、ぷぇええええええーー!!」

「泣くないで、ベベちゃん。ほら、ご飯だよ~」


 俺はベベ用に用意したティースプーンでオートミール粥をすくい、ベベの口元に移した。

 ぐずぐず泣いていたベベが、香ばしい香りにつられて首を動かした。


「よしよし、おいしいお粥だよ~」

「プイッ!」


 しかしベベは少し匂いを嗅いだだけで首を振り、また泣き出した。


 え、 なんで? なんで食べないんだ! 興味はちゃんとあったのに!?


 ベベの口の周りでスプーンを動かしてみたが、意味はなかった。

 ベベはオートミール粥には目もくれず、やがてバタバタと暴れはじめた。

 しばしベベともみ合った俺は、オートミール粥を片手に持ってガクッと頭を下げた。


「離乳食食べさせるの難しいぃ」


 とりあえず当分は牛乳だけ飲ませる事にするか? いや、でもそうして体調が悪くなったりしたら、魔王様に怒られるのは俺だ。それに、子供は些細なことで体を崩しやすいし。やはりできるかぎりのことはやらないと。


「あ、そういえば」


 確かマレさんが最初は離乳食にミルクを入れるといいと言ってたな。 よし、やってみるか。

 俺はマジックバッグからぬるめのオートミール粥を新たに取り出し、その上にミノタウロスの乳を少し混ぜた。


「さあ、ベベちゃん、美味しいご飯だよ〜」


 食べて。今度は食べてくれ。というか、食べてください!

 そんな俺の思いが通じたのだろうか。

 クンクンとオートミール粥の匂いを嗅いだベベが、スプーンに向かって軽く口をあけ、はーむ! とオートミール粥を少し口に入れた。


 モグモグ。ゴクン!


「ひ、ぴゃう……♥」

「ヤ、ヤッタ……!!」


 食べてくれた!マレさん!ローナさん!ありがとうございます!おかげでうちの子が離乳食を食べてくれました!

 俺は感動に震えながら、ベベに少しずつオートミール粥を食べさせた。牛乳を混ぜたのがいいきっかけになったのか、ベベはちゃんとオートミール粥を食べてくれた。

 でもそれも数スプーンくらい。用意したオートミール粥が半分も減る前にベベが食べるのをやめた。

そして。


「ぷ、ぷぇええええーーー!!」


 ……また泣き出した。


「な、なんで泣くんだ!? さっきまで美味しそうに食べてたのに!!」

「ぷええええええええーー!!」


 慌てて聞いても、やはりベベから答えは返ってこない。

 何度かオートミール粥を食べさせようと試みた俺だが、結局諦めてミノタウロスの乳を取り出すまでにはそう時間がかからなかった。


「はあ、なんで急に泣き出したんだろう」


 赤ちゃん、マジ難しい


「ゴクゴク」


 俺は楽しそうにミノタウロスの乳を飲むベベを見ながら、深くため息をついた。


「はぁ、離乳食を食べさせないわけにもいかないし、明日でもマレさんに聞きに行くか」


 食べたがらないものを無理やり食べさせるわけにもいかないし。

 とりあえず今日の離乳食チャレンジはこれで終わりだな。ヤレヤレ。






 翌日。

 マレさんに尋ねると、マレさんが笑った。


「あははっ! そりゃあ、食べるのが大変だからだよ!」

「えっ! 食べるのが大変ですか」


 オートミール粥を超え、オートミールスープレベルにしてあげたのに、それ以上に薄めろってこと?


「あはは!いくら頑張ってもオートミール粥は牛乳より水っぽくないからね。 しょうがないよ」

「それは! そうですけど、……難しいものですね」

「そうだね。難しい。でも子育てていうのは元々そうゆうものだよ」


 全く、 恐れ入ります。

 これなら一日中運動場を走った方ががいいな。あれはそれでも終わりというものがあるからなぁ。


 俺はお礼を兼ねてマレさんの店で野菜を少し買った後、ハンスの店に向かった。

 この世界の一週は、なぜか七日に一週という現代日本と同じものになっている。言い方は少し違うけど。


 その中で木曜日は新芽の日ということで、子供たちはこの日に休んだり、勉強をしたりする。まだ成長期の子供たちに週五で働けというのは、あんまりにも過酷なことだからだ。

 なぜ今この話をするかというと、俺がハンナと一緒に森まで行くことにした日が今日、新芽の日だからだ。


「あっ! ナイトさん、おはようございます!」


 店のドアを開けて入ると、ハンナが明るい笑顔で俺を迎えた。


「おはよう、ハンナ。ハンスから話は聞いてる?

「はい! お父さんから聞きました! 嬉しいです! ナイトさんと一緒に森に行けるなんて」

「俺も嬉しいよ」


 言ったことはないけれど、幼い頃から見てきたハンナを姪っ子のように思っているので、一緒に出かけるのは俺にとっても嬉しいことだ。

 それに、これをする代わりに一日ベベを見てくれるってことだからなおさら嬉しい。

 ハンスがハンナの後ろで悔しそうに歯を食いしばっているのは嬉しくないけど。


「ナイト。お前、絶対にハンナにケガさせるなよ」

「わかってる、少しは信じろよ」


 俺を何だと思ってるんだ? 人を殺せなくなる前は世界でも数えられるほどの強者だったんだぞ。俺は!

 あとハンスお前、それだからハンナが娘離れさせるとか言うんだよ。まったく!


「じゃあ。行こうか、ハンナ」

「はい! ナイトさん! お父さんも店、ちゃんと見てってね!」


 そうしてハンナと一緒に店を出ると、後ろからハンスが「ハンナァァァァーー!!」と泣き叫ぶ声が聞こえた。

 その声を聞いたハンナは、はあ、とため息をついた。

 ハンナの言葉通り、ハンスの奴は本当に娘離れが必要なのかもしれない。


 

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