黒騎士と姫とギャルル・タイガー3
「何、何だ!?」
「おぎゃああああーーーー!!!!」
耳をピンと立てたギャルルが悲鳴が聞こえてきた方向に顔を向け、ご機嫌だったベベはまた泣き出した。
いつもならベベの泣きをなだめるのが先だが、今そんな余裕はない。
俺は悲鳴が聞こえた瞬間、ベベにシールドをかけ、建物の外に飛び出した。
すると、速い足でどこかに走っていくノールさんが目に入った。 次に目に入ったのは、この前会ったノールさんの息子であるデールがミノタウロスに追われている姿だった。
しかも追われているのはデールだけではなく。他の農場の職員達もミノタウロスに追われ、デールを助けることができない状態だった。
「デ、デール……!!」
息子のデールの危険に、ノールさんは無我夢中でデールに向かって走っていた。
このままでは二人とも危ない!
しかし、魔道具を使うにはデールとミノタウロスの距離が近すぎた。
少なくとももう少し距離をあけないと使えない。前にノールさんが買ったOMH222号は、すれ違うだけでくっつくから。 下手するとデールまで魔道具に巻き込まれて怪我をする可能性が高い。
それを知っているからこそ、ノールさんも前に俺から買った魔道具OMH222号を使わずに、ただただ走っているのだろう。
「くっ」
仕方ない。
力を使いたくはないが、人命救助が先だ。
俺は二人のいる方向に走りながら、そっと影に魔力を送り込んだ。
すると、影が俺を中心に音もなく伸び始めた。
伸びた影は、誰にも気づかれずにミノタウロスの足を縛った。
『シャドウ・トラップ』
「ムオオオォォォォ……!!!!」
俺の影に捕まったミノタウロスは必死に抵抗したが、一度捕まった以上逃げる術はない。しかし、このままミノタウロスを陰で捕まっていると、ここの人々に疑われる可能性が高すぎる。
俺は俺の陰に足止めされたミノタウロスがデールから離れた隙に、魔道具OMH229号を放った。
ドカン!とミノタウロスの体に当たったOMH229号は大きく広がり、ミノタウロスの体を覆った。
この前使ったOMH222号はメOモンに似たものが出てくるやつだったが、今回はネット型の魔道具だった。ちなみにべたべたくっつくのは一緒。おかげでミノタウロスはどんどん体に巻きつく粘着性のあるネットによってあっという間に横に倒れた。
「ム、ムオ、ムオオォォォォ……!!」
OMH229号の中でミノタウロスが暴れた。
たが、今はそんなことを気にする暇はない。
今捕まっているミノタウロスは一匹だけ。
暴れているミノタウロスがまだ五匹はいた。
全て捕らえる前には安心はできない。
しかし、他の人に疑われずに迅速にこの状況を片付けるのは無理があった。
どうしたらいいんだ。
そんなことを考えていると、後ろからギャルルの声が聞こえてきた。
「何、何だ! これは!?」
ちょうどいい。手伝ってもらおう。
「君、ちょっと手伝ってくれないか」
「な、なんだよ、僕は何をすればいい」
「これをあそこで暴れているミノタウロスに当ててくれ。できるか」
「ああ、もちろんできる」
俺の話を聞いたギャルルはそう答えた後、俺の手からOMH229号を受け取って走っていった。
それを見送った俺はベベをなだめながら、ギャルルが向かった反対方向に向かって走った。
二人でミノタウロスを捕まえると、思ったより早く事が片付いた。
OMH229号に絡まった状態でもがくミノタウロスを畜舎に引きずり込む農場の職員を見送りながら、俺はガラガラを振ってベベをなだめた。
ガラガラガラガラー
「はい、ベベちゃん!うるさい牛さんたちは全部倒したよぉ」
「ふ、ふぇ……」
ガラガラを振りながらべべをなだめると、ガラガラの音に夢中になったベベの泣き声が少しずつ小さくなった。
「う、うぅー」
ようやくベベが泣き止むと、近くで見ていたノールさんが近づき、深く頭を下げた。
「ありがとう、ナイトさん! おかげでうちのデールが無事だったわ」
「いえいえ、当然のことをしただけですから」
これからもベベの牛乳をもらわなければならない取引先だし。 助けるのは当然のことだ。ハンナも友達のデールに何かあったら悲しむだろうし。
「いや、そんな事ないわ。前回も迷惑になったのに。 今回はうちの子まで助けてもらったし。 今度こそ何か欲しいものないの?」
「んー。あまりないですね」
ノールさんの言葉に少し考えてみたが、どう考えても欲しいものはなかった。
だって一番必要としていた牛乳をタダで貰っているわけだし。 前に貰ったチーズもまだたくさん残っている。
だと言ってお金を貰うにも、お金も四天王としての給料だけで十分だった。むしろ貰いすぎて、研究所とかに投資しているくらいだから。
「はあ、欲がないのも困ったものね」
「はは、そうですか」
「そうよ」
でも、本当に欲しいものがないからな。
あ。
「あ、じゃあ、今日使った魔道具、今日使ったのを含めて、ノールさんが買ってくれませんか? ちなみに値段は前回と同じ、一個につき銀貨三枚です」
「えっ。それがお礼になるの? いや、おかしいでしょ。 むしろ私が売ってもらいたいくらいだもの」
「恩返しになりますよ。私はこれが仕事ですから」
嘘である。俺の仕事は領主として領地を治めることであって、別に魔道具の販売が俺の仕事じゃない。
まあ、研究所の収益が出れば俺も助かるから結果オーライということだが。
しかしノールさんは何か勘違いしているのか、感動したような表情をしていた。
別にノールさんのために言ったわけじゃないんだけど。 ハンナがたまに遊びに来るみたいだから、このミノタウロス農場の安全が確保されればいいなとは少し思ったけど。
ノールさんが顔と同じように感動した声で言った。
「わかったわ。今回はナイトさんの好意に甘えるわ。とりあえず今日の分を除いて、これくらいもらえるかしら」
遅くなりもし訳ありません!!
明日はちゃんといつもの時間にきます!
皆さん今日もいい一日を過ごしてください!




