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黒騎士と姫と総合技術研究所4

 時間をかけてようやくベベを落ち着かせた俺は、まず集まった面々にビイさんを紹介した。


「さあ、子供も落ち着きましたし。そろそろ会議を始めましょうか! あ、会議に入る前に人を一人紹介します。事情があって特別に今日の会議に参加することになったビイさんです」


 拍手で歓迎してください。


「あ、あの、はじめまして! ビイです! よろしくお願いします!!」


 ビイさんがオドオドしながら挨拶をした。すると会議室に集まった人たちは挨拶もせず、なんとなく意味深な目でビイさんを観察した。

 ビイさんがびくつきながら俺の袖を引っ張った。


「あ、あの。私、何かしましたか?」

「え? いや、別に何もしてないと思うけど。みんなどうしたんですか」


 そう問いかけると、会議室に集まった者たちが首を縦に振った。


「ああ、もちろんだ。何かやったと言えば、それはナイト殿だろう」

「毎回とんでもないものを持ってくるからね、ナイト君は。人でも物でも。で、今回は何なのかしら」


 とんでもないて酷い言われだ。

 俺は普通にいいものしか持ってこなかったんだが。人も、物も。


「ビイさん。説明をお願いしてもいいですか?」

「あ、はい! え、えっとですね……!」


 先ほどまで怖がっていたビイさんだったが、説明を始めてしばらくするとそんな様子はなくなっていた。

 ただ淡々と自分たちの研究内容を説明したビイさんは、説明を終えた後、頭を下げて挨拶をした。


「……以上です。こ、ここまで聞いてくださってありがとうございます!」


 説明を終えたビイさんは、その時になって恥ずかしくなったのか顔を赤らめ、そっと俺の後ろに隠れた。

 会議室に集まった3人の研究者はそんなことは気にせず、新しい玩具でも見つけた子供のように楽しそうな顔で話し始めた。


「これはいい。これが開発されれば、いつも乗っているガタガタする馬車ももっと楽に乗れそうだし。何よりも戦争で患者を運ぶ時に良さそうだ。できるだけ揺れないように運ぶのが大事だからな」

「そうね、それに魔力がかからないのもいいわ。いつでもコスト問題は大事だからね。もしかして試作品とかあるかしら」

「あ、ありません……!! 申し訳ございません!申し訳ございません!」

「ぴゃ♥ ぴゃあ♥」


 ベベが謝るビイさんの頭に手を置いてポンポンと叩いた。

 慰めるつもりなんだろうか。

 趣旨はいいけど、ベベがあごを乗せている俺の腕が濡れてしまった。

 まあ、ビイさんも「ベベちゃん……!!」と感動してるんだし、いいことにしておきか。

 ほほえましいな。

 でも、言いたいことは言わなければならない。


「ビイさん、謝らなくてもいいですよ。 あなたのせいでもないですし」


 悪いのは全部向こうの骨ヤロなんだし。

 あの骨ヤロならともかく、ビイさんが謝る必要はない。

 そうビイさんをなだめると、メルリンさんが頬に片手を当て頭を斜めにした。


「んん? 何かあったのかしら」

「実はさっき、あそこにいる頭のおかしい骨ヤロがこの人の研究室を吹き飛ばしたんですよ」

「ああ、じゃあ仕方ないわね」

「そうだな。所長がやらかすのはいつものことだし。仕方ない」


 俺が言っておいてなんだが、それで済むのか。

 この反応を見る限り、レディンがやらかしたのは これが初めてじゃないようだ。後でロベランに話して詳しく調べてみよ。


「とにかく、そういうことなので、この研究の予算を追加したいと思うのですが、皆さんどう思いますか」

「ふむ、予算を……」

「あら、そんな予算残ってたかしら。今月の予算もギリギリだと聞いたけど……」

「そうじゃ! 予算なんて残っておらん!!」


 メルリンさんとローデンが難色を示した。ついでにレディンも。

 ていうか、レディン。お前のせいでこうなったんだからちょっとは反省しろ。良心はどこ行った。

……反省の気配もなさそうだし。これは罰が必要だなぁ。


「そこで提案なんですが。研究室を吹き飛ばした賠償も兼ねて、ビイさんの研究に入る予算を、レディンの研究予算から取ったらどうですか? 5パーセントくらいならちょうど良いと思いますが」

