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黒騎士と騒がしい森5

 それから数日後、俺はハンスのいるスターン村に向かった。

 ベベのミルクを補充し、いくつか必要なものを買うためだった。

 ついでにハンスに前回譲ってもらった聖石をよく使っているという報告をするため、ハンスの雑貨屋に立ち寄ったのだがーー。


「おまえ、やらかしたな?」


 頭を斜めにしたハンスがふきげんそうに聞いてきた。


「何を言ってるんだ?」

「ぴゃー?」


 何もやらかした覚えはないが。

 ベベと一緒に首をかしげながらそう聞くと、ハンスが眉間にしわを寄せながら聞いてきた。


「2日前、タイガー領地。何か見覚えないか」

「……」

「やっぱりあったな!そうだと思った!」


 いや、なんでお前が知ってんだよ、2日前のことだぞ。

 そんな俺の疑問が表情に出ていたのか、ハンスが深いため息をついてから説明した。


「噂になってんだよ。ここの領主様の娘が、正体不明の誰かに助けられたって」

「……領主の娘?」

「ああ、ギャルル・タイガー。カフカ・タイガー様の子で、このタイガー領のご令嬢だ。て、気付いてなかったのかよ!」


 そりゃ、見たことないし。

 でも今思い返せば汚れていたものの、その独特の模様とか、四天王の一人であるカプカにかなり似ていたんだな……。今思えば気づかなかったのが不思議なくらいだ。

 俺は遠くを見ながらそう思った。


「おまえ、いったいどうするつもりなんだよ。正体、バレたくないんじゃなかったのか。なのにこんな指名手配書まで出回されるとかさ」


 ハンスがカウンターの奥から羊皮紙を取り出し、俺の前に広げながら言った。

 羊皮紙には「タイガー領主の娘、ギャルル タイガーの恩人。丁寧に連れてくるように。目撃情報提供の際は謝礼を支払う。」と書かれたメモとともに、半仮面をかぶった俺の姿が画かれていた。


 そう。半仮面をかぶった姿が!

 これなら大丈夫!


「へ、へくち!」

「……べ、別に顔バレしたわけじゃないし、大丈夫じゃない、かな?」


 俺はベベが咳をした時、ベベの顔と俺の顔に飛び散った唾をハンカチで拭きながら、ぼそぼそと言った。

 手配書の情報でわかるのは、髪型と目の色くらいだし。これなら問題は……。


「ないわけあるか! この魔界にお前みたいに真っ黒な髪の人が何人いると思ってる!」

「ムッ」


 そういえばあまり見たことないような気がする。藍色に近い黒や紫に近い黒は見たことあるけど。

 ……もしかしてこれけっこうヤバイ?


「でもおかしいな、ちゃんと認識阻害効果が付与された仮面つけて行ったのに……」


 俺はそう言ってマジックバッグから仮面を取り出した。


「……ヤベェ。ヒビが入ってる」


 仮面が気になったのか、手を伸ばしてくるベベから仮面を遠ざけながら、俺は仮面を確認した。


 いつ割れたんだろう。気づかなかった。だから目や 髪の色がわかったのか。

 前にギャルルを救った時、俺が被っていたこの仮面は、認識阻害効果が付与された非常に優れた物で、被っていると目や髪の色はもちろん、体格、声もわからなくなるという優れた物だった。

 そう、優れたものだったのだ。

 しかし、仮面にヒビが入った今は違う。体格や声は変調されるようだが、最も重要な目と髪の色を隠す機能が壊れている。


「もうこの仮面は使えないなぁ。新しく作ってもらわないと」

「はあ。お前、本当に気をつけろよ……」

「わかった、わかった。気をつければいいだろ、幸いカプカの屋敷は隣の町にあるわけだし。あの町にだけ行かないとバレることはないだろう」

「まあ、それならいいけど」


 よし、小言はここまでだ。

 早く話題を変えよう。


「それより聖石よく使ったよ。ベベのこともそうだけど、これがなかったらあのギャルルって子はちょっと危なかったかもしれない」

「ん? そういえば、何があったんだ。あの獣人族の首領の娘の恩人なんて」

「ああ、それが森でバジリスクに追われてるのを見つけたからさ」

「ああ、そうか。……なんか耳がおかしいな。今、お前の口からバジリスクっていう幻聴が聞こえたようだが」

「バジリスクは聞き間違いじゃないぞ」


 耳をかじりながら現実から目を背けるハンスに向かって俺は現実を押し付けた。


「……お前なぁ!! だからあんなに必死に探してるんだろが!!」

「えっ」

「バジリスクを殺せる者が、この国にどれだけいると思う!? そんな大化け物を一人で処理すれば、そりゃ見つけるわ! 領主の娘の恩人じゃなくても、見つけるわ!!」

「……大化け物って大げさだな。バジリスクは倒すのが面倒なだけで、倒せないわけじゃないだろ。うちの使用人も時間はかかるけど倒せるし」

「おまえのとこの使用人はほとんどアンデッドだろ! バジリスクの毒があまり効かないヤツ!! 普通は軍が動くものだからな!?」


 ……そうだったのか。みんな涼しい顔で倒してたから知らなかった。

 他の領地の者と一緒に戦うこともあまりなかったし。


「……なぁ、ハンス。もしかしてこれって結構ヤバイのか?」

「今気づいたのかよ!」


 いや、さっきから危険だとは思ってはいたけど。それはただ、バレたらちょっと面倒だなという程度だった。

 でもハンスの話を聞いてみると、今の状況はそんなもんじゃなかった。

 俺はちょっと腕の立つ人ぐらいで振る舞っていたつもりだったが、ハンスの話によると、バジリスクは軍が動く案件だてことじゃないか。

 なのに俺はそれを一人で瞬殺し、移動、領主の部下を見つけた上で逃げたということになる。

 下手をすると腕の立つ指名手配者が領主の部下を見て逃げたと誤解される余地があった。


 幸い、手配書の内容を見る限り、そこまで誤解されていないようだが。そうだとしても問題はある。獣人は強さこそPOWERの種族。

 強者を見つけたらまず戦いを挑み、自分より強いと判断された場合、相手を祭ろうとする。

 ここまでならまだマシだが、問題はその間に修行をして、後でその強者を倒そうとするところだろうか。

 とにかく獣人に関わるとややこしくなる。

 ナイトとしているときは目立たない下級魔族でいたい自分にとっては、どちらにしても最悪の結果だ。


「よし、絶対何があってもタイガー領には行かない!」



 

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