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黒騎士と姫とギャルル・タイガー2

 ……ノールさん、早く帰ってきてください。お願いします。


 そんなことを考えているとき、


「ねえ、あんた。一つ聞きたいことがあるんだけど」

「……は、はい?」


 いきなり何だ。何が聞きたいんだ。いや、聞きたくないから言わないでくれ。

 俺は背中から冷や汗をかきながらそう祈った。


 今すぐにでもここから飛び出したい。

 そんなことを考えたとき、


「おぎゃああああーーーー!!」


 目が覚めたベベが泣き始めた。


「ア、アレェ。ナンデ、ナクノカナァ。ヨシヨシ」


 ナイスタイミング……!!


 子供が泣いているのにこんなことを考えるのは不誠実だが、そうしか言えなかった。

 何か聞こうとしたギャルルも、俺がベベをなだめていると口を閉ざした。

 ノールさんが帰ってくるまで、ベベはこのまま泣いていてほしいな、と思うくらいだった。良い大人がこんなことを考えてはいけないと思うけど。

 それだけ今のこの状況を避けたいということた。


「ヨシヨシ。良い子、良い子。泣かないで?」


 俺はベベをなだめながらおむつを確認した。

 よし。おむつは濡れてないな。ご飯も食べさせたばかりだし、これってただの寝起きで泣いてるんだな。

 これはこのままなだめるしかない。

 俺がぎこちなくベベをなだめていると、ギャルルも疲れたのか、はあ、とため息をついた。

 よし、これで行こう。

 心の中でそう心を決めたとき、キィと椅子から立ち上がったギャルルが俺たちの方に向かってきた。

 な、なんだろう。


「だせ」

「ん? 何を……?」

「その子を出せて言ってるんだよ」

「えぇっ」


 いきなり何だ。

 俺からベベを取ってどうするつもりなんだ。

 まさか、もう俺の正体に気づいたとか?  だからベベを交渉の材料にしようとしてるとか!?


 そんなことを考えていると、ギャルルが大きくため息をついて言った。


「あんた、子供をなだめるのがヘタなんだよ。 僕がやるから、その子を渡せ」

「は、はぁ」


 子供をなだめるのがヘタって。返す言葉がないな。

 ベベを預かってまだ一ヶ月も経ってないから、確かに慣れてないけど。

 迷いながらギャルルにベベを差し出すと、ベベを抱きしめたギャルルがとても慣れた動きでベベをなだめ始めた。

 そして間もなく。


「ぴゃ、ぴゃあ♥ ぴゃあ♥」


 大泣きしていたベベがパアッと笑いながらギャルルに縋り付いた。

 なんだ、こりゃ。


「スゴイな」


 俺もぜひ見習いたい。

 何なら弟子入りしたいくらいだ。

 まあ、同じ四天王のカプカの娘に弟子入りするなんて、さすがに無理だろうけど。

 でも一つだけ聞きたい。


「何かコツでもあるのか?」

「ん? 別に、普通にやればできるだろ」

「……」


 その普通のやり方を知りたいんだけど。

 そんな思いを込めてじっとギャルルを見つめてみたが、ギャルルは首をかしげるだけでそれ以上何も言わなかった。

 もう少し説明してほしいんだけど。


 ああ、そうか。この子は感覚派か。 そういうのが一番わかりにくいんだよなぁ。

 仕方ない。自分で身につけるしかないな。


 そんなことを考えながらベベの顔をハンカチで拭いていると、ノールさんがミノタウロスのミルクが入ったミルク缶を持って応接室に戻ってきた。

 ノールさんが応接室を出てから約30分が過ぎた頃だった。


「ゴメンねぇ。ちょっと手間取っちゃって」


 ノールさんがそう言いながら、持ってきたミルク缶をドンと床に下ろした。

 俺はそんな彼女に近づきながら言った。


「はは! そうですか。今日もミノタウロス達がヤンチャでもしましたか」


 ミノタウロスがヤンチャでもしない限り、こんなに遅れるのはおかしいのではないかという皮肉を含んだ質問だった。

 そんな俺の問いに、ノールさんはむしろにっこり笑いながら答えた。


「あら、よくわかるじゃない。そうなの。ウチのミノちゃん達、みんだすごくげんきで」


 オホホホー。


 大げさに笑うノールさんの肌がツヤツヤだった。

 短い休息が甘い蜜のようだったのだろう。


 仕方ないな。

 誰だって自分の領地の領主の家族は怖いものだ。

 幸いベベがちょうどいいタイミングで泣いてくれたおかげで何も起こらなかったし。

 ここは心の広い俺が見逃してやろう。


「では、私はそろそろ帰ります。 牛乳ありがとうございます。ノールさん」

「あら、帰りが早すぎるわ。もっと居てくれてもいいのに」

「ははは! ご冗談を」


 ノールさんがミルク缶を後ろに隠しながら言った。

 事情はわかるけど、そうはいきませんよ、ノールさん。こっちもかなり困ってるんですから、早くミルク缶出してください。


 俺を少しでも長く応接室に留めておきたいノールさんと舌戦を繰り広げていると、後ろから声が聞こえてきた。


「⋯⋯ちょっと待って。僕、あんたに話があるんだけど」

「すみませんが、私はそろそろ帰らないといけないので。また今度……」



 俺はそう言いながら、そそくさとノールさんの後ろにあるミルク缶に手を伸ばした。

 しかし俺がミルク缶を手に入れるよりも早く、ノールさんが叫んだ。


「ああっ! イケナイ!! ナイトくんにあげようと思ってたベーコン置いてきちゃった! そんなんだから、ナイトくん! もう少し待っててね!!」


 自分の言いたいことだけを言ったノールさんが、すばやい動きで応接室を出て行った。

 ミルクボトルまで一緒に持って。

 獣人特有の生存本能なのか、ものすごいスピードだった。


「……」


 ていうか、俺が逃げようとするのを知って先に逃げたんだな、ノールさん!!

 しかも俺がこの子から逃げられないようにミルク缶まで持って! 

 くそ! なんて酷い人だ!!


 でも、ノールさんがミルク缶を持って行った以上、俺はここから逃げられない。

 このまま戻ったらベベに与える牛乳がなくなっちゃうから。ちくしょう!


 冷や汗をかいていると、背後からギャルルの視線が刺さった。


「……さっきの話だけど、あんた僕と前会ってない」

「会った事なんてないですよ。今日会うのが初めてですよ」


 ギャルルの質問に、俺はそっと目を逸らしながら言った。

 やっぱり何か気づいたのか!? くそ! 何とかしてここから逃げないと!!

 焦りながら目を転がしてる時、


「きゃああああーーーー!!」


 外からノールさんの悲鳴が聞こえてきた。


 今日は用事ができたので早めに投稿します。

 明日からはまた1時にあげる予定です。

 今日も良い一日をすごし、また明日お会いしましょう!


***



 

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