「なに!? そんなの俺は許さないぞ!!」


 当然、レディンは反対し出した。

 だが。


「良いわね。いくら研究所長でも罰は必要だし」

「俺も賛成だ」


 残りの二人は賛成だった。

 2対1。レディンの負けである。

 レディンがまた「この裏切り者ども~~~!!!」と暴れたが、ここにいる人の中でレディンのそんな反応を気にする人は一人もいない。あ、ビイさんを除いて。

 俺は怖がるビイさんを後ろに隠し、レディンに言った。


「レディンさん、暴れるのもほどほどにしてください。今回のことは全部あなたのせいでしょう」

「でも! それでも5パーセントはやりすぎじゃ!! そんなに削ったら今やってる研究も全部止まってしまう! お願いだから! せめて、2パーセント!2パーセントにしてくれ!!」


 レディンが必死に叫んだ。

 5パーセント削るとレディンの研究そのものが止まっちゃうのか。それは困るなぁ。

 ……はあ。仕方ない。


「はぁ、わかりました、じゃあ3パーセントにします」

「2パーセント! お願いじゃ、ナイト!」

「ダメです」

「ナイト! 何でもするから!! 2パーセントで頼む!」

「ダメです」


 他のことならここまではしないが。今回は罰と同時に、予算を奪われたくないなら他の研究室に迷惑をかけないように。という警告も兼ねている。これ以上、許すわけにはいかない。

 俺は釘を刺すように言った。


「3パーセント。これ以上の交渉はありません。これ以上ただを捏ねたら上に報告しますよ」


 俺が上に報告するとなると、今のこの実態が執事のロベランの耳に入ることになる。


 研究所でのロベランのあだ名は「削減大魔王」

 どんなことでも彼の手にかかれば、必ず予算が削られるため、そんな恐ろしいあだ名で呼ばれている。


 ちなみに研究所で俺は「研究所の救世主」という名で呼ばれている。

 どんな屁理屈を使うのかは知らないが、削減大魔王ロベランが削った予算を何とか回復してくれるかららしい。

 ABC兄妹がベビーカーを作ってほしいという俺のお願いを快く引き受けてくれたのも、このあだ名の影響が大きいだろう。後で予算関係で何かあった時、俺の助けを借りることになる可能性が高いから、事前に恩を売っておこうということだろう。

 ……実際は研究所の予算は、ロベランが削った予算を俺の私欲で追加しているに過ぎませんが。テヘペロ。


 とにかくロベランの耳にこの話が入ったら終わりって事だ。

 俺が3パーセントなら、このことがロベランの耳に入った時には10パーセントを超えるかもしれない。

 それを飽きるほど経験し、すでに身をもって知っているレディンは、結局悔しそうな顔で退いた。


「くっ! わかった。わかったよ。3パーセントで受け入れよう……」


 まだ悔しそうな顔をしているが、これ以上口論を続けるつもりはないようだ。


「おお、さすがナイト殿!!」

「やっぱりナイトちゃんね~~!!」

「ナイトさん、スゴイ! 研究所の暴君をあんなに簡単に……」


 俺たち二人の口喧嘩を見ていた研究員3人が感心した顔で拍手した。

 俺は少し恥ずかしそうに頬をかいた。


 そこで終わればよかったのだが。


「ふえ、ぷえええええーーーー!!!!」


 突然ベベが泣き出した。


「あれ!? なんで泣きだした……あ、またおむつか!! ごめんね、ベベちゃん。すぐに交換するから。もう泣かないでぇ」

「ぷえええええええええんーーーー!!!!」


 ですよね!泣かないわけがないですよね!!

 まったく。せっかくいい感じだったのに。全部台無しだな。



 

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