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黒騎士と姫と総合技術研究所5


「はあ。緊張しました」


 会議を終えて帰る途中、ビイさんが肩を落としてため息をついた。

 俺はガラガラを揺らす代わりに、泣き止んだ後、すぐ眠りついたベベをなでながら問いかけた。


「そんなに緊張してたんですか? その割に発表はうまくできていたと思いますが」

「そりゃあ緊張しますよ! だって、0級研究員3人と直接対面なんて、なかなかないですもの! 特にメルリンさん! 憧れます!!」


 綜技硏の研究員は最も高い0級から最も低い9級まで等級が分かれている。

 ここで最高ランクの0級研究員に属するのはレディン、メルリン、ローデンの3人だけ。下のランクに行くほど人数が増えていくことを考えると、真ん中の5級であるビイさんとしては、どんなことがあっても会うことがないのが0級研究員なのだ。


 だとしても、さっきのあの姿を見て、まだ憧れのまなざしを持てるってすごいと思うけど。


「あっ! ビイ! おかえりなさい。うまくいったか?」

「ビイお姉ちゃん、いったのーーーー?」


 会議室の近くに着くと、掃除をしていたエイさんとシイさんがビイさんを出迎えてきた。

 というか、シイさん、そう言うと変な意味に聞こえるから。


「うん! うまくいったよ。ナイトさんのおかげで!」


 ああっ。これはビイさん、シイさんのシモネタに気づいていないな。そんなふうに言うとどう考えてもいかがわしく聞こえるって言うのに。

 ほら、シイさんがもうすでに陰湿な笑みを浮かべていますよ。


「ビイお姉ちゃん、よかったねぇーーーー。ナイトさん、今後は身内としてよろしくお願いしますぅーーーー」

「ああっ、ああっ! シイ! またそんなこと言って! ナイトさん、ごめんなさい! シイはいたずら好きですから……!!!」


 ようやくからかわれたことに気づいたビイさんが顔を桃色にして頭を下げた。


「ははは。いいですよ。ビイさんみたいな美人さんと絡めるなんて、僕も光栄です」

「え! えっ!美、美人なんて……!!」。


 あっ。ビイさんの顔が真っ赤になった。

 ええと、雰囲気を和ませるための冗談だったんだが。どうやら本気で受け取られたようだ。

 すぐに冗談だと言おうと思ったけど、私よりシイさんの方が早かった。


「ほらぁ、お姉ちゃん。ナイトさんもそんなこと言うんだしぃーーーー、一肌脱いだらぁーーーー?」


 ニヤニヤしながらビイさんの研究服にそっと手を置いたシイさんがビイさんのシャツのボタンに手をかけた。


「ええっ!ちょっと!シイやめて!!」

「うへへ。いいからいいからーーーー」

「や、やめ……!!」

「うへへへへへへへへーーーー」


 ええと、ビイさんを助けた方がいいかな、そろそろ見えてはいけないところが見えそうだし。エイさんは慌ててアワアワしてるだけだし。


「あの、シイさん。そろそろやめたほうがーー」

「もう!! やめろって言ってるでしょ……!!」


 シイさんにされるがままにされていたビイさんが、大きな音と共にシイさんの頭を叩いた。

 ドン!の音とともに頭を抱えたシイさんが倒れた。

 あれが姉の力か。シイさんがいちころである。


「くうう。さすがビイ姉さん。手ごわい。こうなったら私が色仕掛けをーーーー」

「したら予算減らしますからね」


 すでにシイさんがビイさんを弄るのを見た後だ。シイさんがいくら美少女とはいえ、こんな真昼間で同じ目に遭うのは勘弁してほしい。


「くっ。予算がかかってるなら仕方ない。諦める。だから諦める代わりに、私のことはシイさんじゃなくてシイちゃんって呼んで」

「なんでそれが代わりになるのかはわかりませんが、それくらいはいいです。シイちゃん」

「うん。あと私はナイト君って呼ぶ。いい?」

「はい。いいですよ」


 この研究所にはすでに殿と呼ぶ人も、ちゃん付けで呼ぶ人も、呼捨てで呼ぶ人もいるわけだから。もう一人増えても痛くもかゆくもない。むしろ嬉しいくらいだ。奪命王なら名前を呼ぶどころか、目を合わせただけで気絶する人がいるくらいだから。普通に嬉しい。うん。


「あの、ナイト……さん」

「はい?」

「あっ、ああ、何でもないです!」


 何か言いたいことがあるかのように俺の名前を呼んだビイさんが、戸惑いながら首を横に振った。何だろう。

 まあ、言いたいことがあれば後にでも言うだろうし、それよりも。


「そういえば、お願いしたベビーカーはどれくらいかかりそうですか?」

「あ、それなら2週くらいでできると思います! 本来なら1週でできることなんですけど。研究室があんな状態なので……」

「そうですか、じゃあ2週後に来ます。あ、あと研究室は担当部署を呼べばすぐに復旧してくれますよ」


 だから、彼らが直接研究室を片付ける必要はない。何かするとすれば、爆発の瓦礫の中に残っているかもしれない研究資料を取り出す程度かな。


「あっ! そういえばそういうのがありましたね! 一度も頼んだことがなかったので忘れていました」

「そうだったんですか。ちなみにこのくらいなら2~3日ほどで復旧できますから、その間はさっきの会議室でも使えばいいと思います。今の研究なら危険なこともないと思うし、私の権限で許可しておきますから」

「ありがとうございます!! ナイトさま!」

「本当にありがとうございます。ナイトさん!」

「ありがとう、ナイト君。やっぱりエッチなのやるーーーー? あっ! いたたたた!!」


 三人兄弟が頭を下げ、礼を言った。

 最後に出てきたシイちゃんのシモネタには、ビイさんが慣れた動作で制裁を加えた。俺はその慣れた姿に、寝言を言うベベをなでなでしながらそっと笑った。



 

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